成人のASD・ADHDにおける食事の問題
この記事では、発達障害や精神疾患に関連する最新の学術研究を紹介しています。内容は、自閉症スペクトラム障害(ASD)における反復行動を改善する経頭蓋直流電気刺激(HD-tDCS)の研究、ADHDの幼児向け行動療法に睡眠介 入を加えた新手法の検証、スウェーデンでの精神疾患の発症率の変化、ASDの脳ネットワーク発達の異常、いじめと友人関係の影響、成人のASD・ADHDにおける食事の問題、腸内細菌と白質の関係、結節性硬化症(TSC)とASDの関連、ディスレクシアの新しい定義の確立、そしてADHDの子どもにおけるビタミンD不足と睡眠障害の関係など、多岐にわたる研究を取り上げています。これらの研究は、発達障害の診断・治療・支援の改善に向けた新たな視点を提供しており、今後の医療や教育、福祉における実践に貢献する可能性があります。
学術研究関連アップデート
Understanding and targeting repetitive behaviors and restricted interests in autism spectrum disorder via high-definition transcranial direct current stimulation: a study-protocol - BMC Psychiatry
「自閉症スペクトラム障害における反復行動と限定的関心をHD-tDCSで改善する試み:研究プロトコル」
背景
- *自閉症スペクトラム障害(ASD)**は、社会的なやり取りの困難さや、反復行動(RBs)と限定的な興味を特徴とする発達障害。
- これまでの研究で、反復行動の神経学的な仕組みはある程度わかってきたが、それを直接ターゲットとした治療はあまり研究されていない。
- 本研究は、高精度経頭蓋直流電気刺激(HD-tDCS)を使って、自閉症の子どもの反復行動を改善できるかを検証する。
研究の目的
- HD-tDCS(高精度経頭蓋直流電気刺激)が自閉症児の反復行動を減らせるかを評価。
- 刺激する脳領域によって「低次の反復行動(単純な動きの繰り返し)」と「高次の反復行動(こだわり行動)」に違った影響が出るかを調べる。
研究方法
- 対象者:**8 〜13歳の自閉症児(IQ70以上)**を対象に実施。
- 10回のHD-tDCSセッションを実施。
- ランダムに3つのグループに分ける:
- 前補足運動野(pre-SMA)を刺激するグループ(低次の反復行動に関与する領域)
- 背外側前頭前野(dlPFC)を刺激するグループ(高次の反復行動に関与する領域)
- 偽治療(プラセボ)グループ(電極をつけるが実際には刺激しない)
- 実験の流れ:
- HD-tDCSは0.5mAの微弱な電流を20分間流す(初めと終わりの30秒は徐々に強度を変化)。
- すべての参加者が同じ手順でセッションを受けるが、プラセボグループは最初の30秒だけ電流を流す(それ以降は刺激なし)。
- 評価は以下の3回実施:
- 開始前(T0)
- 介入終了直後(T1)
- 3か月後のフォローアップ(T2)
- 主な評価項目:
- 反復行動尺度改訂版(RBS-R)の合計スコア(反復行動がどの程度改善されたかを測定)。
- 副次的な評価項目:
- 自閉症の症状全般
- 感覚処理の特徴
- 感情・行動の問題
- 睡眠の状態
- 親のストレス
- 神経心理学的な特性
- 高密度EEG(脳の電気活動の測定)による脳の変化
仮説
- HD-tDCSを受けたグループは、プラセボグループと比べて反復行動が有意に減少すると予測。
- 刺激する脳の部位によって、低次の反復行動と高次の反復行動への影響が異なる可能性がある。
考察と期待される効果
- HD-tDCSは、簡単に実施できる時間効率の良い治療法であり、既存の療育と組み合わせることで、より効果的な介入が可能になるかもしれない。
- 現状では反復行動を直接的に改善する治療法が限られているため、tDCSが新たな治療の選択肢となる可能性がある。
結論
- HD-tDCSが自閉症の反復行動を減らす効果を持つかどうかを検証するための、厳密な臨床試験のプロトコルを設定した研究。
