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ASDのある子どもの触覚を通じた共同注意の使用傾向

· 約27分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事は、発達障害やメンタルヘルスに関する最新の学術研究をまとめており、バーチャルリアリティやシリアスゲームといったデジタル技術を用いた介入法、親の心理的要因が子どもの行動に与える影響、カタトニアや認知症といった併存症状の理解、高齢期のASDやアイデンティティ形成といったライフスパンにわたる課題、感覚モダリティによる共同注意の差異、さらには遺伝子研究に基づくASDのリスク要因など、多角的な視点から発達支援とその科学的根拠を整理した内容となっています。

学術研究関連アップデート

Why Use Virtual Reality as a Treatment for Children and Youth’s Mental Health and Wellbeing: A Review

この論文は、バーチャルリアリティ(VR)が子どもや若者のメンタルヘルス支援にどう活用できるかを整理・評価したレビュー研究です。VRを使ったメンタルヘルス介入が近年増えている一方で、特に子ども・若者に特化した科学的な研究はまだ限られていることから、その可能性と課題を丁寧に掘り下げています。


🔍主な内容とポイント

  1. VRの3つの強み
    • リアルな体験空間の提供 → 恐怖症の練習やストレス軽減などに応用可能。
    • 個別に最適化された環境の設計 → 利用者のニーズに合わせてカスタマイズされたセラピーができる。
    • キャラクターとの対話 → 仮想キャラとの会話や関わりで、社会性や感情調整の練習が可能。
  2. 研究上の課題
    • 年齢ごとの反応や適応に関するデータが不足。
    • 子どもや臨床家がアバター化されたときの影響の研究が少ない。
    • 同じ条件で繰り返し再現された再現性の高い研究がまだ少ない。
  3. 倫理的な配慮
    • 没入体験が強いため、現実との区別がつきにくくなるリスクや、刺激過多の問題がある。
    • 個人情報の扱い、使用時間の管理なども慎重な設計が必要。

✅結論と意義

この論文は、VRが子どもや若者の心のケアにおいて大きな可能性を秘めている一方で、慎重な設計と年齢特性への理解が不可欠であることを明確にしています。今後の研究と実践では、臨床家や研究者が協力して、安全で効果的なVR療法の枠組みを構築していく必要があると強調されています。


要するに、「VRは子どもや若者のメンタルヘルスに使えるか?→可能性は大きいが、まだ研究不足で慎重に進める必要あり」ということを、現状の技術と倫理的課題を踏まえて解説した論文です。

Autism and Dementia: A Summative Report from the 2nd International Summit on Intellectual Disabilities and Dementia

この論文は、「高齢の自閉スペクトラム症(ASD)当事者における認知症のリスクや特徴」について、国際的な専門家グループが話し合った内容をまとめたものです。2025年に開催された第2回「知的障害と認知症に関する国際サミット」の成果の一部であり、特に自閉症と認知症との関係に注目しています。


🔍 背景と問題意識

  • 自閉症はもともと「子どもの発達障害」として理解されてきましたが、高齢期にどう影響が続くかはあまり研究されていません
  • そのため、「年をとった自閉症の人たちがどんな健康課題を抱えるか」「認知症になるリスクはあるのか」といった疑問が注目されています。

🧠 主なポイント

  1. 高齢の自閉症者に関する情報が不足
    • 年齢を重ねた自閉症者のデータや支援に関する研究が極めて少ない。
  2. 遺伝的・神経的なつながり
    • 自閉症と他の神経発達障害(ダウン症、脆弱X症候群、結節性硬化症など)には共通する遺伝的要因がある
    • これらの遺伝的要因が、加齢による健康問題や認知機能の低下に影響している可能性がある。
  3. 認知症との関係
    • 現時点で、自閉症と認知症の直接的な因果関係は不明。
    • ただし、特に「前頭側頭型認知症(FTD)」との関連性が示唆されている
    • ダウン症などの知的障害を併発している場合は、認知症のリスクが高まることも確認されている。
  4. 今後の展望
    • バイオマーカー(生体指標)による研究や早期発見の仕組みが重要。
    • 高齢の自閉症者にとっての認知的健康を守るために、さらに多くの研究と支援体制の整備が求められる

