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自閉若年成人の筋力トレーニング体験とプログラム改善提案

· 約17分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害や関連疾患に関する最新の学術研究を幅広く紹介しています。自閉スペクトラム症(ASD)の幼児における重大なケガと適応行動・徘徊の関連、文化的背景が成人のADHDとSNS依存に与える影響、ASD児・青年におけるうつ症状測定ツールの妥当性、ASDに併存するサブスレッショルドADHDの社会的・認知的困難、自閉若年成人の筋力トレーニング体験とプログラム改善提案、親支援や専門職連携が家族生活の質に与える効果、ADHD成人の脳血管疾患リスクの上昇要因、ASD診断時期に影響する臨床・社会人口学的要因、脆弱X症候群に対するEEGを用いた閉ループ型介入(FX ENTRAIN研究)、知的障害に伴う認知症の診断・併存症パターンの探索的調査など、多角的な視点から研究成果を整理しています。これらの知見は、発達障害を「精神症状」にとどめず、文化・身体健康・生活環境・テクノロジーなど広範な要素と結びつけて理解し、個別化された支援や介入を設計する重要性を示しています。

学術研究関連アップデート

Associations of Adaptive Behavior and Wandering with Serious Injuries in Young Children with Autism: Study to Explore Early Development

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の幼児における重大なケガ(救急外来受診や入院を要するもの)と「適応行動の遅れ」「徘徊(wandering)」との関連を調べたものです。対象は30〜68か月のASD児648人で、27%が重大なケガを経験していました。適応行動の遅れは81%に、徘徊行動は59%に見られました。分析の結果、早期学習遅滞(SELD)がある子どもにおいては、意外にも「適応行動が正常」な群でケガのリスクが高く(47% vs 24%)、また「徘徊する」群でもリスクが上昇(30% vs 18%)していました。一方、SELDがない子どもではこれらの要因との有意な関連は見られませんでした。つまり、ASD児のケガリスクは「発達の遅れ」と「行動特性」との複雑な相互作用により変動し、特にSELDを伴う子どものうち、行動面で一見適応的に見える子や徘徊する子が予防介入の重点対象となる可能性が示されました。この知見は、ASD児の安全対策を検討する際に、単なる発達の遅れだけでなく**「どのような組み合わせでリスクが生じるのか」**を踏まえた個別的な支援設計の必要性を示唆しています。

Systematic review of cultural influences on ADHD and social media addiction among adults - Middle East Current Psychiatry

本研究は、成人におけるADHD(注意欠如・多動症)とソーシャルメディア依存の関係に文化的背景がどのような影響を与えるかを体系的に整理したシステマティックレビューです。近年、若者を中心にデジタル利用が急増するなか、ADHD傾向とSNS利用の関連性が注目されており、本レビューでは10件の研究を分析しました。その結果、文化や社会的背景によってADHDの現れ方や診断のされ方、ソーシャルメディア依存のなりやすさや対処方法が大きく異なることが明らかになりました。例えば、ある文化圏ではADHDが行動面で強調される一方、別の文化圏では注意の持続困難が重視されるなど、症状理解の違いが示されました。また、ソーシャルメディア依存についても、家族・社会規範の強さやデジタル機器利用に対する価値観が影響することが示唆されました。著者らは、診断や介入においては一律の基準ではなく、文化的背景を考慮したアプローチが不可欠であると強調しています。これは、国や地域ごとのメンタルヘルス施策を設計するうえで重要な示唆を与える研究といえます。

Psychometric Properties of Measuring Tools for Depression in Autistic Youths: A Systematic Review

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもや青年におけるうつ症状を測定するツールの妥当性と信頼性を体系的に検討したシステマティックレビューです。自閉症の若者は非自閉の若者に比べて約4倍うつ病を発症しやすいことが知られていますが、実際には診断されずに見過ごされているケースが多く、大きな支援ニーズが未充足のまま残されています。

レビューはPRISMA 2020ガイドラインに沿って1980年から2024年11月までの研究を調査し、最終的に15件の研究・12種類の測定ツールが評価対象となりました。評価にはCOSMINチェックリストを用い、内的一貫性、信頼性、測定誤差、内容的妥当性、構造的妥当性、基準関連妥当性、変化に対する感度、文化的妥当性などの観点から検討が行われました。

その結果、一般的に使われている標準的なスクリーニング尺度(例:CES-DやBDIなど)は妥当性が低いことが多い一方で、行動面に着目した質問項目を含む尺度(PHQ-9やHADSなど)は比較的有効性が高いことが確認されました。さらに、自閉症や発達特性に特化して開発された「EDA(Evaluation of Depressive symptoms in Autism)」は、5つの心理測定特性で強いまたは中程度のエビデンスが得られ、特に有望なツールと位置付けられています。

著者らは、今後の研究においては発達障害の併存を持つ人々を含めた検証や、介入による臨床的に意味のある変化を捉える能力を確認することが必要だと指摘しています。本レビューは、ASDの若者におけるうつの早期発見・適切な支援を実現するうえで、従来の一般用ツールではなく発達特性に即した評価法を選ぶ重要性を示すものです。

