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通常学級で学ぶ自閉症児の休み時間の遊びの希望と実際の行動、特に男女差

· 約28分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害・知的障害・希少疾患に関わる子どもと家族、教育、医療、生活支援をめぐる最新研究を幅広く紹介しており、具体的には、自閉症乳児における社会行動と生理調整(RSA)の早期ダイナミクス通常学級で学ぶ自閉症児の休み時間の遊びの希望と実際の行動、特に男女差サウジアラビアの学齢期児童におけるIDDの有無と栄養不良の実態および診断別の違い、そして進行性希少疾患であるMPS IIIAの子どもに対するABAとAACを用いた長期コミュニケーション支援の可能性といった研究を取り上げています。全体として、この記事は、発達や障害の特性を固定的に見るのではなく、早期発達、生理反応、学校環境、健康・栄養、長期支援のあり方を含めた多面的な視点から、本人に合った支援や環境調整を考える重要性を示す研究群をまとめた内容になっています。

学術研究関連アップデート

Social Behavior Forecasts Moment‐to‐Moment Changes in RSA in Infants With Autism

自閉症のある乳児では、「親を見ること」がその瞬間の生理状態の変化とより強く結びついているのか

― 乳児の社会行動とRSAの双方向ダイナミクスを、月齢3・4・6か月で調べた研究

この論文は、乳児の社会行動RSA(respiratory sinus arrhythmia:呼吸性洞性不整脈)のあいだに、どのような瞬間的な相互作用があるのかを調べた研究です。RSAは、心拍のゆらぎを通してみる生理的自己調整の指標で、乳児期に発達し、現在や将来の社会性とも関係すると考えられています。本研究は、とくに自閉症スペクトラム症(ASD)を後に診断される乳児や、家族歴からASD可能性が高い乳児で、この社会行動と生理反応の結びつき方に違いがあるかを検討しています。

この研究の背景

RSAは、情動や注意、対人場面での調整に関わる生理指標としてよく用いられます。これまで、RSAの高さや発達的変化が社会性と関連することは知られていましたが、親子相互作用のその場その場で、社会行動とRSAがどちらからどちらへ影響しやすいのかはあまり分かっていませんでした。とくにASDでは、生理調整の違いが社会的困難の背景にある可能性があるため、こうした行動と生理の双方向の微細なダイナミクスを早期から見ることには大きな意味があります。

研究の目的

この研究の目的は、乳児の社会行動(親を見る、笑う)とRSAが、瞬間ごとにどのように影響し合っているかを明らかにすることでした。とくに、ASDを後に診断された乳児と定型発達児、またASD家族歴のある高リスク乳児と低リスク乳児で、その関係の出方が異なるかが検討されました。

方法

対象は74名の乳児で、ASDの家族性リスクが高い群(EL)と低い群(LL)が含まれていました。その後の発達経過により、乳児は定型発達(TD)またはASDに分類されました。乳児たちは、生後3か月、4か月、6か月の時点で、養育者との対面の二者相互作用課題を行いました。この場面で、乳児の社会行動(親を見る、笑う)とRSAが測定されました。解析にはGranger causality analysisが用いられ、RSAが後の社会行動を「予測」するか、逆に社会行動が後のRSA変化を「予測」するかが検討されました。

主な結果

1. 社会行動の方が、RSAの変化を予測することが多かった

全体として、RSAが社会行動を予測するよりも、社会行動の方がその後のRSA変化を予測することの方が多いことが分かりました。つまり、乳児の生理状態が先に社会行動を決めるというより、乳児が親を見る・笑うといった社会行動を示したあとに、生理調整が変化しやすいという関係がより多く見られたということです。

2. とくに「親を見ること」がRSA変化を予測しやすかった

社会行動の中でも、もっとも重要だったのは養育者を見る行動でした。親への視線が、その後のRSAの瞬間的変化を予測する例が多く見られました。これは、乳児の社会的注意が、その場の生理的調整と密接に結びついていることを示しています。