✅ 結論

この報告は、「高齢になった自閉症の人たちは、認知症を含む健康リスクを抱えている可能性がある」という重要な視点を提示しています。しかしその実態はまだ十分に調査されておらず、今後の研究と支援の充実が急務です。特に、医療や介護現場における理解と準備が必要であることが強調されています。


要するに、「自閉症は高齢になっても続く特性であり、認知症などの加齢による問題とどう関わるのかはまだ解明されていないが、重要な研究課題」というのがこの論文のメッセージです。

Associations between Parental Protective Factors and Child Behavioral Problems in Children with ADHD and ASD

この論文は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のある子どもたちの行動問題と、それに対する親の「保護的要因(レジリエンスやエンパワーメント)」との関係を調べた研究です。特に、これまであまり注目されてこなかった**「親の強さが子どもの問題行動にどう影響するか」**という点に焦点を当てています。


🔍 研究の概要

  • 対象:5〜15歳のADHDまたはASDの診断を受けた子どもたち(平均年齢11.1歳)とその親(97%が母親)
  • 調査内容:親が
    • 自身のレジリエンス(困難に柔軟に対処する力)

    • エンパワーメント(自己効力感・環境への働きかけの意識)

    • 子どもの内在化行動(不安、抑うつなど)と外在化行動(攻撃性、不注意、多動など)

      をアンケートで回答。


📊 主な結果

  • 子どもが若いほど外在化行動が多い傾向があった。
  • 親のレジリエンスが高いほど、子どもの外在化行動が多いという意外な結果が見られた。
    • これは「問題行動の多さに適応するために、親がレジリエンスを高めている」可能性を示唆。
  • 親のエンパワーメント(育児に対する自信やコントロール感)は、子どもの問題行動とは明確な関連が見られなかった

✅ 結論と意義

  • この研究は、**「レジリエンスの高い親ほど、問題行動のある子どもを持つ傾向がある」**という逆説的な関係に注目し、親が問題に適応しようとしている姿勢が行動として現れている可能性を指摘しています。
  • 親の強さ=子どもの行動改善に必ずしも直結しないという結果から、今後はより多角的な視点(例:家庭環境、支援体制、ストレス要因など)で研究が必要であるとされています。

要するに、「子どもの行動問題に対して、親のレジリエンスは重要な適応メカニズムであるかもしれないが、直接的な解決策ではない」ことを示した研究であり、支援者は親子関係全体の文脈を捉える必要があるというメッセージが込められています。

この論文は、アルツハイマー病(AD)と関係のある遺伝子の変異が、自閉スペクトラム症(ASD)の発症リスクにも関係しているかどうかを調べた研究です。ASDとADは一見まったく異なる病気に思えますが、脳の神経ネットワークや炎症に関わる共通のメカニズムが存在する可能性が指摘されています。


🔍 研究の内容

  • 対象:イラクの6〜12歳の子ども270人(ASD児135人+年齢・性別を合わせた対照群135人)
  • 調べた遺伝子:ADに関係するとされる5つの遺伝子多型(変異)
    • NECTIN2 (rs6859)
    • CR1 (rs670173)
    • CLU (rs7982)
    • ABCA7 (rs3764650)
    • BIN1 (rs744373)
  • 手法:T-ARMS PCR(遺伝子の特定方法)と統計分析(カイ二乗検定とオッズ比)

📊 主な結果

  • 3つの遺伝子変異がASDと有意に関連していました:
    • CR1 rs670173(p = 0.007)
    • CLU rs7982(p = 0.010)← 特に6〜9歳の男児でリスクが高い
    • BIN1 rs744373(p = 0.013)
  • 他の2つ(NECTIN2、ABCA7)は有意な関連なし
  • 性別によって影響の強さに差があり、男児の方がリスクが高く出た
  • 血液検査などの生化学的な値には有意な差はなし

✅ 結論と意義

この研究は、アルツハイマー病と共通の遺伝的要因がASDの発症にも関わっている可能性を示唆しています。特に、神経炎症やシナプス(神経のつながり)に関係する遺伝子の変異がASDリスクを高めるかもしれないという興味深い結果です。


要するに、「認知症に関係する遺伝子が、自閉症にも影響しているかもしれない」という新しい視点を提供した研究であり、脳の発達と加齢にまたがる共通のメカニズムに注目する必要性を提起しています。

