機械学習による性別を考慮したASDリスク予測モデル
本記事では、発達障害に関する最新の学術研究を紹介しています。内容は、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに関する脳機能・遺伝・予測因子・治療法に関する研究を中心に、妊娠中の母親の精神状態と子どもの発達の関係、腸内環境や栄養、CBDオイルなどの自然療法、性別やホルモンの影響、インクルーシブなスポーツ介入の効果、Webアクセシビリティに対する当事者視点の評価まで多岐にわたります。特に、脳ネットワークの異常や構造変異、ホルモン変動と認知機能の関連、機械学習による性別を考慮したASDリスク予測モデルなど、支援の個別化や予防的アプローチの可能性を示唆する研究が多く取り上げられています。
学術研究関連アップデート
The Interplay between Maternal Depression and ADHD Symptoms in Predicting Emotional and Attentional Functioning in Toddlerhood
👩👧 お母さんの「うつ」と「ADHD」が子どもの心と注意力にどう影響する?
この研究では、お母さんの「うつ症状」と「ADHD症状」が、赤ちゃんから2歳になるまでの子どもの感情や注意力の発達にどう影響するかを調べました。
🧪 どんな研究?
- 対象は妊娠中から2歳までの母子156組(男の子51%)
- お母さんの状態は:
- 妊娠中にADHDの傾向
- 妊娠中・産後3ヶ月・子どもが2歳時点でうつ症状
 
- 子どもが2歳のときに:
- うつのような症状を母親が報告
- *集中力(注意力)**を遊びの観察で測定
 
🔍 何が分かったの?
- お母さんが「ADHDの傾向」も「うつ症状」も強かった場合、2歳の子どもに以下の問題が多く見られました:
- 感情的に落ち込みやすい(うつ症状)
- 集中力が続きにくい
 
- 逆に、お母さんがうつ症状だけでも、ADHD傾向が弱い場合は子どもへの影響は小さかったです。
💡 結論
- 
「お母さんの心の状態が赤ちゃんの発達に影響する」というのはよく知られていますが、 特にうつ症状とADHDの両方があると、子どもに強い影響が出ることがこの研究で明らかになりました。 
- 
特に子どもが感情面で不安定になったり、注意力が続かなくなるリスクが高まるため、 妊娠中や産後の早い段階からサポートすることが重要です。 
🧸 一言まとめ
「お母さんのうつ+ADHD」は子どもの心と集中力の発達に大きく影響する――だからこそ、早期の支援が子どもの未来を守る鍵になります。
Atypical segregation of frontoparietal and sensorimotor networks is related to social and executive function impairments in children with ASD
🧠 自閉スペクトラム症の子どもに見られる「脳のつながり方の違い」と行動の関係
この研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの脳内ネットワークのつながり方の特徴が、社会性の問題や実行機能(注意、計画、切り替えなど)の弱さとどう関係しているかを調べました。
🧪 どんな研究?
- 対象:ASDの子ども121人、定型発達の子ども84人
- *脳の状態は、じっとしているときのfMRI(安静時脳機能MRI)**で測定
- 特に注目したのは以下の2つの脳ネットワークのつながり方:
- 前頭頭頂ネットワーク(Frontoparietal network):思考や判断などを担当
- 感覚運動ネットワーク(Sensorimotor network):体の感覚や動きを担当
 
