自閉スペクトラム児にとって理想の“遊び空間”とは?
本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する最新研究として、①自閉症特別支援学校の遊び環境をAHP×GRAで定量評価し、安全性と感覚配慮が最重要と示した研究、②ASDおよび統合失調症における脳皮質厚の左右差を大規模ノルムモデルで検証し、個人レベルの異常はほぼ見られずバイオマーカーとしての有用性が否定された研究の2本を紹介している。いずれも「環境デザイン」や「神経基盤」に関する既存仮説にデータで切り込み、ASD支援の科学的根拠を更新する内容となっている。
学術研究関連アップデート
Comparative evaluation of play environment design elements in autism schools using AHP and GRA
自閉スペクトラム児にとって理想の“遊び空間”とは?
AHP×GRAでデザイン要素を定量評価した研究**
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもにとって、遊びは発達の重要な基盤ですが、どんな環境が最適なのかを科学的に評価した研究はほとんどありません。本研究は、長江デルタ地域にある4つの自閉症特別支援学校を対象に、遊び環境のデザイン要素をAHP(階層分析法)とGRA(グレー関係分析)で定量的に比較評価した、初の体系的な試みです。
研究のポイント
1. 10の重要なデザイン要素を専門家が評価
ASD児の発達促進に関連する10要素(安全性、感覚調整、動線、素材、照明、個別空間など)を専門家評価から抽出し、AHPにより重要度の「重み」を算出。
2. GRAで“実際の学校環境の評価”を定量比較
次に、教師や専門家のフィードバックをもとに4つの学校の遊び空間を比較し、どの学校がどの要素に強いか/弱いかを分析。
主な発見
● 最重要は「安全性」と「感覚に配慮した設計」
-
ASD児は刺激に敏感で事故リスクも高いため
→ 物理的安全性/感覚過負荷を避ける設計がトップの優先項目に。
● “個別最適化”や“空間の広さ”は相対的に優先度が低め
-
パーソナライズ要素・広さは重要だが、
基本の安全や感覚調整ほど優先されないという結果。
● 最適な遊び環境には「安全 × 感覚調整 × 社会性のサポート」のバランスが鍵
研究チームは、
安全性 → 感覚調整 → 社会的交流の促進
という階層を重視したデザインフレームを提案。
研究の意義
- Evidence-basedな学校環境デザインに初めて体系的な枠組みを導入
- ASD児支援における遊び空間の質を定量的に比較できる方法を提示
- 政策・学校整備・建築設計への自閉症フレンドリー基準作りに応用可能
単なる“きれいな校庭づくり”ではなく、
子どもの発達特性に合わせた、科学的なデザインの優先順位付けを行った点に大きな貢献があります。
一文まとめ
自閉症特別支援学校の遊び環境をAHP×GRAで定量評価した結果、「安全性」と「感覚に優しい設計」が最も重要であり、個別化や広さは優先度が低いことが示された。研究は、自閉症児に最適な遊び空間づくりのための科学的な設計基準を提供するものである。
Individualized cortical thickness asymmetry in autism spectrum disorder and schizophrenia
ASDと統合失調症の脳“左右差”(皮質厚の非対称性)は個人尺度では異常がほぼ見られない
―― バイオマーカーとしての有用性に疑問を投げかける大規模研究
「脳の左右差」はASDや統合失調症(SZ)の潜在的なバイオマーカーとして注目されてきました。
しかし、実際に個人レベルで“異常な非対称性”がどれほど存在するのかは明らかではありませんでした。
本研究は、4,904名の健常者データから脳の皮質厚(cortical thickness)の“左右差(Asymmetry Index: AI)”の基準値(ノルム)を作成し、
そのモデルを用いて **ASD(135名)・SZ(287名)・健常者(526名)**の個人ごとの逸脱度を評価した、これまでで最大規模の解析です。
■研究方法のポイント
- 皮質を160の領域に分割し、各領域の左右差(AI)を算出
- 年齢、性別、スキャナー差などを統制した「ノルムモデル」を構築
- 個々のASD・SZ参加者が「どれだけ基準からズレているか」をZスコアで評価
- Z ≤ -1.96:異常に“低い”左右差(infra-normal)
- Z ≥ 1.96:異常に“高い”左右差(supra-normal)
■主な結果
1. ASDでもSZでも、脳全体の左右差の異常はほぼ見られない
- ASD・SZ・健常群の間で、脳全体の左右差の逸脱には差がなかった。
2. 160領域のほぼすべてで、個人差分布は重なっていた
- ASDもSZも、多くの領域で健常者と大きな違いはない。
- 唯一、SZの一部の上側頭領域で“左右差が強い”人がわずかに多い
- ただし割合は 1.14% vs 5.92% と小さく、実用的な指標とは言えない。
3. SZは“逸脱の数”がやや多いが、診断には使えない
-
SZ参加者は「基準からズレた領域」の数が平均して多かったが、
診断の精度(AUC ≈ 60%)は低く、バイオマーカーには不十分。
4. ASDでは明確な逸脱パターンは見られなかった
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解析手法(パーセレーション変更、男性のみ、利き手/IQ補正など)を変えても
ASD特有の左右差異常は検出されなかった。
■結論
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皮質厚の左右差は、ASD・SZの個人レベル診断に使えるバイオマーカーではない。
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個人内バリエーションが大きく、群差も小さいため、
「脳の左右差」を診断指標として使うことは非現実的である。
■本研究の意義
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長年注目されてきた「脳の左右差」という仮説に、
大規模データ+ノルムモデルで厳密に反証を提示。
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ASDやSZの脳バイオマーカー研究が、
より多次元・ネットワークレベルの指標へ進む必要性を示唆している。
■一文まとめ
4,900名以上の基準データを用いた大規模ノルム解析の結果、ASDと統合失調症では個人レベルで“異常な皮質厚の左右差”はほぼ見られず、脳左右差は両疾患の有効なバイオマーカーにはならないことが明らかになった。