- もし効果が確認されれば、従来の行動療法や薬物療法に加え、新しい治療アプローチとして活用できる可能性がある。
ポイントまとめ
✅ HD-tDCS(高精度経頭蓋直流電気刺激)が 自閉症の反復行動を改善できるかを検証
✅ 前補足運動野(pre-SMA)と背外側前頭前野(dlPFC)の刺激効果を比較
✅ 10回のセッション後、反復行動の変化を3回の時点で評価
✅ HD-tDCSは時間効率の良い治療法として、既存の療育と組み合わせられる可能性
✅ もし効果が確認されれば、自閉症の治療の新たな選択肢になるかもしれない
この研究は、非侵襲的な脳刺激(HD-tDCS)を用いた新しい治療法が、自閉症の反復行動にどのように影響を与えるかを明らかにするための臨床試験のプロトコルであり、今後の発展が期待されます。
Optimizing Attention and Sleep Intervention Study (OASIS): a protocol for a pilot randomized controlled trial to compare parent behavioral interventions with and without sleep strategies delivered in pediatric primary care for preschool-aged children at risk of childhood ADHD - Pilot and Feasibility Studies
「OASIS研究:幼児期のADHDリスクを持つ子どもへの睡眠介入を組み込んだ親向け行動療法の試験プロトコル」
背景
- *注意欠如・多動症(ADHD)**は、幼児期(3〜5歳)から症状が現れ、注意力の低下や多動性が、社会性や学習の発達を妨げる。
- 現在、ADHDに対する有効な治療法として**親向け行動介入(PBI)**が存在するが、長期的な症状の改善には十分な効果を示していない。
- 睡眠の問題はADHDの症状を悪化させる要因として知られており、特に幼児では行動的な睡眠問題が多く、PBIによって改善可能。
- しかし、従来のPBIには睡眠戦略が含まれておらず、ADHD症状への影響を検証した研究もない。
研究の目的
- PBIに睡眠介入(Sleep-Focused PBI, SF-PBI)を組み込むことで、ADHD症状をより効果的に改善できるかを検証。
- 小児 科のプライマリ・ケア(かかりつけ医)に行動療法士を配置し、よりアクセスしやすい介入方法を確立。
- この新しい介入方法の受容性・実現可能性・適切性を評価し、将来的な大規模試験の基盤を作る。
研究方法
- 対象:3〜5歳のADHD症状が高く、行動的な睡眠問題を抱える子ども50人とその家族。
- 実施場所:5つの小児科クリニック(行動療法士が常駐)。
- ランダム化試験(RCT)を実施:
- 標準的なPBIを受けるグループ
- 睡眠介入を組み込んだSF-PBIを受けるグループ
- 6回のセッションを実施し、親が子どもの行動をどのように管理するかを学ぶ。
- 介入終了後の評価:
- 行動療法士や親の報告をもとに、プログラムの受容性・実行可能性・適切性を評価。
期待される効果
- SF-PBIが、ADHD症状の軽減に役立つかどうかを検証。
- プライマリ・ケアを通じて、より多くの家族が早期介入を受けられる方法を確立。
- ADHDの予防や症状の悪化を防ぐための、新たな介入戦略としての可能性を探る。
結論
- 幼児期のADHDリスクを持つ子どもに対して、親向け行動療法に睡眠介入を加えることで、より効果的な介入が可能かを調査する試験プロトコル。
- 睡眠の問題を早期に解決することで、ADHDの症状や関連する問題の軽減が期待される。
- 今後、大規模な臨床試験につなげるための基礎データを収集。
ポイントまとめ
✅ ADHDリスクを持つ幼児の治療に、親向け行動療法(PBI)が使われる
✅ 従来のPBIには「睡眠戦略」が含まれていなかった
✅ 睡眠介入を追加した新しいPBI(SF-PBI)が、ADHD症状の改善に有効かを検証
✅ 50家族を対象に、小児科のプライマリ・ケアで試験を実施