3. 笑顔がRSAを予測する関係は、高リスク乳児でより多く見られた

笑うことがRSAを予測する関係は、低リスク乳児(LL)よりも高リスク乳児(EL)で多く見られました。 これは、最終的にASD診断に至ったかどうかにかかわらず、ASD家族歴を持つ乳児では、初期の社会行動と生理反応のつながり方に違いがある可能性を示しています。

4. 親を見る行動がRSAを予測する関係は、ASD乳児でより多く見られた

さらに重要なのは、親を見る行動がRSA変化を予測する関係が、TD乳児よりもASD乳児で多く見られたことです。これは、後にASDと診断される乳児では、社会的注意と生理調整の結びつき方が、すでに生後半年までの時点で異なっている可能性を示しています。

この研究から分かること

この研究が示しているのは、乳児の社会行動とRSAは一方向ではなく、双方向に関わり合うものの、より頻繁なのは社会行動からRSAへの影響だということです。特に、自閉症に関連する特徴をもつ乳児では、親への視線や笑顔が、その後の生理調整により強く結びついている可能性があります。つまり、ASDの早期発達を考えるときには、社会行動の量だけでなく、その社会行動が身体の調整システムとどう結びついているかを見ることが重要だと考えられます。

実践上の示唆

この研究はすぐに診断法や介入法を変えるものではありませんが、親子相互作用の中での社会的注意笑顔が、生理調整と密接に関わることを示しています。そのため、乳児期早期の支援や観察では、単に「どれだけ笑うか」「どれだけ見るか」だけでなく、対人行動と生理調整がどのように連動しているかに注目する視点が有用かもしれません。特に、ASD家族歴のある乳児や、のちにASDと診断される乳児では、この連動の仕方に特徴がある可能性があります。

この研究の限界

この研究は、乳児期の親子相互作用という限定された場面でのダイナミクスを扱っており、日常生活全体を直接反映するものではありません。また、Granger causalityは時間的な予測関係を示しますが、厳密な因果を証明するものではありません。 さらに、対象数は大規模とは言えず、今後はより多くの乳児を対象にした追試が必要です。

まとめ

この研究は、乳児の社会行動RSAの瞬間的な双方向関係を、生後3・4・6か月の親子相互作用場面で調べたものです。結果として、RSAが社会行動を予測するより、社会行動の方がRSA変化を予測することが多く、とくに親を見る行動が重要でした。また、笑顔がRSAを予測する関係はASD高リスク乳児で多く、親を見る行動がRSAを予測する関係は後にASDと診断される乳児で多いことが示されました。全体として本論文は、自閉症に関連する初期発達の違いは、社会行動そのものだけでなく、社会行動と生理調整の結びつき方の中にも現れている可能性を示した研究です。

“Where the h*ck are we going to get a real dragon from?” A mixed methods study investigating gender differences of playtime behaviours of autistic children in mainstream primary school

自閉症のある子どもは、休み時間に何を望み、実際にはどう遊んでいるのか

― 通常学級に通う自閉症児の遊びの希望と実際の行動、そして男女差を調べた混合研究法研究

この論文は、通常の小学校に通う自閉症のある子どもたちが、休み時間に何を望んでいるのか、そしてその希望が実際の遊び方とどのくらい一致しているのかを調べた研究です。あわせて、自閉症のある男児と女児で、休み時間の行動や望む遊び方にどのような違いがあるかも検討しています。休み時間の遊びは、単なる息抜きではなく、子どもの発達、幸福感、学校生活への参加に深く関わる重要な時間です。本研究は、自閉症児の遊びを一括りにせず、本人が望む遊び方観察された行動の両方から丁寧に見ている点に特徴があります。

この研究の背景

遊びは子どもの基本的な権利であり、社会性や自己決定感、学校での安心感にも関わります。一方で、自閉症のある子どもの遊びは、一般的な発達の枠組みだけでは捉えにくく、周囲から「一人で遊んでいる」「独特な遊び方をしている」と見られがちです。また、これまでの研究では、子ども本人が休み時間に何を求めているのかが十分に調べられておらず、さらに男女差を考慮した研究も多くありませんでした。そこで本研究は、本人の希望と実際の行動をあわせて見ることで、より現実に即した理解を目指しています。