Clinical and Cognitive Characteristics of Children with Co-occurring ASD and Subthreshold ADHD: Social, Functional and Executive Function Impairments

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの約20%にみられる「サブスレッショルドADHD(診断基準を満たさないがADHD特性を有する状態)」に焦点を当て、その臨床的特徴、実行機能(EF)、社会的・機能的影響を詳細に検討したものです。対象は7〜14歳の104名(ASD単独15名、ASD+サブADHD33名、ASD+ADHD30名、定型発達26名)で、行動評価、実験課題によるEFテスト、視線追跡検査など多面的に測定が行われました。その結果、ASD+サブADHD群は定型発達群に比べて社会性・生活機能・実行機能に明確な障害を示し、ASD単独群よりも困難が強い一方で、ASD+ADHD群ほど深刻ではありませんでした。また、ASD+サブADHD群ではADHD症状の強さと実行機能障害との間に直線的な関連が認められ、ADHD診断の有無にかかわらず症状の連続性が存在することが示唆されました。著者らは、ASDにおけるADHD併存の評価基準を「診断の有無」だけでなく、症状の重症度や機能障害の程度を組み込む方向で再考する必要性を提案しています。さらに、EFを標的とした介入は、サブスレッショルドであっても有効である可能性が高く、従来の診断枠を超えた支援の重要性が浮き彫りになりました。

Autistic Young Adults’ Experiences and Recommendations for Strength Training

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の若年成人(22〜25歳)が筋力トレーニングをどのように体験しているか、そしてより参加しやすいプログラム設計のための提案を探ったものです。13名の参加者に半構造化インタビューを行い、質的記述的アプローチで分析した結果、筋力トレーニングの継続を左右する要因として、仲間や家族のサポート、知識豊富な指導者の存在、身体的・精神的な効果が強調されました。また、プログラムに求める条件として、感覚特性への配慮(騒音・照明・混雑など)、柔軟なスケジュール設定、個別トレーニングとグループトレーニングの両方の選択肢が挙げられました。これらの知見は、自閉スペクトラム症の若者が安心して筋力トレーニングに参加できるような包括的でアクセシブルな運動プログラム設計に役立ちます。今後は、これまで筋力トレーニング経験がない層や多様な人種・民族的背景を持つ人々を対象に研究を広げることが課題とされています。

Relationship Between Parent Training, Family-Professional Partnerships, and Family Quality of Life for Families of Autistic Children

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを育てる家庭の**家族生活の質(Family Quality of Life: FQOL)**に焦点を当て、ペアレントトレーニング(親向けの支援プログラム)や家族と専門職のパートナーシップがどのように影響するかを調べたものです。自閉スペクトラム症の子どもを持つ家庭は、感情的・身体的・経済的負担や社会的孤立などの要因から、一般家庭よりもFQOLが低い傾向にあることが指摘されています。本研究では、多様な背景を持つ406名の養育者を対象に調査を実施し、回帰分析を行いました。その結果、プログラムが家庭の状況に適合していること(コンテクスチュアル・フィット)や家族と専門職の協力関係の質が高いほど、FQOLが向上することが示されました。さらに、専門職とのパートナーシップがFQOLに与える影響は、知識提供型のプログラムに参加した場合に強く表れる一方、包括的なプログラムではその効果が相対的に弱まることも明らかになりました。これらの知見は、家庭ごとの状況に即した支援を提供し、必要な情報を伝えると同時に、専門職と家族の信頼関係を強化することが、自閉スペクトラム症の子どもを育てる家庭の生活の質を向上させるために不可欠であることを示しています。

Cerebrovascular diseases in ADHD patients with metabolic comorbidities: a retrospective cohort study - BMC Psychiatry

研究概要

ADHD(注意欠如・多動症)はこれまで精神的・行動的側面で研究が進んできましたが、身体的健康への長期的影響は十分に解明されていません。特に脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)といった脳血管疾患との関連については不明な点が多い状況です。

ドイツのIQVIA社の大規模データベースを用いた本研究は、成人ADHD患者(8,943人)と非ADHDの対照群(44,660人)を10年間追跡し、脳血管疾患リスクを比較しました。

主な結果

  • ADHD患者の1.7%が脳梗塞またはTIAを発症(対照群は1.2%)。
  • ADHD患者は非ADHD群に比べ、発症リスクが約1.7倍(HR: 1.69, 99% CI: 1.13-2.51)
  • 特に以下の条件でリスクが顕著に上昇:
    • 45歳以上(HR: 2.34)
    • 肥満(HR: 1.86)
    • 高血圧(HR: 2.18)
    • 脂質異常症(HR: 2.89)

