メインコンテンツまでスキップ

メタバースとAIを活用した感情支援システム

· 約40分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDを含む神経発達症に関する最新の研究を紹介し、発達障害のある子どもや大人の生活、教育、医療支援に関わる課題と可能性を多角的に探っています。内容は、ASD成人の病気と死亡リスクの経路、3歳未満児への親主導療育の効果、学校現場での予防的支援策、メタバースとAIを活用した感情支援システム、ABAの社会的妥当性、親のうつと信仰・心の強さの関係、ADHD薬の服薬継続に関する要因、診断ツールやゲーム型評価の有用性、モンテッソーリ教育の可能性、中国・カザフスタンでのASDの現状、そしてコロナ禍での障害児の身体・社会的健康への影響まで多岐にわたります。これらの研究は、当事者視点の尊重、客観的評価の導入、文化・地域ごとの理解の深化など、支援の質を高めるヒントに満ちています。

学術研究関連アップデート

Disease and mortality trajectories of cognitively able autistic individuals in mid- and later adulthood - BMC Medicine

この論文は、認知能力に問題のない自閉スペクトラム症(ASD)の成人が中年期〜高齢期にかけてどのような病気にかかりやすく、どのような死因リスクがあるのかを、英国の大規模データベース(UK Biobank)を使って調べた研究です。


🔍 研究の概要

  • 対象:ASDの診断がある成人659人(平均年齢52歳)と、同年齢・性別などが似た非ASDの人6590人
  • 方法:
    • *死亡リスクや病気の進行パターン(病気のなりやすさ・なり方)**を統計的に分析(Cox回帰・マルチステートモデルなど)

📊 主な結果

  • ASDの人は、すべての死因において死亡リスクが1.9倍(90%高い)
  • 全身の45の病気にかかるリスクが有意に高かった
  • 特に3つの疾患グループが「死亡につながりやすい経路」として浮かび上がった:
    1. 心血管系・糖尿病などの代謝性疾患
    2. 外傷などの外因的な病気
    3. 感染症
  • ASDの人は、複数の病気が連鎖的に進行する「多病併発(multimorbidity)」になりやすく、その進行パターンにも独自の特徴があった。

✅ 結論と意義

この研究は、ASDのある認知的に自立している成人でも、年齢とともに多くの病気にかかりやすく、死亡リスクも高いことを明らかにしています。特に、病気の進み方(どの病気からどの病気に移るか)にも特徴があり、予防や介入のタイミングを考えるうえで重要な知見です。


💡 要するに:

  • *「ASDのある中高年の人は、心臓病や糖尿病、感染症などに注意が必要で、病気が重なりやすく、早期対応が命を守るカギになる」**ということを、データに基づいて明らかにした研究です。家族や医療者が健康管理の際に気をつけるべき重要なポイントを教えてくれています。

Parent-Mediated Interventions for ASD Under 3 Years: A Systematic Review, Meta Analysis, and Moderator Analyses

この論文は、3歳未満の自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに対する「親が実施する療育(Parent-Mediated Interventions, PMI)」の効果をまとめて評価したシステマティックレビューおよびメタ分析です。


🔍 研究の背景と目的

  • 早期発見・早期介入が重要とされるASDにおいて、**親が自宅などで関わりながら行う介入(PMI)**が注目されています。
  • しかし、「どれくらい効果があるのか?」「どんな条件でより効果的になるのか?」は、はっきりしていませんでした。
  • 本研究では、過去の31本のランダム化比較試験(RCT)をもとに、効果の大きさと影響因子(モデレーター)を統計的に分析しました。

📊 主な結果

  • 全体としての効果は小さいが、確かにプラスの影響がある(Hedgesのg=0.20)
  • 特に効果が見られたのは以下の分野:
    • 適応スキル(g=0.29)
    • 親の応答性(g=0.23)
    • 親子間のやり取り(g=0.35)
    • 社会的コミュニケーション(g=0.18)
    • ASD症状の改善(g=−0.22)※数字がマイナス=症状軽減
  • 一方で認知能力、言語、運動能力に関しては有意な効果は確認されなかった
  • モデレーター(介入時間、地域、対象者の特性など)による違いは見られなかった。

🧪 エビデンスの質(GRADE評価)

