文化・言語を越えてASD児の食事行動を評価可能にする尺度(BAMBI)の妥当性検証
本記事は、発達障害領域における「支援のつながり方・診断枠組み・補完的介入・早期発見・評価ツール整備」に焦点を当てた最新研究を横断的に紹介しています。具体的には、①ABAと外来精神科が分断されがちな現状を乗り越える協働ケアモデル、②選択性緘黙と自閉スペクトラム症を排他的に扱ってきた診断基準の限界を示す全国規模データ、③ドッグ・アシステッド・セラピーを補完療法として慎重に位置づけるRCT、④眼疾患がADHD/ADDの早期リスク指標になり得ることを示した大規模コホート研究、⑤文化・言語を越えてASD児の食事行動を評価可能にする尺度(BAMBI)の妥当性検証といった研究が取り上げられています。全体として本記事は、「単一の診断・単一の治療」に依存せず、医療・行動支援・教育・評価を横断的につなぐことで、より現実的で公平な早期支援・継続支援を実現しようとする研究動向をまとめた内容となっています。
学術研究関連アップデート
A Collaborative Continuum of Care between Applied Behavior Analysis and Outpatient Psychiatry for Children with Autism Spectrum Disorder
この論文は、ASDのある子どもが外来精神科(アウトペイシェント)を継続利用しにくい現実(行動危機による受診中断、医療現場での行動調整の難しさ、小児精神科医の不足、とくにASDに強い医師が少ない)を前提に、ABA(応用行動分析)チームと外来精神科が“連続したケア(continuum of care)”として協働するモデルを紹介する実践報告です。具体的には、精神科医療(診断・薬物療法・メンタルヘルス支援)と、BCBA/RBTなどの行動支援(受診前の準備、院内での安全確保と行動調整、診察を完了させるための手順化、危機場面の予防的介入)を組み合わせ、①受診を「成立」させる、②行動危機による救急受診や入院を減らす、③必要最小限の薬物負担で安定を目指す、④継続的な情報共有とケア調整を回すことを狙っています。要するに、精神科とABAを「別々の支援」ではなく、**同じ治療目標を共有する“チーム医療+行動支援の統合運用”**として設計し、医療アクセスそのもの(受診できること)を改善しながら、危機対応と長期安定の両方を実現しようとするモデル提案です。
Breaking with the Criteria; Selective Mutism and its Forbidden Connection with Autism
この論文は、選択性緘黙(Selective Mutism:SM)と自閉スペクトラム症(ASD)の関係が、診断基準によって不自然に切り離されている問題を、大規模な全国データを用いて実証的に示した研究です。現在の欧州診断基準(ICD-10/11)では、ASDはSMの「除外条件」とされていますが、臨床・研究の現場では以前から両者の重なりが指摘されてきました。本研究は、ノルウェー患者登録簿(NPR)を用い、2008~2023年にSMと診断された3~18歳の1,682人を分析し、そのうち11.7%がASDを併存していたことを明らかにしています。これは「稀な例外」ではなく、臨床的に無視できない割合の重なりが存在することを意味します。加えて、SM群では**女子が多い(女子:男子=約2.1:1)という性差も確認されました。著者らは、ASDをSMの併存診断として認めない現在の診断枠組みが、診断の遅れ・誤診・支援開始の遅延を招いていると指摘します。特に、最初は「話さないこと(SM)」が前景に出るASD児は、根底にある自閉特性が見逃されやすく、適切な支援につながりにくいと警鐘を鳴らしています。一言でまとめるとこの論文は、「SMとASDは排他的ではなく、実際には重なり合うことが多い。診断基準の見直しなしには、子どもの実態に即した早期支援は実現できない」**ことを、全国規模データで示した重要な研究です。
Dog-assisted therapy on Hong Kong children with autism spectrum disorder: an exploratory randomized controlled trial
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもに対するドッグ・アシステッド・セラピー(Dog-Assisted Therapy:DAT)が、心理社会的な健康や生活の質にどのような影響を与えるのかを検討した、香港で実施された探索的ランダム化比較試験(RCT)です。研究には6〜15歳のASD児64名が参加し、DAT(8回の構造化プログラム)を受ける群と、通常の学校教育カリキュラムを受ける対照群に無作為に割り付けられました。その結果、DAT群では生活の質(QOL)が有意に向上し、情緒・行動上の困難(SDQ総得点)が有意に減少し、特に外在化行動、素行問題、多動性の改善が見られました。一方、対照群でも一定の改善は認められましたが、両群間で統計的に有意な差は確認されませんでした。つまり、DATは学校での通常教育と比べて「特別に優れている」とは言えないものの、同程度の効果を示しており、補完的支援として十分に価値がある可能性が示されたという位置づけです。一言でまとめると本研究は、ドッグ・アシステッド・セラピーは、ASD児の情緒・行動面や生活の質を支える“追加的な選択肢”として現実的な有用性を持ち得るが、主治療を置き換えるものではなく補完療法として位置づけるのが妥当であることを示した、慎重かつ実践的なエビデンスと言えます。
Association between eye disorders and the development of ADHD/ADD: a nationwide retrospective cohort study
この論文は、斜視や遠視・近視などの眼の疾患が、将来的なADHD/ADDの発症リスクと関係しているのかを、イスラエル全国規模の医療データを用いて検証した大規模コホート研究です。2010~2022年にわたり、5~30歳の約66万人を対象に電子カルテを解析した結果、眼疾患を持つ人は、持たない人に比べてADHD/ADDを発症するリスクが約1.4倍高く、発症時期も早いことが明らかになりました。特に、**斜視(HR=1.64)、遠視・乱視(各HR=1.52)、弱視(HR=1.40)、近視(HR=1.30)など、調査されたすべての眼疾患が有意なリスク因子となっていました。この関連は、女性と小児でより強く認められた点も重要です。著者らは、視覚の問題そのものが注意や行動に影響を及ぼす可能性や、発達過程で共通する神経学的要因の存在を示唆しています。一言でまとめるとこの研究は、「眼の問題は単なる視力の問題にとどまらず、ADHD/ADDの早期リスクサインになり得る」**ことを示しており、小児眼科と発達・精神医療をつなぐ早期発見・早期支援の重要性を裏づける実践的な知見と言えます。
Validating the Brief Autism Mealtime Behavior Inventory (BAMBI) in Persian and Kurdish for Use in Iran and the Kurdistan Region of Iraq
この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもに多く見られる「食事場面での困りごと」**を評価する質問紙 BAMBI(Brief Autism Mealtime Behavior Inventory) を、ペルシャ語(イラン)とクルド語(イラク・クルディスタン地域)で安心して使えるように検証した研究です。
研究では、ASD児540名と定型発達児333名(計873名、2~14歳)を対象に、BAMBIを厳密な手順で翻訳・逆翻訳し、文化的に不自然な表現がないかを確認したうえで分析しました。その結果、BAMBIは信頼性が高く(内的一貫性 α=0.832)、「食事の拒否」「こだわり」「食事場面での問題行動」といった3つの因子構造が安定して再現されました。また、自閉症の診断尺度と強く関連し、ASD児と定型発達児を適切に区別できることも示されました。
一言でまとめるとこの論文は、
「BAMBIは、イランおよびイラク・クルディスタン地域において、ASD児の食事行動の問題を早期に把握し、支援につなげるための信頼できる評価ツールとして使用できる」
ことを示した研究です。文化や言語が異なる地域でも使える評価尺度を整備する意義は大きく、臨床・教育・家族支援の現場での実用性が高い成果と言えます。