🔍 何が分かったの?
✅ ASDの子どもでは以下の「異常なつながり方」が確認されました:
- 
前頭頭頂ネットワーク内のつながりが弱い(=underconnectivity) → 社会性や実行機能のスコアが低いことと関連 
- 
前頭頭頂ネットワークと感覚運動ネットワークの間のつながりが強すぎる(=overconnectivity) → 社会的な困難さと関連 
なお、運動機能のスコアとの関連は見られませんでした。
💡 結論
- ASDの子どもは、**「脳のつながり方」においてネットワーク間の境界がぼやけている(=分離がうまくいっていない)**傾向がある
- 特に、思考・判断に関わるネットワークの内部がバラバラで、他のネットワークとつながりすぎていると、社会性や実行機能に問題が出やすい
- 脳ネットワークの「つながり方の異常」を指標にすることで、ASDの理解や支援のヒントになるかもしれません
🧩 一言まとめ
ASDの子どもは、脳内ネットワークの“内と外のつながり方”に異常があり、それが社会性や実行機能の難しさと関係している――ということを示した研究です。
Cross-sectional mega-analysis of resting-state alterations associated with autism and attention-deficit/hyperactivity disorder in children and adolescents
自閉スペクトラム症とADHDにおける脳の機能的つながりの違い:大規模解析による検証
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)に共通する脳の特徴があるのか、それとも異なるのかを明らかにするため、**世界的にも最大規模となる1万人以上の子ども・青少年(6〜19歳)**を対象とした「横断的メガ解析(cross-sectional mega-analysis)」を実施したものです。
調査と解析のポイント
- 参加者総数:12,732人
- 自閉スペクトラム症(ASD)群:764人
- ADHD群:2,026人
- 定型発達(比較)群:複数(重複含む)
 
- 方法: 安静時機能的MRI(resting-state fMRI)を用いて、脳内ネットワークのつながり(機能的結合)を解析
- 対象: 診断名と「特性レベル(traits)」の両方を指標にした多角的な比較
主な結果
- 自閉スペクトラム症(ASD)では:
- 視床(thalamus)、被殻(putamen)、サリエンス/腹側注意ネットワーク、前頭頭頂ネットワークなどの間の結合が弱い(低下)
 
- ADHDでは:
- 上記の領域において結合がむしろ強い(過剰)
 
- 共通点:
- ASD・ADHDともにデフォルトモードネットワーク(DMN)と背側注意ネットワークとの間の過剰なつながりが見られた
- これは主にADHD特性と関連
 
解釈と意義
- 
ASDとADHDは共通して現れることが多いものの、神経的な特徴は異なる方向性を持つ → ASDは「一部の脳ネットワークの結びつきが弱い」のに対し、ADHDは「過剰に強い」 
- 
両者に共通する過結合(特にDMN関連)は、注意の制御に関する困難を反映している可能性 
- 
効果の大きさは小さいものの、数万人規模のデータを統合することで初めて明らかになった微細な差異 
総括
本研究は、自閉スペクトラム症とADHDが行動面で似ていても、脳機能の基盤は異なるパターンを持つことを示すものであり、両者の正確な理解や支援方針の差別化に資する重要な知見を提供しています。今後の診断・介入の個別化に向けた神経基盤の整理に貢献する成果です。
Linking sensory processing challenges to autism-related factors: observational evidence from Pakistan - Middle East Current Psychiatry
感覚処理の問題と自閉スペクトラム症の関連:パキスタンの臨床観察から見える関係性
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)における「感覚処理の困難(Sensory Processing Dysfunction, SPD)」が、発達の退行、症状の重さ、年齢とどのように関連しているかを明らかにすることを目的とした観察研究です。対象は**パキスタンのASD児112名(3~16歳)**で、親やセラピストによる感覚プロファイルの評価が行われました。
感覚処理障害(SPD)とは?
SPDとは、触覚・聴覚・視覚・味覚・嗅覚・バランス感覚などに対して、過敏または鈍感な反応を示したり、特定の感覚を強く求める行動が見られたりする状態で、ASDの中核的特徴の一つとされています。
研究の方法と評価項目
- 使用された評価ツール:Winnie DunnのShort Sensory Profile(SSP)
- 評価された感覚領域:
- 触覚、嗅覚/口腔感覚、前庭感覚(バランス)、固有受容感覚(筋肉・関節の感覚)、視覚/聴覚、聴覚フィルタリング、エネルギー
 
- ASDの重症度:**CARSスコア(Childhood Autism Rating Scale)**で評価
- 分析対象:
- 発達の退行(Milestone Regression, MR)
- ASDの重症度
- 年齢
 