研究の目的

この研究の目的は、自閉症のある男児と女児が休み時間に何を望んでいるのかを明らかにすることその希望が実際の遊び行動と一致しているかを調べること、そして遊びの経験や行動にどのような性差があるかを探ることでした。

方法

この研究は混合研究法で行われました。つまり、子どもたちの語りや希望を扱う質的データと、実際の休み時間行動を観察する量的データの両方を組み合わせています。要旨から読み取れる範囲では、研究では、自閉症のある子どもたちが理想の休み時間について語った内容と、学校で実際に観察された遊び行動が比較されました。

主な結果

1. 子どもたちは、休み時間に「自分で選べること」を強く望んでいた

参加者が望んでいたこととして、まず大きかったのは遊びの主体性(agency)でした。つまり、何をして遊ぶか、どんな資源を使うかを自分で選べることが大切だと考えていたわけです。これは、単に「友だちと遊べるか」だけでなく、自分に合った遊びを自分で決められることが重要であることを示しています。

2. 豊富な遊び道具や、遊ぶための条件も重要だった

子どもたちは、十分な遊び資源があることや、遊びやすい特定の条件も求めていました。ここには、屋内と屋外の選択肢、安全さ、使いたい物があること、特別な興味に合った資源があることなどが含まれます。つまり、遊びの質は本人の特性や関心に合った環境設計に大きく左右されると考えられます。

3. 他の子どもの存在は大事だが、望む関わり方は男女で異なっていた

自閉症のある子どもたちは、全体として**「他の子どもがいること」を望んでいました。ただし、その関わり方には違いがありました。男児は、他の子どもと一緒にゲームをすること**を望む傾向が強く、女児は、少人数の顔なじみの同級生と一緒にいることを好む傾向がありました。これは、「一緒に遊びたい」という願いは共通していても、望む社会的距離感や関係の形は同じではないことを示しています。

4. 観察では、自閉症女児は一人遊びや並行的な関わりが多かった

観察データでは、自閉症のある女児は、一人遊びjoint engagement に多くの時間を使っていました。joint engagement は、必ずしも完全な共同遊びではないものの、他者とある程度同じ場や活動を共有している状態と考えられます。つまり、女児は、完全に孤立しているわけではなく、少し距離を保ちながら一緒にいる形が多い可能性があります。

5. 観察では、自閉症男児はゲームか一人遊びが多かった

一方、自閉症のある男児は、ゲーム遊びまたは一人遊びをしていることが多い傾向がありました。つまり、構造のある遊びに入るか、一人で遊ぶかの両極が比較的目立っていたといえます。

6. 理想の休み時間と実際の遊び方にはズレもあった

本研究で特に重要なのは、**子どもたちが語った「理想の休み時間」**と、実際に観察された遊び行動の間に差が見られたことです。これは、実際の行動だけを見て「この子は一人遊びが好き」と決めつけるのは危険だということを示しています。本人は本当は別の形を望んでいても、環境や資源、人間関係、安心感の不足によって、望む遊びが実現できていない可能性があるからです。

この研究から分かること

この研究が示しているのは、自閉症のある子どもの遊びは、多様で目的があり、本人なりの意味をもったものだということです。また、遊びの希望は単純ではなく、安全さ、資源、主体性、他者との距離感など複数の要素から成り立っています。さらに、男児と女児では、望む関係の形や実際の遊び方に一定の違いが見られました。とくに女児は、小さく安心できる関係性を好み、男児はルールのあるゲーム遊びを好みやすい傾向がありました。

実践上の示唆

この研究からは、学校の休み時間支援では、単に「みんなで仲良く遊ぶ」ことを目標にするのではなく、多様な遊び方を認める環境づくりが重要だと分かります。たとえば、少人数で過ごせる場所構造化されたゲームの機会一人でも安心していられる空間特別な興味に基づく遊び資源屋内外を選べる柔軟な環境などが考えられます。特に重要なのは、本人の行動だけでなく、本人が本当は何を望んでいるかを聞くことです。