  • 証拠の確実性は中程度〜低程度
  • よって、「効果はあるが、確実性には注意が必要」という結論。

✅ 要するに:

3歳未満のASDの子どもに対する親主導の介入は、「親子関係」や「日常でのやりとり」を通じて、子どもの社会性や症状の軽減に役立つことが多いということがわかりました。ただし、知能や言語発達などには明確な効果が見られなかったため、今後さらに質の高い研究が必要とされています。


💡補足:

  • 「PMI」は、専門家の代わりに親が日常の中で療育的関わりを行うもので、コスト面でも実施しやすく、家庭での自然な支援ができる点がメリットです。
  • 本研究の結果は、**「親による早期支援が一定の価値を持つこと」**を裏づけつつも、万能ではないことにも注意を促している点が重要です。

Bridging the Gap! Strategies to Prevent Challenging Situations in Educational Contexts Focusing on Students with Autism: Findings from a Scoping Review

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある生徒が学校で困難な状況(パニックや問題行動など)に陥らないようにするための予防的な支援策について、これまでの研究を広く整理したスコーピングレビューです。


🔍 研究の目的と方法

  • 学校現場で使われている**「困難な状況を未然に防ぐ戦略」**に関する文献を、量的研究・質的研究・混合研究を問わずに統合的に分析
  • 129本の研究がレビューの対象となり、テキスト分析により8つの主要戦略が特定されました。

📚 主な発見

  • 学校では、ASDの生徒にとって予防的に有効とされる8つの戦略が使われていることがわかりました(※戦略の具体的中身は本文に記載)。
  • しかし多くの研究では、「学習環境そのもの」と生徒との関係性に注目したものは少なかった
  • また、生徒本人の体験や声を重視した研究が乏しいことや、長期的な効果を追った研究が少ないことも問題として挙げられています。

✅ 結論と意義

このレビューは、ASDの生徒を取り巻く困難な状況を“起こってから対応する”のではなく、“起こる前に予防する”ための学校での戦略に注目した貴重な文献整理です。現状の研究の偏りや不足点も明らかにされており、今後の研究や教育実践に向けて重要な方向性を提示しています。


💡 要するに:

ASDのある生徒が学校でトラブルに直面しにくくするためには、予防的な支援が有効だが、まだその全体像は十分に研究されていない。特に、生徒本人の声や学習環境との関係に注目した研究が今後必要――ということを教えてくれるレビューです。

Optimized deep learning in a metaverse environment for autistic child support

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもが抱える感情的な困難に、メタバース環境と深層学習を活用してリアルタイムで支援するシステムを提案した研究です。


🔍 わかりやすく解説すると:

ASDの子どもは、突然の不安・怒り・悲しみなどの感情表出が起こりやすく、そのときに周囲の大人がすぐに気づいて対応するのが難しいという課題があります。そこでこの研究では、

  1. 表情をリアルタイムで読み取るAI(Xceptionモデル)
  2. 感情を検出した際に「保護者の声のアバター」が登場して子どもを安心させる

という2つの仕組みを統合したシステムを開発しました。


🧠 技術のポイント

  • Xceptionモデル:顔の感情認識に強い深層学習モデル。
  • MHO(カバ最適化アルゴリズム):Xceptionモデルの精度をさらに高めるために使われた新しい最適化手法。
  • 感情を検出すると、保護者の声と顔に似せたアバターが出現して声かけするという「メタバース型の介入」も導入。

📊 実験結果

  • 感情認識の正確さ(精度)は以下の通り:
    • CK+データセット:99.61%
    • FER2013(一般的な顔画像):82.68%
    • ASD児童専用データセット:97.18%

つまり、ASDの子ども向けの感情検出において非常に高い精度を達成したことがわかります。


✅ 結論と意義

この研究は、AIとメタバース技術を活用して、ASD児の感情的な変化に即応できる支援環境を構築する新たな可能性を示しています。特に、「親のアバター」が出現して声をかける仕組みは、子どもにとって安心感を与える効果が期待できるとされています。


💡 要するに:

「ASDの子どもが困っているときに、AIが表情を読み取り、“親そっくりのアバター”が登場して声をかけてくれる」――そんな仕組みを、メタバースと深層学習で実現しようとした研究です。リアルタイムの感情検出と支援介入が可能になることで、ASD児の安心・自立をサポートできる未来が描かれています。

Social Validity and Contemporary Applied Behavior Analysis

この論文は、応用行動分析(ABA)の実践において「ソーシャルバリディティ(社会的妥当性)」=その支援が当事者や社会から見て本当に意味があり、望ましいものかどうかを評価する視点が、もっと重視されるべきだという提言をしています。


🔍 どんな内容?

