EVを介したシナプス調整メカニズムとSHANK3関連ASDに対する新規治療アプローチの可能性
本記事は、SHANK3欠損に関連する自閉症スペクトラム障害(ASD)の分子・細胞レベルの病態に対し、幹細胞由来の細胞外小胞(EVs)を用いて機能回復が可能かを検証した前臨床研究を紹介している。ヒトiPSC由来神経細胞およびShank3B−/−マウスモデルを用い、SHANK3変異細胞由来EVが神経過剰興奮を伝播する一方で、間葉系幹細胞や健常ドナーiPSC由来EVがシナプス機能と神経成熟を正常化し、さらにマウスのASD様行動を改善することを示した研究であり、EVを介したシナプス調整メカニズムとSHANK3関連ASDに対する新規治療アプローチの可能性を提示する内容である。
学術研究関連アップデート
Extracellular vesicles from stem cells rescue cellular phenotypes and behavioral deficits in SHANK3-associated ASD neuronal and mouse models
🧠 幹細胞由来「細胞外小胞」でSHANK3関連自閉症モデルを改善できるか?
― iPSC神経細胞とマウスモデルで検証した治療的アプローチ(Cell Death & Disease, 2026)―
SHANK3はシナプスの構造と機能を支える重要なタンパク質で、
その欠損は**自閉症スペクトラム障害(ASD)やフェラン・マクダーミド症候群(PMS)**と強く関連しています。
SHANK3欠損モデルでは、
- 皮質神経の過剰興奮(hyperexcitability)
- 神経成熟の異常
が早期から見られることが知られています。
本研究は、
幹細胞由来の細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EVs)を使って、こうした異常を回復できるか?
をヒト神経細胞モデルとマウスモデルの両方で検証しました。
🔬 細胞外小胞(EVs)とは?
EVは細胞から放出される小さな脂質膜小胞で、
- RNA
- タンパク質
などを運び、細胞間コミュニケーションを担います。
🧪 研究の方法
① ヒトiPSC由来皮質神経細胞モデル
- SHANK3変異神経細胞
- 正常対照神経細胞
それぞれからEVを分離し、「入れ替え」実験を実施。
② Shank3B−/−マウスモデル
- ASD様行動を示す遺伝子改変マウス
- EVを鼻腔投与(intranasal)
📊 主な結果
① SHANK3変異細胞由来EVは異常を「伝播」する
- 変異神経由来EVを正常神経に与えると、
- 過剰興奮
- 異常な成熟
が誘導された。
👉 EVが病態情報を運んでいる可能性。
② しかし正常神経由来EVは十分に回復させられなかった
- 正常EVでは変異細胞の異常を救済できず
- シナプス関連タンパク質の含有量が少ないことが示唆された
③ 幹細胞由来EVは回復効果を示した
間葉系幹細胞(MSC)由来EVおよび
健常ドナーiPSC由来EVは:
- 過剰興奮を抑制
- 神経成熟を正常化
含有タンパク質:
- 補体関連(C1R, C1S)
- 可塑性関連(MDK, IGFBP3)
- 恒常性調整因子(FGF2, SFRP1)
👉 シナプス機能を調整する分子群が豊富。
④ マウス行動も改善
Shank3B−/−マウスに
iPSC由来EVを鼻腔投与すると:
- ASD様行動が有意に改善
👉 細胞レベルだけでなく行動レベルでも効果。
🧠 何が新しいのか?
✔ EVが神経過剰興奮を媒介する新しい病態機序
✔ 幹細胞EVがシナプス機能を調整可能
✔ 非侵襲的投与(鼻腔投与)で効果
✔ SHANK3関連ASDの治療候補
🎯 臨床的意義
- SHANK3関連ASDやPMSに対する新規治療アプローチ
- 神経調整・シナプス成熟を標的とした生物学的治療
- 個別化医療への可能性
⚠ 限界
- 前臨床研究(ヒト治療ではない)
- 長期安全性未検証
- ASD全体への一般化は未確定
🧩 一文まとめ
SHANK3欠損に伴う神経過剰興奮と行動異常は、幹細胞由来の細胞外小胞によって回復可能であることがヒト神経細胞およびマウスモデルで示され、EVを用いた新たなASD治療戦略の可能性を提示した前臨床研究である。