この研究の限界

要旨から分かる範囲では、観察データはtentatively suggest と表現されており、結論はやや慎重に読む必要があります。また、対象者数や学校環境の詳細は要旨では分からないため、一般化には限界があります。ただし、本人の希望と観察行動を両方見たこと、そして男女差に注目したことは大きな強みです。

まとめ

この研究は、通常学級に通う自閉症のある子どもたちについて、休み時間に何を望んでいるか実際にどう遊んでいるかを、男女差も含めて調べた混合研究法研究です。結果として、子どもたちは主体性、十分な遊び資源、遊びやすい条件、他の子どもの存在を望んでいましたが、その関わり方には違いがあり、男児は一緒にゲームをすること、女児は少人数の親しい集団で一緒に過ごすことを好む傾向がありました。観察では、女児は一人遊びや並行的関与、男児はゲームまたは一人遊びが多い傾向が見られ、さらに理想の休み時間と実際の行動にはズレもありました。全体として本論文は、自閉症児の遊びは多様で意味のあるものであり、学校は一つの正解を押しつけるのではなく、多様な遊び方と本人の希望を支えられる環境を整える必要があることを示した研究です。

Prevalence of Malnutrition Among School‐Aged Children With and Without Intellectual and Developmental Disabilities in Saudi Arabia: A Cross‐Sectional Study

サウジアラビアの学齢期児童では、発達障害や知的障害があると栄養不良は多いのか

― IDDのある子どもとない子どもを比較し、低栄養と過栄養の実態を調べた横断研究

この論文は、サウジアラビアの学齢期児童において、知的障害・発達障害(IDD)のある子どもとない子どもで、栄養不良の頻度がどの程度違うのかを調べた横断研究です。IDDのある子どもは、食行動の偏り、摂食の難しさ、運動機能や生活環境の違いなどから、栄養不良のリスクが高い可能性があります。ただし、サウジアラビアでは学齢期の子どもに関するデータが限られていました。本研究は、低栄養だけでなく過体重・肥満も含めて“栄養不良”として捉えた点に特徴があります。

この研究の背景

栄養不良というと、やせや発育不全だけを思い浮かべやすいですが、実際には過体重や肥満も重要な栄養問題です。特に学齢期の子どもでは、成長発達だけでなく、将来の健康リスクにも関わります。IDDのある子どもでは、障害特性や疾患ごとの違いによって、栄養面の課題が一様ではない可能性があります。そのため、本研究ではIDD全体だけでなく、ASD、ダウン症、ADHD、脳性麻痺といったサブタイプごとの差にも注目しています。

研究の目的

この研究の目的は、サウジアラビアの5〜17歳の子どもについて、IDDのある群とない群で栄養不良の有病率を比較することでした。あわせて、IDDのサブタイプごとにどの程度ばらつきがあるかも検討されました。

方法

研究は、2024年8月〜12月に、リヤドの大学病院にあるChild Development Centerで行われました。対象は、5〜17歳の学齢期児童で、IDD群には自閉スペクトラム症(ASD)、ダウン症(DS)、注意欠如・多動症(ADHD)、脳性麻痺(CP)の診断を受けた子どもが含まれました。比較のために、年齢をそろえた非IDD児も募集されました。評価では、身長、体重、BMIを測定し、WHOの成長基準を用いて、BMI-for-age、height-for-age、weight-for-ageのzスコアが算出されました。栄養不良は、**低栄養(やせ、発育阻害、低体重)過栄養(過体重、肥満)**のいずれか、または両方がある状態として定義されました。

対象者数

最終的な参加者は168名で、内訳はIDD群68名、非IDD群100名でした。

主な結果

1. 全体としての栄養不良の頻度は、IDD群と非IDD群でほぼ同じだった

全体の栄養不良の有病率は、**IDD群47%、非IDD群48%**で、大きな差はありませんでした。統計的にも有意差は認められず、IDDがあるかどうかだけでは、全体の栄養不良頻度は変わらなかったことになります。