著者らは、ABAが近年多くの批判を受けている現状をふまえ、それを「改善のチャンス」として捉え、以下の3つの観点からABAの再評価を呼びかけています。

  1. ABAとは何を指すのか?
    • 世間ではしばしば「ABA=療育の一手法」と思われがちですが、著者らは「**ABAは本来、行動に関する科学的研究分野(discipline)**であり、特定の方法論(intervention)を意味するものではない」と強調しています。
  2. ABAは“手法”ではなく“学問”である
    • 実際の現場で使われる「DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)」や「PRT(ピボタル・レスポンス・トレーニング)」などはABAに基づく“介入”に過ぎず、それらをABAそのものと混同すべきではないと述べます。
  3. ソーシャルバリディティ(社会的妥当性)のとらえ方
    • 支援の“効果”だけでなく、「その支援が当事者にとって望ましいか?納得できるか?」という視点が欠かせないと主張。これは医療分野における“患者中心の医療”に似た視点で、当事者の主観的な納得や尊厳も大切にすべきだと論じています。

✅ 要するに:

この論文は、「ABAは科学であり、柔軟に進化し続けるべきものだ」という立場から、当事者の声や社会的な視点を取り入れた自己評価と改善が必要だと提言しています。支援の効果だけでなく、その支援が“誰にとっての成功か”を問い直すことが、これからのABAには欠かせないという、現代的で重要なメッセージを含んだ論考です。

Family Hardiness, Religiosity/Spirituality, and Depression in Mothers and Fathers of Children With Disabilities

この研究は、発達障害のある子どもを育てる母親・父親の「うつ症状」と、その背景にある「心の強さ(ハーディネス)」や「信仰・スピリチュアリティ(宗教性)」の関係性を明らかにしようとしたものです。


🔍 研究のポイント

  • 対象者:217組の両親(うち184組が障害のある子ども、33組が定型発達の子どもを持つ家庭)
  • 仮説
    1. *ハーディネス(困難を乗り越える力)**が高い親ほど、うつ症状が少ない
    2. *信仰心や精神性(R/S)**が高い親も、うつが少ない
    3. これらの関係は、「障害の有無」によって違いが出るかもしれない

📊 主な結果

  • ハーディネスが高い母親・父親ほど、うつ症状が少なかった

    → 特に父親では、信仰よりもハーディネスの方が影響が大きい傾向

  • 信仰心(R/S)が高い母親も、うつが少なかった

  • ただし、子どもに障害があるかどうかで、この関係に大きな違いはなかった


✅ 結論と意義

  • 「心の強さ(ハーディネス)」は、親の心の健康(うつ症状)と強く関連する
  • 特に、信仰は母親のうつ軽減に有効な可能性があり
  • 子どもの障害の有無に関わらず、親支援では「家族の強みに着目したサービス設計」や「必要に応じて信仰に関する会話」を取り入れることが有効

💡 要するに:

「困難に前向きに立ち向かう力」と「信仰・精神的なよりどころ」は、親のうつを軽減する大切な要素であり、子どもに障害があるかどうかにかかわらず重要ということを示した研究です。支援者は、こうした強みを活かした家族中心のサポートを設計することが勧められています。

Factors Associated With Medication Adherence Among Patients With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD)

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある人が処方された薬をどれくらいきちんと飲んでいるか(服薬アドヒアランス)を調べ、そのアドヒアランスに関係する要因を明らかにしようとしたものです。


🔍 研究の概要

  • 対象者:2021年5月〜2023年5月にADHDと診断された4歳以上の7,661人
  • 服薬率:そのうち薬を処方されていたのは55.4%(4,242人)
  • アドヒアランス評価対象:4,011人
    • 「80%以上きちんと服薬していた人」はわずか27.5%(1,113人)
    • *平均の服薬率は56%**と、全体的に低め

