ASDのある子どもたちが視覚と運動のズレにどのように適応するか
本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)に関する2つの最新研究を紹介しています。1つ目は、ASDのある子どもたちが視覚と運動のズレにどのように適応するかを調べ、視覚的エラーを誇張して見せることで適応力の一部改善が見られる可能性を検証した実験研究です。2つ目は、重度の自傷行為で入院する成人患者(特に女性)の中に未診断のASDが存在する可能性を示したスクリーニング研究であり、精神科医療におけるASD診断の重要性と見逃し防止の必要性を訴えています。どちらも、ASDの理解と支援の在り方に重要な示唆を与える研究です。
学術研究関連アップデート
Do the enhanced errors impact visuomotor adaptation in children with autism spectrum disorder?
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちが**視覚と運動のずれにどのように適応するか(視覚運動適応)**を調べたもので、視覚的なエラー(ズレ)を強調することで、その適応が改善するかどうかを検証しました。
🔍 研究の概要
- 対象:6〜10歳の子ども35人(ASD児を含む)
- 内容:パソコン上の「中心から外へ手を動かす」課題を行い、その際に動かした手と画面上のポインタのズレ(視覚エラー)を見せる条件を2種類用意
- 通常のフィードバック(1:1)
- 誇張されたフィードバック(1:2) ←実際の動きよりもズレが大きく表示される
📊 主な結果
- 通常条件では、ASDの子どもは定型発達の子どもに比べて視覚運動の適応が弱いことが確認されました。
- 誇張フィードバックの条件では、ASDの子どももある程度の適応(後効果)が見られた=ズレに慣れようとする動きがあった。
- ただし、通常条件と誇張条件の間に有意な差はなく、完全に改善されるわけではなかった。
- また、ASDの子どもでは、手先の器用さ(微細運動スキル)と適応能力に関係があったという発見もありました。
✅ 結論と意義
この研究から、ASDのある子どもたちは視覚運動の適応が苦手な傾向があるが、視覚的なエラーを強調することで多少の改善が見られる可能性が示されました。しかし、それだけでは限界があるため、他の支援方法やアプローチの検討も必要であると述べられています。
要するに、「ズレを大げさに見せることでASD児の動きの適応が良くなるか?」という実験で、「多少効果はあるが、それだけでは不十分」とわかった研究です。
Screening for autism in psychiatric inpatients with severe self-harm - results from the Extreme Challenges research project
この研究は、「重度の自傷行為を繰り返す精神科入院患者の中に、実は未診断の自閉スペクトラム症(ASD)が潜んでいる可能性がある」という問題意識から実施されたものです。
🔍 研究の背景と目的
- 自閉症が特に成人女性で見逃されがちであることが近年問題視されています。
- 重度の自傷行為をする人は、しばしば境界性パーソナリティ障害(BPD)と診断されがちですが、実際には未診断のASDが背景にあるケースもあるかもしれません。
- 本研究では、自傷のために頻繁または長期の入院歴がある患者を対象に、ASDの可能性をスクリーニングしました。
🧪 研究の方法
- ノルウェー国内12病院で、**18歳以上の重度の自傷入院歴のある42名(女性40名、男性2名)**を 調査。
- ASDスクリーニングには「RAADS-R(リトヴォ自閉症・アスペルガー診断尺度 改訂版)」を使用。
📊 主な結果
- 参加者のうち4名(全員女性)が正式にASDと診断されました。
- RAADS-Rのスコアに基づくスクリーニングでは、もっと多くの人がASDの可能性ありと判定されました(カットオフを厳しくしても)。
- RAADS-Rのスコアが高い人ほど、不安、うつ、トラウマ症状が強く、感情調整や対人関係、自己理解(アレキシサイミア)に困難を抱えていました。
✅ 結論と意義
この研究は、重度の自傷を繰り返す患者には、未診断のASDが隠れている可能性が高いことを示しています。そしてそれを見逃すことで、不適切な診断や治療が患者の苦しみを悪化させている可能性もあります。
💡 ポイント
この論文は、精神科医療現場で「境界性人格障害と誤診されているかもしれないASDの人たち」に対して、早期かつ正確なスクリーニングと理解が重要であること を強く訴えています。特に女性のASD診断の見逃しを防ぐことが、今後の課題です。