主な結果
- 発達の退行(MR)が見られる子どもは、バランス感覚や視聴覚処理、聴覚フィルタリングにおいて著しい問題が見られた
- ASDの重症度が高いほど、触覚に対する過敏・鈍感などの調整不全が顕著
- 年齢が上がるにつれ、バランス感覚、視聴覚処理、聴覚フィルタリング、エネルギーの特性に変化が見られた
- これらの感覚的な困難は、「定型的」「やや異常あり」「明確な異常あり」の3段階で評価
意義と示唆
本研究は、ASD児の感覚処理の特性が、その発達過程や症状の重さと密接に関連していることを示しました。これにより、以下のような支援が可能になると示唆されます:
- より個別化された感覚統合アプローチの設計
- 年齢や症状に応じた介入の調整
- コストと介入時間の削減につながる可能性
総括
ASDの多様な感覚的課題は、発達の退行や症状の重さ、年齢といった要因と深く結びついており、感覚処理の視点から子どもを理解し、介入を最適化することの重要性が改めて浮き彫りとなりました。
Impact of adapted and inclusive university soccer on mental health in young adults with intellectual and developmental disabilities
知的・発達障害のある若者における「適応型インクルーシブ大学サッカー」のメンタルヘルスへの効果
本研究は、知的・発達障害(IDD)を持つ若者が大学のインクルーシブなサッカー活動に参加することで、どのように心の健康や認知機能に良い影響があるかを検討した予備的な介入研究です。
背景と目的
知的・発達障害のある人は、不安障害や認知機能の低下などメンタルヘルス上の課題を抱えやすいことが知られています。身体運動、とくに社会的な交流を伴う運動活動は、不安軽減や実行機能(情報処理、記憶、注意など)の向上に寄与する可能性があります。
研究の方法
- 対象: 大学の移行支援プログラムに参加するIDDの若者12人
- 介入内容: 学期を通じて週2回、定型発達(TD)の学生パートナーとともに15週間の適応型サッカートレーニングを実施
- 評価項目(前後比較):
- 本人が感じる運動の効果(自己評価)
- 不安レベル
- 実行機能テスト(Corsiブロック課題、単純反応時間、メンタルローテーション課題)
 
主な結果
- サッカー参加後に以下の改善が観察されました:
- 運動による効果への自己評価の向上
- 反応時間の短縮(情報処理速度の改善)
- 空間認識能力の向上(メンタルローテーション課題の精度向上)
 
- 不安レベルの変化には明確な記述はないが、中〜大の効果量が示唆されたことでポジティブな可能性が示唆されました。
意義と今後の課題
- 本研究は、インクルーシブな運動活動がIDDの若者の心身の健康に有益である可能性を示す予備的エビデンスを提供しています。
- 今後は、対象人数の増加、生理学的指標の追加、定型発達との比較群の導入などを通じて、より確かな効果の検証が期待されます。
総括
知的・発達障害のある若者にとって、適応型かつインクルーシブなスポーツ活動は、実行機能やメンタルヘルスの向上に寄与する有望な手段となり得ることが本研究から示唆されています。社会的な参加の機会と運動の組み合わせが、支援の新たな鍵となる可能性があります。
Multi-level treatment outcome evaluation in adolescents with autism spectrum disorder - Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health
自閉スペクトラム症の青年に対する多層的治療評価:ニューロフィードバックの効果に注目して
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある青年を対象に、脳波(EEG)の変化と心理的な変化をあわせて評価する多層的アプローチによって、治療効果を検証したランダム化比較試験です。特に、スローコルチカル・ポテンシャル(SCP)・ニューロフィードバックと呼ばれる神経トレーニングの効果に注目しています。
背景と目的
ASDでは、安静時の脳波におけるアルファ波(リラックス状態を示す)活動の低下が報告されており、脳の機能的な異常を示す一つの指標とされています。しかし、脳波などの客観的な生理指標を用いた治療評価はまだ十分に確立されていません。
方法と対象
- 対象: ASDのある青年41人
- ニューロフィードバック群(NF群):21人
- 通常治療群(TAU群):20人
 