📊 主な発見

  • 服薬アドヒアランスが高かった人の特徴
    • 成人
    • 精神科(BH)やプライマリケア(PCP)の受診回数が多い
  • 服薬アドヒアランスが低かった人の特徴
    • 人種・民族的マイノリティ
    • 抑うつ症状が重い
  • また、思春期を迎える頃から服薬の継続が難しくなる傾向も見られた

✅ 結論と意義

  • ADHDと診断されても、約半数しか薬を処方されていない
  • 処方された人のうち、実際にきちんと服薬している人はさらに少ない
  • 年齢、抑うつ症状、医療サービスの利用状況、社会的要因(保険、貧困など)がアドヒアランスに大きく関係している
  • よって、医療者は「うつの併存」や「社会的サポートの不足」に配慮し、**服薬の継続を支える取り組み(例:定期フォロー、支援体制の構築)**が必要

💡 要するに:

ADHDの治療薬は効果的であるにもかかわらず、実際には服薬を続けられていない人が多い。とくに10代〜成人への移行期や、うつ・生活困難を抱える人たちへの支援の充実が鍵だと示した重要な研究です。

The Strengths and Weaknesses of Attention-Deficit/Hyperactivity Symptoms and Normal Behaviors Scale (SWAN): Diagnostic Accuracy and Clinical Utility

この研究は、ADHDの診断に使えるかどうかを検証するために、「SWANスケール(Strengths and Weaknesses of ADHD Symptoms and Normal Behavior)」の信頼性や有用性を、実際のクリニック受診児童を対象に調べたものです。


🔍 SWANスケールとは?

SWANは、ADHDの症状を「困難さ(弱さ)」だけでなく、「強み」も含めて測定する珍しい評価尺度です。つまり、子どもの行動を「普通〜非常に得意」までの広い範囲でとらえることができます。


🧪 研究の内容

  • 対象:ADHDの疑いで評価を受けた6〜11歳の子ども357人
  • SWANと他の評価ツールとの関係を調査:
    • SDQ/HI(多くの子どもに使われるADHD傾向評価尺度)
    • IRS(実生活での困難さ=機能障害を測るスケール)

📊 主な結果

  • SWANの合計スコアと「多動・衝動性(HI)」サブスケールは、SDQ/HIと強い相関(r = 0.69・0.65)→ 他のADHD測定と整合性がある
  • 「不注意(AD)」サブスケールの相関はやや弱め(r = 0.49)
  • 日常生活への影響(IRS)との相関は中程度(r = 0.33)
  • ADHD診断の有無を区別する力(AUC)は0.71と中程度で、感度83%・特異度47%
    • 感度:ADHDの子どもを見逃さない力は高い
    • 特異度:ADHDでない子を正しく判別する力はやや低い

✅ 結論と意義

この研究は、SWANが「ADHDの可能性を広く拾い上げるスクリーニングツール」として有用であることを示しました。特に、「多動・衝動性」の評価では他の評価尺度と整合性が高く、臨床現場で補助的に使う価値があるといえます。


💡 要するに:

SWANは、ADHDの子どもを見逃しにくく、症状の強さだけでなく“強み”まで把握できるバランスの良い評価ツール。ただし、誤ってADHDでない子を陽性とすることも多いため、単独での診断には慎重さが必要という点も押さえておくべきです。

Discriminative Power of the Serious Game Attention Slackline in Children and Adolescents With and Without Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Validation Study

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)の診断支援ツールとして「Attention Slackline」という“ゲーム型評価ツール”が有効かどうかを調べたものです。特に、子どもと10代のADHDの有無を、このゲームでどれくらい判別できるかが焦点です。


🔍 研究の目的

ADHDの診断は通常、保護者や教師の主観的な観察に基づく評価が中心で、バイアスの可能性があります。そこで、ゲームを使って客観的にADHDの特徴(特に多動性・衝動性)を測る手法が注目されています。


🎮 Attention Slacklineとは?