解釈と意義

この研究は、ADHDが単なる「発達特性」や「精神症状」ではなく、中高年期以降の身体疾患リスクとも密接に関わることを示しています。

特に代謝性合併症(肥満・高血圧・脂質異常症)を持つ成人ではリスクが大きく増すことから、精神科的ケアと身体的健康管理を統合的に行う必要性が浮き彫りになりました。

今後の課題

  • なぜADHDと脳血管疾患が結びつくのか、生物学的メカニズムの解明が必要。
  • 医療現場では、ADHD患者への生活習慣病予防・早期介入の重要性を再確認する必要あり。

まとめ

ADHDのある成人、特に45歳以上で代謝性合併症を持つ人は、脳梗塞やTIAのリスクが顕著に高まることが確認されました。

精神と身体の両面に配慮したケアの実装が、ADHD患者の長期的な健康維持に不可欠です。

この研究は、イタリアの小児病院において2016年から2023年にかけて自閉スペクトラム症(ASD)が疑われて評価を受けた子どもを対象に、診断のタイミングに関連する臨床的および社会人口学的要因を明らかにすることを目的としています。ASDの兆候は発達初期から現れるものの、診断は必ずしも早期に行われるわけではなく、その背景には初期症状の認識の難しさや環境要因が関与します。本研究では、神経精神科診察、認知・適応機能検査、自閉特性の評価、精神病理学的プロフィールの包括的解析を行い、診断の早期化や遅延に関連する要素を後方視的に検討しました。その結果、診断のタイミングには臨床的特徴とともに社会人口学的背景も大きく影響しており、早期発見を妨げる要因の理解と改善の必要性が示されました。

Frontiers | FX ENTRAIN: Scientific Context, Study Design, and Biomarker Driven Brain-Computer Interfaces in Neurodevelopmental Conditions

FX ENTRAIN研究とは

脆弱X症候群(Fragile X Syndrome, FXS)は、Fmr1遺伝子の機能喪失によって起こる遺伝性疾患で、知的障害、自閉スペクトラム症(ASD)様の特徴、感覚過敏などを伴います。マウスモデルでは症状の改善(表現型レスキュー)が確認されている一方で、人での臨床試験は成功していないのが現状です。その大きな理由は、FXSが非常に多様な表現型を示すため、画一的な治療が難しいことにあります。

この課題を克服するために提案されたのが、FX ENTRAIN研究です。本研究は「脳波指標(EEG)を活用したボトムアップ型アプローチ」によって、FXSに関連する神経回路の理解と介入の可能性を探ります。


研究の目的と方法

研究チームは、**視床-皮質の神経駆動(thalamocortical drive)**に注目し、次のような設計で研究を進めます。

  • 対象:FXSの子ども、ASDの子ども、定型発達児
  • 手法
    • EEGを用いて感覚処理や統計的学習の際の「瞬間ごとの神経動態(neurodynamics)」を解析
    • FXSモデルマウスでも並行して解析し、人での結果との対応を確認
  • 介入
    • ランダム化クロスオーバーデザインを採用
    • 閉ループ型の聴覚エントレインメント(音の刺激で脳活動を調整)を実施
    • 個々人の脳波指標に基づいて最適化し、神経応答の正常化と学習能力の改善を目指す

期待される成果

FX ENTRAINは、これまで困難だった「FXSにおける個別差の理解」に迫り、次のような成果が期待されています。

  • サブグループごとの神経指標の解明:FXS内の多様性を捉え、なぜ一部の介入が効果を持たなかったのかを明らかにする
  • 新しい早期介入の可能性:脳波を活用した閉ループ介入によって、学習能力や知的発達の軌跡を変えられる可能性
  • 基礎研究と臨床の橋渡し:動物モデルと人の研究を統合することで、より精緻な治療戦略を設計可能

まとめ

FX ENTRAIN研究は、従来の薬物療法に依存したアプローチではなく、脳波に基づく個別化介入を通じて、脆弱X症候群やASDにおける発達支援の新たな道を切り開く試みです。個々の脳活動に即した閉ループ型BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)の実装は、将来的に発達障害領域における**「より効果的で納得感のある早期支援」**を可能にするかもしれません。

Dementia in Intellectual Disability: An Exploratory Investigation of Comorbidity Patterns and Diagnostic Outcomes

この研究は、知的障害(ID)を持つ人における認知症の併存症パターンや診断の特徴を明らかにするために、ドイツの外来クリニックで2018年から2022年にかけて行われた探索的調査です。対象は、認知症を併発したIDの人(13名、平均54歳、女性69%)と認知症のないIDの人(73名、平均53歳、女性48%)で、身体疾患、精神疾患、検査結果(血液・髄液・画像)、服薬状況、行動面について比較しました。その結果、認知症を持つIDの人はダウン症の割合が高く、感情障害(うつ病など)の割合が低いことがわかりました。また、認知症治療薬がより多く処方され、高力価の非定型抗精神病薬は少なく処方されていました。一方で、その他の身体疾患や検査所見には大きな差は見られませんでした。結論として、IDに伴う認知症の診断は特定の併存症や薬の処方傾向と関連しているものの、全体的な臨床像の差は限定的であり、より大規模な研究での検証が必要であるとされています。