2. 両群とも、低栄養より過栄養の方がやや多かった

栄養不良の中身を見ると、過栄養が低栄養よりやや多いという傾向がありました。IDD群では過栄養29%、低栄養25%、非IDD群では**過栄養32%、低栄養28%**でした。つまり、この集団では、単に「栄養不足」だけでなく、過体重・肥満も大きな課題であることが分かります。

3. ただし、IDDの種類ごとに見るとかなり差があった

全体ではIDD群と非IDD群に差がなかった一方で、IDDサブタイプごとの差は大きいことが分かりました。栄養不良の割合は、**ダウン症90%、ADHD50%、脳性麻痺48%、ASD24%**でした。つまり、IDDを一括りにして考えると見えにくいが、障害の種類によって栄養リスクはかなり異なることが示されています。

4. “低身長かつ過体重・肥満”という二重負担も見られた

個人レベルで、発育阻害と過体重・肥満が同時にあるという、いわば“二重の栄養負担”も観察されました。これは**非IDD児で12%、IDD児で7%**に見られました。つまり、単純にやせか肥満かではなく、成長不全と過栄養が併存する複雑な状態も少なくないことが分かります。

この研究から分かること

この研究が示しているのは、学齢期の子どもでは、IDDの有無にかかわらず、かなり高い割合で栄養不良が存在するということです。しかも、その中心は低栄養だけではなく、過体重・肥満を含む過栄養にもあります。一方で、IDD群の中を細かく見ると、リスクは均一ではなく、特にダウン症では非常に高い頻度が示されました。つまり、支援を考えるときは「IDD児全体」としてではなく、サブタイプごとの特徴を踏まえた対応が必要だと分かります。

実践上の示唆

この研究からは、子どもの栄養支援では、学校や医療機関での日常的な成長モニタリングが重要であることが分かります。特に、体重だけでなく、身長、BMI、年齢相応の成長曲線を継続的に確認する必要があります。また、IDDのある子どもでは、診断名ごとに栄養リスクが異なる可能性があるため、一律の対応ではなく、個別性の高い栄養支援が求められます。さらに、過栄養が目立つことから、栄養問題を「不足」だけで考えないことも重要です。

この研究の限界

この研究は病院ベースのサンプルを対象にした横断研究であり、地域全体の子どもをそのまま代表しているとは限りません。また、横断研究なので、なぜサブタイプごとに差があるのか、その背景要因までは直接分かりません。ただし、学齢期のIDD児と非IDD児を比較し、しかもサブタイプ差まで示した点には大きな意義があります。

まとめ

この研究は、サウジアラビアの学齢期児童168名を対象に、IDDのある子どもとない子どもで栄養不良の頻度を比較した横断研究です。結果として、全体の栄養不良頻度はIDD群47%、非IDD群48%で大きな差はなく、両群とも低栄養より過栄養の方がやや多いことが示されました。ただし、IDDサブタイプ別にみると差は大きく、**ダウン症90%、ADHD50%、脳性麻痺48%、ASD24%**と、診断によってリスクの分布がかなり異なっていました。全体として本論文は、学齢期児童の栄養問題はIDDの有無だけでは語れず、過栄養も含めた継続的な成長評価と、サブタイプに応じた栄養支援が必要であることを示した研究です。

Instructing and Prolonging Communication for a Young Girl With MPS IIIA Using Applied Behavior Analysis

進行性にことばを失いやすいMPS IIIAの子どもで、コミュニケーションはどこまで教え、保てるのか

― ABAを用いて、10年間にわたりAACを含むコミュニケーション支援を続けた症例研究

この論文は、**ムコ多糖症IIIA型(MPS IIIA/Sanfilippo症候群)**の女児に対して、**応用行動分析(ABA)**を用いたコミュニケーション支援を長期に行い、その効果を10年間にわたって振り返った症例研究です。MPS IIIAは進行性の神経変性を伴う希少疾患で、多くの子どもは重いコミュニケーション遅滞を示し、6歳頃までに話しことばを欠く、あるいは失うことが多いとされています。そのため支援は緩和的ケアに傾きやすいのですが、本研究は、進行性疾患であっても、早期から継続的にコミュニケーションを教え、一定程度保てる可能性を示した点に意義があります。