✅ 介入の受容性・実行可能性・適切性を評価し、将来の大規模試験の準備を行う
この研究は、ADHDの早期介入において、睡眠の改善が有効なアプローチとなる可能性を探る重要な試験です。
Temporal trends of psychiatric disorders incidence by sex, education and immigration status among young and middle-aged adults in Sweden, 2004–2019 - BMC Psychiatry
「スウェーデンにおける精神疾患の発症率の推移(2004–2019年):性別・教育レベル・移民ステータスによる違い」
研究の目的
- 2004年から2019年の間にスウェーデンで精神疾患の発症率(ASIR)がどのように変化したかを調査。
- *性別(男性・女性)、教育レベル(低・中・高)、移民ステータス(第一世代・第二世代・現地生まれ)**ごとに、発症率の変化を分析。
研究方法
- 対象者:1958〜1994年生まれのスウェーデン在住者 5,051,875人(研究期間 中に死亡・移住した場合はその時点で除外)。
- 追跡期間:合計56〜58百万(5,600〜5,800万)人年分のデータを分析。
- 診断データ:精神疾患と診断されたケースを、入院・専門外来の記録から取得。
- 統計分析:
- 各精神疾患の**年齢調整発症率(ASIR)**を計算。
- Joinpoint回帰分析を用いて、**年間平均変化率(AAPC)**を推定。
研究結果
- 第一世代移民は、第二世代および現地生まれの人々よりも精神疾患の発症率が低い傾向があった。
- 特に低学歴層や女性でこの差が顕著だった。
- 全体的な発症率の変化
- ASD(自閉症スペクトラム)やADHDの発症率は大幅に増加:
- ASDの年間平均増加率(AAPC):11.8%
- ADHD・行動障害のAAPC:18.8%
- 一方で、他の精神疾患は横ばいか減少傾向:
- 薬物乱用障害のAAPC:0%(変化なし)
- 統合失調症や急性精神病のAAPC:-5.7%(減少)
- ASD(自閉症スペクトラム)やADHDの発症率は大幅に増加:
- 移民ステータスごとの変化
- 第一世代移民は、精神疾患全般の発症率の上昇が比較的少なく、発症率の低下が多かった。
- この傾向は特に低学歴層で顕著だった。
結論
- 2004〜2019年の間に、精神疾患の発症率は全体的に減少傾向にあったが、ASDやADHDの診断は増加。
- 第一世代移民は、現地生まれや第二世代移民と比べ、精神疾患の発症率が低く、増加率も小さい傾向。
- 低学歴層では、移民ステータスによる違いがより顕著だった。
考察と社会的意義
- ADHDやASDの発症率の上昇は、診断基準の変化や社会的認識の向上による影響も考えられる。
- 移民ステータスによる精神疾患の発症率の違いは、文化的背景、社会的支援の違い、医療機関の利用状況などが関係している可能性がある。
- 低学歴の移民の精神疾患リスクが低い理由として、家族のサポートや社会的結びつきの強さが影響している可能性がある。
ポイントまとめ
✅ 2004〜2019年の間に、全体的な精神疾患の発症率は減少傾向にあった
✅ 自閉症(ASD)とADHDの発症率は大幅に増加(ASD:年間+11.8%、ADHD:+18.8%)
✅ 第一世代移民は、精神疾患の発症率が全体的に低 く、増加率も小さい
✅ 低学歴層では、移民ステータスによる違いがより顕著
✅ 精神疾患の発症率の変化は、診断基準の変化や社会的要因の影響を受けている可能性がある
この研究は、スウェーデンにおける精神疾患の発症率の長期的な推移を分析し、社会的背景や移民ステータスが精神疾患のリスクにどのように影響するかを明らかにする重要な知見を提供しています。
Atypical Developmental Patterns of Sensorimotor-Related Networks in Autism Spectrum Disorder: A BrainAGE Study Based on Resting-State fMRI
