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ADHD(注意欠如・多動症)と自尊心の関係

· 約15分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログでは、発達障害や知的障害に関する最新の国際研究を中心に、教育・福祉・心理・医療など多分野にわたる知見を紹介しています。ADHDやASDに関する介入法の効果や社会的要因との関係、家族支援、当事者の視点を取り入れた研究、最新の脳科学的知見など、多様な論文を取り上げ、支援や制度設計に活かせるエビデンスをわかりやすく要約しています。特に、社会的格差、心理的負担、デジタル時代における新しい支援の可能性など、現代的な課題にも焦点を当てており、現場の実践者や支援者にとって有益な示唆を提供しています。

学術研究関連アップデート

Heavy metals, noradrenaline/adrenaline ratio, and microbiome-associated hormone precursor metabolites: biomarkers for social behaviour, ADHD symptoms, and executive function in children

この研究は、小学生の社会的な行動やADHDの症状、実行機能(計画力や集中力など)が、体内の重金属やホルモン前駆体(ドーパミンなどの材料)、腸内細菌の働きとどのように関係しているかを調べたものです。87人の子どもの尿を調べ、ヒ素・鉛・水銀などの重金属の蓄積、ノルアドレナリンとアドレナリンの比率、そして腸内細菌が作るドーパミンや甲状腺ホルモンのもとになる代謝物質の量を測定。その後、保護者や教師のアンケートを通じて、子どもの行動面や注意力を評価しました。その結果、重金属やホルモン関連物質の量が多い子どもほど、社会性が低く、ADHD傾向や実行機能の問題を抱えている傾向があることがわかりました。特に、社会性が低い子は重金属が多い傾向が6倍、ホルモン前駆体が多い傾向が3.4倍にのぼるなど、明確な関連が見られました。この研究は、行動の問題が脳だけでなく、体内の環境や腸内細菌の働きとも深く関係していることを示しており、将来的な予防や介入のヒントになる可能性があります。

“The Way the System is Working Out, It's Not Working at All”: Parent Perspectives on Social Determinants of Health and ADHD Symptoms in Preschoolers

この研究は、就学前の子ども(3〜5歳)にADHDの症状が見られる家庭の保護者が、生活環境(社会的要因)と子どもの行動との関係をどう感じているかを探ったものです。対象は、アメリカの低所得層が多く利用する病院(セーフティネット病院)で診療を受ける家庭で、主に黒人やラテン系など多様な背景を持つ19人の親が、インタビューに答えました。

親たちの語りから浮かび上がったのは、以下の3つが互いに影響しあっているという構図です:

  1. 未解決の生活課題(住まい・収入・育児支援の不足など)
  2. 子どものADHD症状(多動・不注意・衝動性など)
  3. 親自身のストレスや精神的な疲弊

たとえば、「生活の余裕がないから子どもへの対応に追われる」「子どもの行動が激しくて仕事に支障が出る」など、親の精神的負担と生活の不安定さが子どもの症状に影響し、それがまた親のストレスを増やすという悪循環が語られていました。

この研究は、「医療だけでは解決できないADHDの背景」に注目し、早期に社会的支援(住居、育児、経済支援など)や親のメンタルケアを行うことで、子どもの症状の悪化を防げる可能性があると提案しています。ADHD支援のあり方を、医療と福祉の連携から見直す必要性を示唆しています。

Developmental relations between ADHD and self-esteem: evaluating peer problems as a mediating mechanism

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)と自尊心の関係に焦点を当て、友人関係のトラブル(いじめ、仲間外れなど)がその関係をどのように仲介しているかを調べたものです。調査にはイギリスの全国規模の追跡調査「ミレニアム・コホート・スタディ」に参加した**約1万人の男女(11歳・14歳・17歳)**のデータが使われました。

分析の結果、ADHDの症状が強い子どもほど自尊心が低く、友人関係にも問題を抱えやすいことがわかりました。ただし、「友人関係の問題があるから自尊心が下がる」という明確な因果関係の仲介(媒介効果)は確認されませんでした。つまり、ADHDの症状が自尊心に直接影響している可能性もあるということです。

とはいえ、ADHD・友人関係・自尊心の三者は相互に影響しあっており、社会的スキル訓練などの支援においては、友人関係による自尊心への影響にも配慮する必要があると研究者は述べています。また、今後の研究では、より短い時間スパンでの変化を追うことで、より具体的な因果関係が明らかになることが期待されています。

The role of cognitive elements plays in physical activity interventions among individuals with attention-deficit/hyperactivity disorder: A systematic review of brain evidence