- 介入内容: NF群は24回のSCPニューロフィードバックセッションを実施
- 評価指標:
- 脳波(rsEEG)のアルファ波・デルタ波の変化
- 親・本人による心理質問票(ASD症状、感情的幸福感など)
 
主な結果
- アルファ波活動:
- NF群では増加し、リラックスや安定性が向上
- 通常治療群では減少
 
- デルタ波活動:
- 両群で減少したが、NF群の方が顕著
 
- 脳波と心理状態の関連:
- 初期のアルファ波が低い人ほどASD症状が重い傾向
- アルファ波の増加はポジティブ感情の向上と関係
- デルタ波の減少はネガティブ感情の減少と関連
 
意義と示唆
- ニューロフィードバックによる脳波の変化は、心理的改善とも関連していることが示された
- *主観的な報告(心理検査)と客観的な脳活動データの両面から治療効果を評価する「多層的アプローチ」**の重要性を強調
総括
心理的な質問票だけでなく、脳の生理的変化を組み合わせて治療効果を評価することが、より信頼性の高い介入効果の理解に繋がることを示した研究です。ASDの支援において、心と脳の両方を見つめる新たな評価モデルの可能性を拓く成果と言えます。
Web accessibility evaluation from the perception of people with disabilities: case of Argentina
アルゼンチンにおける「障害当事者の視点」から見たウェブアクセシビリティ評価
本研究は、障害のある人々(PwD)の体験と感じ方に基づいてウェブアクセシビリティを評価し、技術的な評価基準と当事者のユーザー体験(UX)との間にあるギャップを明らかにしたものです。特にアルゼンチンの公共ウェブサービスを対象としたケーススタディが行われました。
背景と課題
- アルゼンチンでは多くの行政サービスがウェブ経由で提供されているが、アクセシビリティへの配慮が不十分
- その結果、障害当事者が情報やサービスにアクセスできず、社会的孤立や自律性の低下を招いている
- 国連「障害者の権利に関する条約」に基づく隔年評価でも、アルゼンチンのデジタルアクセシビリティは未達
研究の方法と構成
- 53名の障害当事者によるウェブ利用体験をもとに、感覚的・主観的なアクセシビリティ評価を実施
- インタビュー・アンケートによる調査
 
- 同時に、WCAG 2(Web Content Accessibility Guidelines)に基づく技術的評価も実施
- ヒューリスティック評価(経験則による評価)
- 認知的ウォークスルー(ユーザーの思考過程を追う評価)
 
主な発見と示唆
- 自動チェックでは「合格」でも、実際の利用では「使いにくい」ことが多い
- 未対応のアクセシビリティ要素は、単なる機能上の問題にとどまらず、感情的な負担や疎外感を引き起こす
- アクセシビリティは「個別のウェブサイト」の問題だけでなく、日常的な体験の積み重ねの中で形成される
- 開発者は技術基準だけでなく、障害当事者の声や感情、経験を理解し、それに応じて対応すべき
総括
アクセシビリティの評価には、機械的な基準だけでなく「人間の体験」を重視する視点が不可欠であるということが、本研究から明確になりました。より包括的で尊厳のあるウェブ環境を構築するには、当事者の視点に耳を傾ける姿勢と、その声を設計に反映する実践が必要です。
Frontiers | Neurodevelopmental disorders and gut-brain interactions: exploring the therapeutic potential of pycnogenol through microbial-metabolic-neural networks
神経発達症と腸脳相関:松樹皮抽出物ピクノジェノールの治療可能性に着目して
本レビュー論文は、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、てんかんなどの**神経発達症(NDDs)**に対して、**腸と脳の相互作用(腸脳相関)**が果たす役割と、**松樹皮由来の天然化合物「ピクノジェノール(PYC)」**の治療的可能性を探るものです。
背景と課題
- 神経発達症は、遺伝要因(例:ASDにおけるShank3遺伝子の変異)、環境要因(例:胎児期の毒素曝露)、神経伝達物質(ドーパミンやGABA)の異常、免疫機能の不全など、複数の因子が絡み合って発症する複雑な疾患群です。
- 最近では、腸内環境(腸内細菌)と脳との相互作用の乱れ(腸脳軸の障害)が、これらの疾患の発症や症状悪化に関与している可能性が指摘されています。
- しかし、腸脳軸を標的にした治療法の科学的検証はまだ不十分です。
注目のアプローチ:ピクノジェノール(PYC)
- PYCは松の樹皮から抽出されるポリフェノール成分で、以下のような多機能性を持っています:
- 抗酸化作用
- 抗炎症作用
- 腸内細菌の改善(例:アッカーマンシア(Akkermansia muciniphila)や酪酸産生菌の増加)
 