この研究の背景

MPS IIIAは、ライソゾーム病の一つで、発達遅滞に加えて、年齢とともに技能の退行が進みやすい疾患です。特にコミュニケーション面では影響が大きく、ことばの獲得が難しいだけでなく、いったん持っていた力も失われやすいことが知られています。そのため、医療や支援の現場では「どう失われていくか」に焦点が当たりやすく、積極的にコミュニケーションを教えて維持する支援は十分に検討されてきませんでした。本研究は、その点に正面から取り組んだものです。

研究の目的

この研究の目的は、MPS IIIAの女児に対してABAを用いてコミュニケーションを指導したとき、進行性の退行がある中でも、どの程度その力を獲得・維持できるかを長期的に検討することでした。特に、AAC(拡大代替コミュニケーション)による要求行動がどのように変化したかが重要な焦点になっています。

方法

この研究は、10年間の縦断的な後ろ向き症例研究です。対象は、MPS IIIAの1名の女児でした。支援経過は次の3つの時期に分けて整理されました。Phase 1:症状が目立つ前の時期(pre-symptomatic)Phase 2:退行が進行する時期(regression)Phase 3:Phase 2で得られた力の維持段階 支援にはABAの方法が用いられ、特にコミュニケーションの指導が継続的に行われました。

主な結果

1. ABAを用いたコミュニケーション指導は有効だった

研究全体として、ABAの方法でコミュニケーションを教えることは有効だったと報告されています。つまり、進行性疾患であっても、「どうせ失われるから教えても意味がない」という見方ではなく、教えること自体に価値があることが示されました。

2. AACによる要求は、後年になっても高い水準で見られた

特に重要なのは、13歳の時点でもAACを使った要求行動が、Phase 1およびPhase 2で教えられたものとして高い頻度で維持されていたことです。これは、進行に伴う退行がある中でも、AACを通じた機能的コミュニケーションが一定程度保たれたことを意味します。

3. 好きなものに関する要求も、複数カテゴリーで継続して使われていた

女児は、AACによる基本的な要求だけでなく、好みの対象に関する追加の要求も、複数の好みカテゴリーにわたって使い続けていました。つまり、単に一つの反応が残ったのではなく、意味のある選好や欲求を伝える手段としてコミュニケーションが保たれていたことが示されています。

この研究から分かること

この研究が示しているのは、MPS IIIAのように進行性の技能退行が予測される疾患であっても、コミュニケーション支援をあきらめる必要はないということです。むしろ、症状が目立つ前から先回りして介入し、退行が始まった後も継続して支援することで、伝える力をより長く保てる可能性があります。特にAACは、話しことばが難しくなっていく中でも、機能的なコミュニケーション手段として有望だと考えられます。

実践上の示唆

この論文からは、MPS IIIAの子どもへの支援では、緩和的ケアだけでなく、早期からの積極的なコミュニケーション介入を検討する意義があると分かります。とくに、AACを早めに導入し、継続的に要求行動を教えることは、本人が周囲に意思を伝え続けるための重要な手段になりえます。また、「退行があるから新しいことは教えにくい」と決めつけるのではなく、維持可能なスキルを見極めながら、できるだけ早く支援を始める視点が重要です。

この研究の限界

この研究は1例のみの症例研究であり、すべてのMPS IIIA児に同じような効果が得られるとは限りません。また、後ろ向き研究であるため、どの要因が特に維持に効いたのかを厳密に切り分けることは難しい面があります。ただし、MPS IIIAのような希少進行性疾患では、長期にわたる詳細な症例報告そのものが非常に貴重です。

まとめ

この研究は、MPS IIIAの女児1名に対して、ABAを用いたコミュニケーション支援を10年間継続した症例研究です。結果として、AACによる要求行動は進行後も高い頻度で維持され、13歳時点でも複数の好みカテゴリーにわたる要求が継続して使われていました。 全体として本論文は、MPS IIIAのような進行性疾患でも、早期かつ継続的なコミュニケーション介入によって、伝える力を伸ばし、より長く保てる可能性があることを示した重要な症例研究です。

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