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)を持つ人々における身体活動(運動)の脳への効果を、認知的要素(考える力を使う活動)との組み合わせに注目してまとめた**システマティックレビュー(系統的文献調査)**です。

ADHDのある子ども・大人合わせて700人以上を対象にした27の高品質な研究を分析した結果、単なる運動だけでなく、**認知トレーニングや、認知的要素を含む運動(例:判断しながら行うスポーツなど)は、脳の前頭葉や小脳の活動や構造、注意・抑制・情報処理に関わるネットワークに良い影響を与えることが分かりました。これらはADHDの脳機能を「より定型に近づける」ような回復的効果(リハビリ的効果)**を持つ可能性があります。

特に、**運動と認知活動を組み合わせた介入(CT-PAやCE-PA)**には、相乗効果があるかもしれないという示唆も得られましたが、明確な結論には至らず、今後さらなる研究が必要とされています。このような介入は、ADHD支援における新しいアプローチとして期待されています。

The Effectiveness of Video Visual Scene Display-Assisted Behavioral Skills Training in the Instruction of Skills to Prevent Online Sexual Abuse Among Adults with Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人が「ネット上での性的被害」を防ぐためのスキルを習得できるかどうかを検証したものです。対象は21〜23歳のASDのある男性3名で、**「ビデオ視覚シーンディスプレイ(Video Visual Scene Display:VVSD)」という視覚的な支援ツールを使った行動スキルトレーニング(Behavioral Skills Training:BST)**を用いて指導が行われました。

この方法は、日常場面に近い映像を使って「何が危険で、どう対応すればいいか」を視覚的に学ぶ支援法です。

その結果、全員がオンラインでの性的被害を防ぐためのスキルを習得・他者にも応用(汎化)・2〜4週間後にも保持(維持)できたことが確認されました。さらに、本人だけでなく、保護者や教師からも「教え方がよかった」「内容が有益だった」といった**肯定的な評価(社会的妥当性)**が得られました。

この研究は、ASDのある成人への性教育やオンラインリスク対策において、視覚支援と行動的アプローチを組み合わせたトレーニングが有効であることを示しています

Ecological Validity of Clinic-Based Actigraphy for Assessing Hyperactivity in Clinically Evaluated Children with and without ADHD

この研究は、**ADHDの診断などで使われる「クリニック内での活動量測定(アクチグラフィ)」が、実際の日常生活における多動の程度をどれほど正確に反映しているか(生態学的妥当性)**を調べたものです。

アクチグラフィとは、子どもの体の動きを測定する装置(たとえば腕時計型センサーなど)を使って、どれだけ動き回っているかを客観的に記録する方法です。この研究では、**ADHDのある子どもとない子どもを含む2つの独立したグループ(それぞれ88人と184人)**を対象に、アクチグラフィによる測定結果と保護者・教師による多動の評価との関係を分析しました。

その結果、記憶課題のように「頭を使う場面(高い認知負荷)」でアクチグラフィを使った場合、保護者や教師の評価と同程度の精度で、日常の多動傾向を予測できることがわかりました。また、「簡単な場面(低い認知負荷)」での測定でも、やや精度は落ちるものの、家庭や学校での多動をある程度予測できることが確認されました。

さらに、アクチグラフィの測定結果は2〜4週間後も安定しており(信頼性が高い)、異なる課題間でも一貫した関係が見られました。

このことから、クリニック内でのアクチグラフィ測定、特に「難しい課題中の測定」は、家庭や学校での行動を適切に予測できる信頼できるツールであることが示されました。つまり、現場での評価と同じくらい、「客観的な動きの測定」が実生活の多動を映し出している可能性があるということです。

Cost-effectiveness of dialectical behavioural therapy versus treatment as usual for autism with suicidal behaviours: single-blind randomised controlled trial

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある大人で自殺念慮を抱える人たちに対して、弁証法的行動療法(DBT)がどれほど効果的で、かつ費用対効果に優れているかを調べた臨床試験です。

参加者は123人の外来患者で、DBT(感情のコントロールや対人スキルの習得を重視する心理療法)を受けるグループと、通常の治療(TAU)を受けるグループに分けられ、12か月間の治療効果と費用が比較されました。

その結果、以下のようなことがわかりました:

  • DBTは、TAUよりも自殺念慮の改善効果が高く、症状の50%以上の改善を示した人が多かった。
  • 生活の質(QALY)もDBTの方が改善されており、医療の観点から見ると、TAUより費用が€371安くて、効果も上回るという結果に。
  • 社会全体のコストを含めても、1QALYあたり€232の追加費用で効果が得られるため、十分にコストパフォーマンスが良いとされました(基準は€50,000/QALY)。