- これらの効果によって、PYCはNF-κB、MAPK、PI3K/AKT/mTORなどの神経炎症や細胞機能に関わる重要なシグナル経路の異常活性を調整し、NDDsの根本的なメカニズムに働きかける可能性があります。
総括
このレビューは、腸と脳をつなぐネットワークが神経発達症の理解と治療の鍵になる可能性を強調し、ピクノジェノールという天然成分がその調整役となり得るという新たな視点を提示しています。今後、腸内細菌を介した自然由来の介入法が、NDDsの治療における有望な選択肢となるかもしれません。
Frontiers | Mechanisms of Brain Overgrowth in Autism Spectrum Disorder with Macrocephaly
自閉スペクトラム症における頭部・脳の過成長:巨頭型ASDのメカニズムに迫る
本論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の中でも、**頭囲が大きい「巨頭型(macrocephaly)」**のサブグループに焦点を当て、脳の過成長(脳過大症、megalencephaly)の背景にある生物学的・分子的なメカニズムを明らかにしようとするレビューです。
背景
- ASDは非常に多様な症状や遺伝的背景を持つ疾患であり、**その一部には「頭や脳が大きすぎる」特性を持つ群(巨頭型ASD)**が存在します。
- この群では、より重度の発達症状や行動特性が見られることも多く、脳の異常な発達プロセスが関与している可能性が指摘されています。
巨頭型ASDに関連する脳の過成長メカニズム
以下のような要因が、脳の過剰な成長に関与している可能性があると論じられています:
- 神経細胞やグリア細胞の産生が過剰(神経形成・グリア形成の亢進)
- 細胞の自然死(アポトーシス)が減少
- 神経細胞のサイズが異常に大きくなる(神経肥大)
- ミエリン(神経の絶縁物質)の過剰形成
関与する分子経路とエピジェネティック要因
- シグナル伝達経路:細胞の増殖や分化に関与する経路(例:PI3K-AKT、mTORなど)が過剰に活性化されている可能性
- エピジェネティック制御:遺伝子のオン・オフを調整する仕組みにも異常が見られることがある
総括
この研究は、ASDにおける「巨頭・脳過成長」という身体的特徴が、どのような生物学的プロセスによって生じるのかを包括的に検討し、その背景にある分子レベルの異常に注目することで、より精密な理解と将来的な治療アプローチへの道を開くことを目的としています。ASDの個別化された診断と支援の鍵となる知見です。
Frontiers | The Role of Nutrition and Gut Microbiome in Childhood Brain Development and Behavior
子どもの脳発達と行動における「栄養」と「腸内細菌叢」の役割
本論文は、子どもの脳の発達や行動に大きく影響を与える「腸と脳の関係(腸脳軸)」において、栄養と腸内細菌がどのような役割を果たしているかをまとめた総説です。特に妊娠期から乳幼児期にかけての食生活が注目されています。
背景と注目点
- 腸脳軸は、腸内細菌が炎症や神経活性物質、血液脳関門の働きに影響を与える仕組みとして注目されています。
- この影響は、胎児期・乳幼児期といった脳の成長が著しい時期に特に重要です。
健康な腸内環境をつくる食事とは?
- 全粒食品・食物繊維が豊富な食品・加工度の低い食品は、腸内細菌の多様性を高め、腸の健康を保つうえで重要
- これにより、バランスの取れた腸内環境が脳の健全な発達を支えるとされています
腸内細菌の乱れと神経発達症
- 腸内細菌の構成が乱れると、以下のような神経発達症との関連が報告されています:
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 不安症などの情緒的問題
 