Systematic Review of Symptoms of Catatonia in Autism Spectrum Disorder

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人に見られる**カタトニア(緊張病)**の症状について、**過去の研究を体系的に調査(システマティック・レビュー)**し、現行の診断基準では見落とされがちな症状を明らかにしようとしたものです。


🔍背景と目的

  • カタトニアとは、運動機能・言語・感情・意識などに著しい変化が起こる神経精神症状群で、ASDのある人にも比較的高い頻度で見られます。
  • しかし、ASDとカタトニアは**症状が重なる部分(例:反復行動、社会的無関心、エコラリアなど)**が多く、見逃されやすいという課題があります。
  • 本研究の目的は、ASDの人に現れるカタトニアの症状を広く整理・分類し、より的確な診断や支援につなげることです。

🧪研究方法

  • 1980年以降に発表された英語の査読付き論文45本を対象に、質的フレームワーク分析を実施。
  • 国際疾病分類(ICD-11)に基づく診断基準を超えて、ASDの人に特有のカタトニアの症状パターンを整理しました。

📊見つかった6つの主要な症状クラスター

  1. 運動機能の変化(例:動きが極端に少なくなる、奇妙な姿勢)
  2. 発話の異常(例:言葉が出ない、意味の通らない発言)
  3. 行動や機能の変化(例:突然スキルが退行、自傷行為)
  4. 精神的な症状(例:うつ状態、不安、混乱)
  5. 生理的な変化(例:食欲の変化、睡眠の異常)
  6. 覚醒や意識の異常(例:ボーッとする、過覚醒)

➡️ 特に注目すべきは、ICD-11の診断基準に含まれていない症状(チック、運動への過剰な従順さ、意味のない発話、自傷、認知の低下など)がASDの人に頻繁に見られた点です。


✅結論と意義

この研究は、ASDの人におけるカタトニアの理解を深めるうえで非常に重要です。現在の診断基準では捉えきれない症状が存在し、それらを見逃すと重症化するリスクがあるため、臨床家がより広範な視点でカタトニアを認識し、早期に介入する必要性が強調されています。


要するに、「ASDの人のカタトニアはもっと多様で複雑。今の診断基準では見逃しがちなので、もっと柔軟に症状を捉える必要がある」ということを、過去の文献から裏付けた研究です。

‘Being Autistic is Kind of Who You Are, It’s an Identity Rather than a Disorder’: Identity Negotiation and Construction Among Autistic Adults Diagnosed in Later Life

この論文は、大人になってから自閉スペクトラム症(ASD)と診断された人たちが、自分の「自閉的アイデンティティ(=自閉症であることを自分の一部として受け入れる感覚)」をどのように見つけ、育てていくのかを明らかにしようとした研究です。


🔍背景と目的

  • 大人になってからASDと診断される人が増えている一方で、その人たちが診断後にどのように「自分らしさ」を再構築していくかに関する研究はまだ少ないのが現状です。
  • 本研究は、そうした「後年診断の当事者」の経験や心の変化を深く理解し、支援につなげることを目的としています。

🧪研究方法と参加者

  • ASDと大人になってから診断された8人を対象にインタビューを実施。
  • *質的研究(テーマ分析)**を通して共通する経験や思いを抽出し、新しい「アイデンティティ発達の枠組み」を作成。
  • その枠組みを、既存の心理学モデル(Cognitive Adaptation Model)と比較して検討しました。

📚見つかった主なテーマ

  • 診断を受けた後の自分の捉え方の変化
  • 周囲からの理解や支援の影響(家族、専門家、SNSやメディアなど)
  • 仲間との出会いや共感によって自己理解が進んだ体験
  • 「自閉症は障害というより、自分らしさの一部だ」と感じるようになる過程

✅結論と意義

  • ASDを**「障害」として受け止めるよりも、「自分の個性やアイデンティティの一部」として肯定的に捉えることが、心理的な安定や幸福感につながる**ことが明らかになりました。
  • そのためには、共感しあえる仲間・メディア表現・理解ある専門職などの支援の存在が極めて重要です。
  • 本研究で提案された新たな枠組みは、今後、診断後の心理支援や自己理解のサポート設計に活用できる実用的な知見を提供しています。