この研究は、自殺リスクのあるASD当事者に対するエビデンスに基づいた有効な支援法として、DBTの導入を推奨する重要な成果であり、今後は長期的な効果や他国での実施可能性を検証する必要があると述べています。

Developmental relations between ADHD and self-esteem: evaluating peer problems as a mediating mechanism

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある子どもたちが、なぜ自己肯定感(自尊心)が低くなりやすいのか、その発達的な関係性を明らかにするために行われました。特に、友達関係でのトラブル(ピア問題)がその関係を仲介しているのではないかという仮説を検証しています。

イギリスの大規模な縦断調査(Millennium Cohort Study)のデータを用い、**11歳、14歳、17歳時点の約1万人の子ども(男女ほぼ同数)**を対象に分析が行われました。

その結果、ADHDの症状・友人関係の問題・自己肯定感の間には**相互に影響しあう関係(双方向的な関係性)**があることが分かりましたが、友人関係の問題が自己肯定感の低下の「原因」として働いているとは断定できませんでした

つまり、ADHDの症状がある子どもは、自己肯定感や対人関係の面でも課題を抱えやすいですが、それらは単純な因果関係というより、複雑に絡み合って発達していく可能性があると示唆されています。今後は、より短い間隔でのデータ取得や、社会的スキル介入における自尊心への配慮が重要とされています。

Reliability of the Dutch Version of the Matson Evaluation of Drug Side Effects in People With Intellectual Disabilities

この研究は、知的障害のある人々に対する向精神薬の副作用を適切に把握するためのツールとして、「Matson Evaluation of Drug Side Effects(MEDS)」という評価スケールのオランダ語版の信頼性を検証したものです。


🔍 背景

知的障害のある人は、自分の症状や副作用をうまく伝えられないことが多く、向精神薬の副作用の見逃しがちです。

そのため、客観的に副作用を評価するツールが非常に重要です。


🛠 研究内容

  • MEDSを専門の翻訳会社によってオランダ語に翻訳・逆翻訳
  • オランダ語版MEDSの**信頼性(同じ人が繰り返しても結果が安定するか、別の人が評価しても同じになるか)**を検証。
  • 参加者:向精神薬を服用している知的障害のある成人40名
  • 2人の研究者が同じ日に3回評価を行い、スコアの一貫性を調べました。

📊 結果

  • 同じ評価者による再評価の一致度(intrarater信頼性):とても高い(ICC 0.873〜1.000)
  • 異なる評価者間の一致度(interrater信頼性):やや幅はあるが全体的に良好(ICC 0.713〜0.922)

✅ 結論

  • オランダ語版MEDSは、信頼性の高い評価ツールであることが確認されました。
  • 医療現場や研究で、知的障害のある人の副作用モニタリングに役立つと期待されます。

💡補足

ICC(Intraclass Correlation Coefficient)とは?

→ 評価の「一貫性」や「信頼性」を数値で示す指標で、1に近いほど信頼性が高いことを意味します。


この研究は、知的障害を持つ人々の健康と生活の質を守るための重要な一歩といえます。

Understanding Death: Inclusive Insights From Individuals With Intellectual Disabilities

この研究は、知的障害のある人々が「死」をどのように理解し、どのように経験しているかを明らかにすることを目的に、ポーランドで行われたものです。特にこのテーマはこれまでほとんど研究されておらず、重要な一歩となる内容です。


🔍 研究の特徴

  • 知的障害のある共同研究者とともに研究設計・実施された、インクルーシブなアプローチが取られました。
  • 34人の知的障害のある参加者にインタビューを実施。

💬 主な発見(4つのテーマ)

  1. 死の意味づけ:宗教的な考え、自然な出来事としての理解、こわいものなど多様。
  2. 死の経験:家族や大切な人との別れに伴う悲しみや困惑。
  3. 死の祝い方:葬儀などの儀式への参加と、その意義。
  4. 自分自身や他者の死への予期:将来への不安や心構えについての考え。

✅ 結論と提言

  • 死の経験は知的障害のある人々にとっても深く個人的なものであり、決して無視してよいものではない
  • 悲しみを感じる権利や、死に向き合うための支援・準備の重要性が強調されました。
  • 宗教的・文化的背景も含めた包括的な支援や教育が必要です。

この研究は、「死」というテーマをタブー視せず、知的障害のある人の声を取り入れて理解しようとする試みであり、今後の教育・支援・政策にとって重要な示唆を与えています。