エビデンスの出所
- 本レビューは、動物実験、臨床試験、疫学研究を総合的に分析してまとめられたもので、科学的な裏付けがなされています。
総括
本研究は、乳幼児期の適切な栄養と腸内環境の維持が、子どもの脳の発達と行動に良い影響をもたらす可能性を強調しています。将来的には、食事を通じた予防的・治療的アプローチが、発達支援や行動問題の改善において重要な手段となることが期待されます。
Frontiers | Negative vaccine sentiments on South African social media platforms before the COVID-19 pandemic: a mixed methods study
南アフリカにおけるパンデミック前のワクチン否定的感情:ソーシャルメディア分析による実態把握
本研究は、COVID-19以前の南アフリカにおけるワクチンに対する否定的な感情が、ソーシャルメディア上でどのように表現されていたかを調査し、パンデミック後のワクチン忌避(ワクチンへの不信感)の背景理解に役立てることを目的としています。
研究の背景と重要性
- パンデミック以降、南アフリカではCOVID-19ワクチンの接種率が伸び悩み、その背景にはワクチン忌避があるとされています。
- しかし、それ以前には乳幼児の定期接種に関する否定的感情はほとんど報告されていませんでした。
- 本研究は、COVID-19以前の2016年12月~2017年5月にかけて、SNS上でどのようなワクチンに対する感情があったかを分析しています。
方法
- 分析対象:Twitter(現X)、オンラインニュースフォーラム、マイクロブログでのワクチン関連投稿(合計10,997件)
- 手法:投稿内容を肯定的・否定的・中立的に分類し、否定的投稿についてテーマ別に分析
- 使用ツール:NVivo12® による定性分析
主な結果
- 
16.2%(約1,780件)が否定的な感情を含む投稿 
- 
35.9%の投稿が特定のワクチンに言及しており、最も多かったのはHPV(子宮頸がん)ワクチン → 否定的投稿の31.9%がHPVワクチンに関連 
- 
否定的投稿の多くは、米国発の情報源にリンクされていた 
- 
否定的感情の主なテーマは以下の5つ: - ワクチンの安全性への懸念
- ワクチンと自閉症の関連疑惑
- ワクチンの効果への不信
- 陰謀論
- 宗教的・哲学的反対意見
 