  • プレイヤーの注意力や反応のコントロール力を測る設計になっている“まじめなゲーム”(Serious Game)。
  • 子どもが興味を持ちやすいインタラクティブな形式で、集中力の乱れや衝動的な行動を数値化できます。

🧪 研究方法と参加者

  • ADHDと診断された子ども・青年:32名
  • 健常な子ども・青年:39名
  • 年齢層:
    • 子ども(6〜11歳)
    • 思春期(12〜17歳)
  • ゲームによる評価と、**従来の診断スケール(例:ADHD-RS IV)**の両方を実施。

📊 主な結果

  • 子どものグループでは、ADHDの子どもがゲームで有意に低いスコア(集中力の低さ・衝動性の強さを示唆)。
    • 効果量も大きく(d=0.901)、明確に差が見られた。
  • 思春期のグループでは差が出なかった(d=0.191)。
  • 子どものスコアは、保護者が報告した「多動・衝動性」と強く相関(r=-0.43〜-0.51)。
  • 思春期では有意な相関なし

✅ 結論と意義

  • Attention Slacklineは、特に子ども(6〜11歳)のADHD評価に有効であることが確認された。
  • ゲーミフィケーション(ゲーム化)により、子どもが集中して取り組みやすく、実用性も高い
  • 一方、思春期以降では「発達に伴う代償的スキル」や「ゲームの難易度が合っていないこと」が原因で効果が薄れる可能性がある。

💡 要するに:

「Attention Slackline」は、ADHDの子どもに特有の衝動性や注意の偏りをゲームで客観的に測ることができ、診断の補助ツールとして有望です。ただし、思春期以降は工夫が必要であり、年齢や個人特性に応じた難易度調整が今後の課題とされています。

Frontiers | Global Autism Prevalence, and Exploring Montessori as a Practical Educational Solution: A Systematic Review

この論文は、世界的な自閉スペクトラム症(ASD)の有病率やリスク要因を整理しつつ、「モンテッソーリ教育」がASDの子どもにとって有効な教育アプローチになり得るかどうかを系統的に検討したレビュー研究です。


🔍 要点をかみ砕いて解説すると…

  • ASDは社会的コミュニケーションや行動に困難がある発達障害で、その原因はまだ完全には解明されていません。
  • 遺伝的要因は50〜80%の影響力を持つとされ、親の年齢、大気汚染、妊娠中の感染症などの環境因子も関係しています。
  • 代表的な支援法には、応用行動分析(ABA)、言語療法、作業療法、感覚統合療法などがあり、AIやバーチャルリアリティ、腸内環境への介入といった新しいアプローチも登場しています。
  • 薬物治療(例:リスペリドン、アリピプラゾール)は一部の症状緩和には有効ですが、ASDの本質的な特性には直接効かないとされています。

🎓 モンテッソーリ教育に注目!

このレビューの特徴は、感覚を使った個別対応のプレイベース教育である「モンテッソーリ法」がASDの子どもに与える効果に注目している点です。

  • モンテッソーリ法は、子ども自身の興味・発達段階に合わせて進める自由度の高い教育
  • 特にASDの子どもにとって、
    • 感覚的な刺激の調整
    • 他者との自然な関わり方の練習
    • 自己選択による学習意欲の向上
    といった点で有効な支援手段となり得ることが、いくつかの研究で示されています。

✅ 結論

この系統的レビューは、ASDに関する地理的な有病率の偏りやリスク要因を明らかにすると同時に、モンテッソーリ教育が有望な教育的介入になりうることを示唆しています。特にリソースが限られた国や地域では、低コストで柔軟な支援法としてのモンテッソーリ法の研究や実装が今後重要になる可能性があります。


💡 要するに:

ASDの支援には多様な方法がありますが、感覚重視で個別対応に強いモンテッソーリ教育は、特に子どもの社会性やコミュニケーション力の向上に有効で、今後さらなる検証が期待される――という内容のレビュー研究です。

Frontiers | Chinese Caregivers' Experiences Parenting Children with Autism Spectrum Disorder: A Descriptive Qualitative Study

この論文は、中国における自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもを育てる保護者の体験を、感情面と親としての役割意識に焦点を当てて質的に記述した研究です。インタビュー調査により、中国特有の文化的背景の中で保護者がどのような思いを抱き、どのような困難に直面しているのかを明らかにしています。