要するにこの研究は、「大人になってからASDと診断された人が、自分らしさを再定義し、自閉的アイデンティティを受け入れていく道のり」を丁寧に描き出したものであり、支援のあり方にヒントを与える重要な報告です。

Exploring Tactile Initiation of Joint Attention in Autistic Children

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもが「共同注意(Joint Attention)」をどのように始めるかに注目し、特に触覚(タッチ)を通じた共同注意の使用傾向を調べたものです。


🔍背景と目的

  • 共同注意(IJA:Initiation of Joint Attention)とは、他者と何かを一緒に見たり指さしたりすることで、「ねえ、あれ見て!」というような他者との関心の共有行動を指します。
  • ASDのある子どもは、視線や声かけといった視覚・聴覚によるIJAが苦手だとされていますが、本研究ではあまり注目されてこなかった触覚(タッチ)によるIJAに焦点を当てています。

🧪研究の方法

  • *生後36ヶ月までの乳幼児60名(うち16名が後にASDと診断)**を追跡。
  • 1歳・2歳の行動記録(CSBS-DP)からIJAの様子をビデオで分析
  • 感覚の種類ごと(視覚・聴覚・視聴覚の組み合わせ・触覚)にIJAの頻度をカウント。

📊主な結果

  • ASDの子どもは、視覚・聴覚・視聴覚のIJAが少ない傾向が見られた。
  • 一方で、触覚によるIJA(人を触って注目を促すなど)は定型発達の子どもより多かった
  • 興味深いのは、1歳時点の触覚IJAの頻度が、2歳時点の社会的症状と関連していたこと。
    • 全体の子どもでは、触覚IJAが多いほど社会性が高い傾向(ポジティブな相関)。
    • ASD群では、触覚IJAが多いほど社会的な困難が強い傾向(ネガティブな相関)。

✅結論と意義

  • ASDのある子どもは、視線や声かけではなく、触るという方法で相手との関わりを持とうとする傾向がある
  • ただし、それが社会性の発達とどう関わるかは複雑であり、個人差や文脈によってその意味合いが変わる可能性がある。
  • 本研究は、IJAの多様な感覚モダリティ(視覚・聴覚・触覚)への注目が、ASDの早期発見や支援方針に役立つ可能性を示しています。

要するに、「ASDの子は人と関わるときに“見る・話す”より“触る”ことが多い。その違いを理解することで、将来の支援や診断につながるヒントが得られる」という研究です。

Effectiveness of Serious Games as Digital Therapeutics for Enhancing the Abilities of Children With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD): Systematic Literature Review

この論文は、注意欠如・多動症(ADHD)のある子どもたちのために「シリアスゲーム(治療を目的としたゲーム)」がどの程度効果的かを調べた**系統的レビュー(文献調査)**です。


🔍背景と目的

  • ADHDは子どもに多くみられる神経発達症で、長期的な支援が必要です。
  • 薬による治療は副作用の心配があり、代替療法への関心が高まっています
  • その中でも、**楽しみながら注意力や行動のコントロールを鍛える「シリアスゲーム」**が注目されています。

🧪研究の方法

  • 2010〜2024年に発表された英語の研究論文35本(合計1408人の子ども)を分析。
  • ADHDの子どもを対象にした、シリアスゲームによる治療効果を調査。
  • 効果の評価項目には、**注意力、衝動性、多動性、社会スキル、運動スキル、実行機能(自己管理力)**などが含まれます。

📊主な結果

  • 80%の研究で注意力の改善が見られた
  • 約30%で衝動性・多動性の改善
  • 社会スキルの改善も一部確認
  • 実行機能(計画性や集中持続)にも良い影響
  • 運動スキルについては効果がはっきりしないが、身体を使うタイプのゲーム(体感型)では手と目の連携に効果あり
  • 9割近くの研究で、子どもたちはゲームへの高い満足感を示した

✅結論と意義

このレビューは、シリアスゲームがADHDの子どもにとって、有望な非薬物的な治療手段になり得ることを示しています。特に、楽しさと効果が両立しやすく、継続しやすいという利点が強調されています。


つまり、「遊びながら治療する」ゲーム型のアプローチが、ADHDの子どもにとって現実的かつ効果的な支援になりうると示した研究です。今後はさらに個々の特性に合わせたゲーム設計や、長期的な効果の検証が期待されます。