総括と意義
この研究は、COVID-19以前から南アフリカでは一定のワクチン否定的感情が存在していたことを示し、HPVワクチンが特にターゲットになっていたことを明らかにしました。今後、パンデミック後の変化を測るためのベースラインデータとして活用でき、また、誤情報・偽情報への対策政策の効果を検証する手がかりにもなります。
Frontiers | Dysregulation of heterochromatin caused by genomic structural variants may be central to autism spectrum disorder
自閉スペクトラム症の中核にあるかもしれない「ヘテロクロマチン(不活性なDNA領域)の異常制御」
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の発症メカニズムとして、ゲノムの構造異常による「ヘテロクロマチン(遺伝子が読まれにくいDNA領域)」の制御異常が中心的な役割を果たしている可能性を示したものです。
背景
- ASDは遺伝的な影響が強いとされている一方で、その具体的な発症メカニズムは未解明の部分が多く残されています。
- 過去の研究では、ASDリスク遺伝子の多くが「クロマチン修飾(DNAの折りたたみや読み取りの調整)」に関係していることが分かっていましたが、これがどうASDと関係するかは明確ではありませんでした。
研究の内容と方法
- 著者らは、ASDの家族データから得られた**「通常の遺伝法則(メンデル則)に従わないパターン(NMI)」を示す構造的なゲノム変異(SV)**を特定。
- これらの変異は**非コード領域(タンパク質を作らないDNA)**に集中しており、**遺伝子の発現調整に関わる場所(eQTL)**に多く見つかりました。
- さらに、複数のゲノム・エピゲノム層のデータと重ね合わせて、変異の分布と意味を統計的に解析。
主な発見
- ASDに関連する構造変異は、ヘテロクロマチン領域や特定の転写因子(SATB1、SRSF9、NUP98-HOXA9)の結合部位に集中。
- 著者らは、**RNAが介在する遺伝子サイレンシング(遺伝子を抑える働き)**のようなプロセスの破綻が、ASDの発症に深く関与している可能性があると指摘。
- 結果として、脳の発達や免疫機能に関わる重要な遺伝子の制御が狂うというモデルを提案しています。
総括
本研究は、ASDの多様で複雑な遺伝的背景を「エピゲノム制御の破綻」という共通メカニズムで説明し得る新たな視点を提示しました。これにより、ASDにおける新規治療標的の発見や、診断の分子基盤の解明につながる可能性があります。特に、非コード領域の異常が神経発達障害に与える影響を解明する上で、重要な一歩となる研究です。
Frontiers | Research Advances and Future Directions in Female ADHD: The Lifelong Interplay of Hormonal Fluctuations with Mood, Cognition, and Disease
女性のADHDにおけるホルモン変動の影響:現状と今後の課題
本レビューは、女性のADHD(注意欠如・多動症)に関する研究を整理し、ホルモン変動がADHD症状や気分、実行機能に与える影響を明らかにするとともに、診断や治療における現状の課題と将来の研究の方向性を提示しています。特に、思春期・月経周期・妊娠・更年期といったライフステージごとの変化とADHDの相互作用に焦点が当てられています。
背景と目的
- 女性におけるADHDは過小評価・未診断のまま放置されやすい
- 診断の遅れや適切な支援の不足により、生活の質の低下や二次的な精神疾患(うつ病、不安障害など)のリスクが高まる
- この論文は、国際的専門家グループ(Eunethydis女性ADHD特別部会)による共同レビューであり、女性特有の臨床課題に着目している
主なトピックと発見
- ホルモンと脳の関係:
- エストロゲンやプロゲステロンの変動がドーパミン系に影響し、注意力・感情・実行機能に変調をもたらす
- 月経前、妊娠、産後、更年期といったホルモン低下の時期に症状悪化が顕著
 
- 実行機能と診断の課題:
- 女性では症状が目立ちにくく、感情面や社会的背景に埋もれやすい
- 診断が遅れることで、月経前不快気分障害(PMDD)や産後うつ、心血管リスクといった身体・精神的な影響が現れやすくなる
 