🔍 主な内容と発見されたテーマ

  1. 「普通の子になってほしい」という願いを手放せない

    → 保護者はどこかで「わが子もきっと普通に成長してくれるはず」という希望を持ち続けており、それが現実とのギャップで苦しみを生む。

  2. 子どもの発達が親の期待に反して進む

    → 他の子と比べてしまい、「なぜうちの子は違うのか」と感じる場面が多く、落胆や戸惑いが大きい。

  3. 診断を受けたときの感情の変遷

    → 最初は否定・混乱・怒りなどがあり、徐々に受容へと変化していく感情の流れがある。

  4. 「与えられた人生を耐え抜く」という姿勢

    → 日々の困難や社会からの偏見に耐えながら、「これが自分の人生だ」と受け入れざるを得ない覚悟がにじむ。


✅ 結論と意義

この研究は、中国社会におけるASDのある子どもの親の感情と役割意識に光を当て、その苦悩や希望、葛藤のリアルな姿を描いています

特に、**西洋とは異なる文化的期待(例:子どもは家族の期待に応えるべきという価値観)**が、親の苦しみをより複雑にしていることが明らかになっています。


💡 要するに:

「うちの子も普通になってほしい」という強い願いと現実とのギャップに苦しみながらも、愛情をもって育て続ける中国の保護者たちの生の声を丁寧に掘り下げた研究です。

こうした理解は、当事者支援の深化や社会的共感の醸成につながる貴重な手がかりになります。

この論文は、**カザフスタンにおける自閉スペクトラム症(ASD)および他の神経発達症の流行状況の変化(2016〜2022年)**を明らかにした疫学研究です。国の医療データベースを用いて、地域別・全国的な診断数の推移と傾向を分析しました。


🔍 主な結果とポイント

  • 小児自閉症の診断件数は約5倍、非定型自閉症は約4倍に増加(いずれも統計的に有意)。
  • 一方で、「神経発達症全般」の増加傾向は有意ではなかった。
  • 地域差が顕著に見られ、北部地域の方が南部よりもASDの診断率が高かった。
    • その理由としては、医療インフラの違い、都市化の度合い、環境汚染の影響などが考えられる。
  • 首都アスタナでは、2022年に小児自閉症の有病率が10万人あたり263.7人に達した。
  • 増加傾向は「発症者が増えた」というよりも、認知度や診断技術の向上を反映している可能性が高いとされています。

✅ 結論と意義

この研究は、カザフスタンにおけるASDの診断数が近年急増していることを示す初の包括的データを提供しています。とくに、地域による格差や診断体制の違いが浮き彫りになったことは、将来的な政策立案にとって重要です。


💡 要するに:

  • *カザフスタンではここ7年間で自閉症の診断数が急増しており、これは認知度や診断の進歩を反映したものと思われる。北部と南部で診断率に差があり、都市化や医療体制が影響している可能性がある。**今後は、こうした地域差の是正や早期発見体制の整備が求められています。

この研究は、アメリカに住む障害のある子どもたち(CWD:Children With Disabilities)が、COVID-19パンデミックによってどのような影響を受けたかを、保護者へのアンケートを通じて明らかにした調査です。特に、社会的・心理的な変化、身体活動の量、社会的脆弱性(SVI)との関連に注目しています。


🔍 主な結果とポイント

  • 60%以上の保護者が「パンデミックが子どもの幸福に悪影響を与えた」と回答
  • 70%以上の子どもが「より社会的に孤立している」
  • すべての回答者が「子どもに行動の変化があった」と報告
  • 約74%の子どもが以前より外出が減り、推奨される1日60分の身体活動を達成しているのはわずか26%
  • 主な障壁は「COVID感染への不安」(64%)
  • 社会的脆弱性(SVI)の高低による差は、医療や支援へのアクセス、身体活動、心理的影響などいずれの項目にも統計的に有意な違いはなかった

✅ 結論と意義

この研究は、COVID-19が障害のある子どもたちの社会的・感情的・身体的な健康に広範な影響を及ぼしたことを示しています。とくに、外出機会や身体活動の減少、社会的孤立の増加が深刻であることが明らかになりました。また、社会的脆弱性の高低に関わらず、影響は広く共通していたという点も重要です。


💡 要するに:

  • *「障害のある子どもたちは、パンデミックによって外に出る機会が減り、行動や感情に変化が見られ、社会的にも孤立しがちになった」**という現実を、保護者の視点から裏付けた研究です。今後は、身体活動や社会参加の回復をどう支えるかが重要な課題とされています。