「自閉症スペクトラム障害(ASD)における感覚運動関連ネットワークの発達パターンの異常:BrainAGEを用いた安静時fMRI研究」
研究の背景
- 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、脳の発達が典型的なパターンと異なることが知られている。
- これまでのBrainAGE研究(脳の年齢を推定する手法)では、ASDの人々の脳機能の発達が加速または遅延することが示唆されていた。
- しかし、この異常な発達パターンが脳全体で起こるのか、それとも特定の機能ネットワークに限定されるのかは不明だった。
- 本研究では、安静時fMRI(機能的MRI)を用いて、ASDの人々の脳の発達パターンを詳細に分析。
研究方法
- 対象者:5歳〜40歳のASDの人 127名 と健常者 135名。
- データ収集:安静時fMRIを使用し、ALFF(局所的な脳活動の強さ)マップを作成。
- 分析方法:
- 脳の10のサブネットワーク(機能的に関連する脳領域のグループ)に分けて発達パターンを分析。
- 機械学習手法(ILWMLP回帰)を用いて、BrainAGE解析を実施(個人の脳機能の発達が年齢に対してどの程度遅れているか、または進んでいるかを測定)。
研究結果
- ASDの人々の脳の発達パターンは、感覚運動関連ネットワーク(聴覚、運動、感覚運動ネットワーク)で特に異常が見られた。
- 各ネットワークにおける発達パターンの特徴:
- 聴覚ネットワーク & 感覚運動ネットワーク:発達の遅れが見られ、特に年齢が高くなるほど遅れが顕著に。
- 運動ネットワーク:幼少期では発達が加速しているが、年齢が上がると遅延が見られた。
結論
- ASDでは、感覚や運動に関わる脳ネットワークの発達が通常とは異なるパターンを示す。
- この発達の異常は、年齢によって異なり、年齢が高くなるほど遅れが顕著になる場合が多い。
- 特に、聴覚ネットワークと感覚運動ネットワークの発達遅延は、ASDの特徴的な感覚処理の問題と関連している可能性がある。
考察と今後の展望
- ASDの感覚処理の異常(例:音に過敏・鈍感、運動のぎこちなさなど)は、こうした神経ネットワークの発達の遅れと関係している可能性がある。
- 発達の早い段階では運動ネットワークが過剰に発達し、その後発達が遅れるというパターンが見ら れるため、年齢に応じた介入が必要になるかもしれない。
- 今後の研究で、これらの発達パターンがどのように症状に影響するのかをより詳しく調べる必要がある。
ポイントまとめ
✅ ASDの人々は、感覚運動関連ネットワーク(聴覚・運動・感覚運動)の発達に異常がある
✅ 聴覚・感覚運動ネットワークは、特に年齢が上がると発達の遅れが顕著になる
✅ 運動ネットワークは、幼少期では発達が速すぎるが、年齢とともに遅れが生じる
✅ ASDの感覚処理や運動の問題は、こうした脳の発達の異常と関係している可能性がある
✅ 年齢ごとに適した介入方法を考えることが、より効果的な支援につながるかもしれない
この研究は、ASDの人々の脳の発達パターンをより詳細に理解することで、年齢ごとに適した支援や治療法の開発につながる可能性があることを示しています。
Satisfaction with friendship support protects autistic youth from the negative effects of peer victimization
「友人関係の満足度が自閉症の若者をいじめの悪影響から守る」
背景
- 自閉症の若者は、非自閉症の若者と比べて、いじめ(peer victimization)を受けるリスクが高いことが知られている。
- いじめに遭うと、一般的に精神的な健康が悪化(例:うつ症状の増加)する。
- しかし、良好な友人関係があれば、いじめの悪影響を和らげる可能性があると一般の若者では示されている。
- これまで、自閉症の若者において、友人関係がいじめの影響をどう緩和するかについては研究されてこなかった。
研究の目的
- 自閉症の若者がいじめを経験した際に、友人関係の満足度が精神的健康(うつ症状)に与える影響を調査。