- 社会的・文化的な要因:
- 性別役割や社会的期待が、女性自身が症状に気づきにくくなる要因に
 
提言と今後の展望
- *性別とホルモンを考慮した縦断的研究(長期間の追跡研究)**が必要
- 医療・教育現場における診断基準・支援体制の見直し
- 個別化された治療法・支援策の開発が重要(例:ホルモン状態に応じた薬物調整など)
総括
ADHDは「男性の病気」という誤解が今なお根強い中、女性特有のホルモン変動と密接に関連していることが明らかになりつつあります。本研究は、診断の公平性と治療の最適化を目指し、女性のADHDを生涯にわたって包括的に支援する必要性を強く訴える内容となっています。
Cannabis Oil Protects Against Valproic Acid–Induced Autism Spectrum Disorder by Reducing Oxidative Stress
大麻由来オイルが自閉スペクトラム症モデルに与える保護効果:酸化ストレスの軽減を通じた改善
本研究は、大麻由来成分であるカンナビジオール(CBD)オイルが、自閉スペクトラム症(ASD)のモデルマウスにおいて、行動異常の改善や酸化ストレスの軽減に効果があることを示した実験的研究です。
研究背景
- ASDは、言語・社会的相互作用の困難、繰り返し行動、興味の限定、知的障害などを特徴とする発達障害であり、現在も根本的な治療法は存在しません。
- 特に**酸化ストレス(体内の抗酸化バランスが崩れる状態)**が、ASDの発症や症状悪化に関与している可能性が指摘されています。
- CBD(カンナビジオール)は、副作用が少なく、神経保護・抗酸化作用を持つ天然成分として注目されています。
実験の概要
- 妊娠中のマウスに**バルプロ酸(VPA)**を投与して、ASDの症状を持つマウスモデルを作成
- 出生後、オスの子マウスを4グループに分けて21日目から3週間処置:
- 対照群(生理食塩水)
- VPA群(ASDモデル)
- VPA + CBDオイル(100mg/kg/日、経口投与)
- VPA + リスペリドン(標準治療薬)
 
主な結果
- VPA群(ASDモデル)では以下のような症状が確認:
- 高い不安行動
- 痛みへの反応の遅れ
- 社会的交流の欠如
- 抗酸化物質(グルタチオンなど)の著しい減少
 
- CBDオイルを投与したマウスでは:
- 行動面での異常が改善(不安の軽減、社会的交流の向上など)
- 酸化ストレスが軽減され、脳の構造的変化も改善(海馬・前頭皮質・プルキンエ細胞の状態改善)
 
総括
この研究は、CBDオイルがASDモデルマウスの行動異常と脳内の酸化ストレスを改善する効果を持つことを示しており、今後ヒトへの応用可能性や安全性の検討が期待されます。植物由来の自然治療アプローチとして、CBDはASDに対する新たな選択肢となる可能性があります。
Sex‐Based Differences in Prenatal and Perinatal Predictors of Autism Spectrum Disorder Using Machine Learning With National Health Data
性差を考慮したASD予測モデルの構築:韓国の全国データと機械学習による解析
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のリスク要因が男女で異なる可能性に着目し、性別ごとの出生前・出生時のリスク要因をもとにASDを予測する機械学習モデルを構築したものです。韓国の全国医療保険データベースを活用した大規模な解析が行われました。
研究の概要
- 対象者: 2007年に生まれた単胎児75,105人とその母親
- 追跡期間: 出生〜2021年まで(最大14年間)
- 分析対象: 2002〜2007年の妊娠前・妊娠中・出産時の20のリスク因子
- 手法: ランダムフォレスト(機械学習アルゴリズム)とSHAP値(特徴の重要度分析)
主な結果と予測因子
- 高精度な予測性能を達成:
- 正確度(Accuracy)0.996
- AUC(識別性能)0.997
- 男女それぞれでも同等の性能を確認
 
- 主要なリスク因子(重要度の高い順):
- 妊娠前の母親のBMI(体格指数)
- 社会経済的地位(SES)
- 母親の出産時年齢
- 児の性別
- 出産施設の種類
 
性別による違いの詳細
- 妊娠前のBMI:
- 男女共通で低BMI(やせすぎ)がASDリスクを高める
- 一方、高BMI(肥満)は特に女児でリスクを増加させる傾向
 
- 社会経済的地位(SES):
- 男児では低SESがリスク増加に関連
- 女児では逆に高SESがリスクと関連(U字型の関係)
 
意義と応用可能性
- ASD予測において、妊娠前の母体の健康状態や社会的背景の重要性が示された
- 性別ごとの違いを考慮することで、より個別化された早期介入や支援が可能になる可能性
- 公衆衛生や妊娠前カウンセリングにも応用できる知見
総括
本研究は、性差を踏まえたASDの早期予測モデルの有用性を示した先進的な試みです。妊娠前のBMIや家庭環境など、出生前からの介入可能な因子がASDリスクに影響することを明らかにし、今後の予防的アプローチや社会的支援設計に貢献する可能性を示しています。
