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身体活動や睡眠への非薬物介入など臨床応用可能な介入研究

· 約31分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事は、発達障害領域における最新研究を横断的に紹介しており、①ディスレクシア児における複雑な学術的言語能力の大規模検証と口頭言語評価の不足を指摘するレビュー、②自閉スペクトラム症(ASD)の分子・神経ネットワーク基盤(SHANK3やSema5A変異、高次構造‐機能結合の異常など)を明らかにする基礎神経科学研究、③身体活動や睡眠への非薬物介入など臨床応用可能な介入研究、④ADHDにおける感覚処理・マインドワンダリング・感情的過食と実行機能との関連を検討した心理学研究などを取り上げている。全体として、発達障害を「読み・行動の問題」に限定せず、言語能力、実行機能、情動調整、脳ネットワーク、分子メカニズム、生活習慣介入までを含む多層的視点から再整理し、評価と支援の精緻化の必要性を示す研究群を紹介した内容である。

学術研究関連アップデート

Examining complex academic language in children with dyslexia: a comparative analysis with curriculum standards

📚 ディスレクシアの子どもは「高度な学術的言語」も苦手なのか?

― カリキュラム基準と比較した大規模研究(Annals of Dyslexia, 2026)―

この研究は、

ディスレクシア(読み書き障害)のある子どもは、読む力だけでなく“複雑な学術的言語(complex academic language)”にも困難を抱えているのではないか?

という問いを検証した大規模研究です。

特に、

  • 発達性言語障害(DLD)を併存している子ども
  • DLDの診断はない子ども

の両方を比較しながら、学校のカリキュラム基準に照らして評価しました。


🔎 なぜ重要なのか?

これまで、

  • ディスレクシアの約50%はDLDも併存すると言われている

一方で、

診断には至らない“サブクリニカルな言語の弱さ”を持つ子どもが、実はもっと多いのでは?

という疑問がありました。

特に問題になるのは、

  • *読解に不可欠な「複雑な言語能力」**です。

🧪 研究の方法

  • 対象:1~6年生のディスレクシア児 183名
  • DLDあり/なしの両群を含む
  • ナラティブ(物語の再話)課題を実施
  • CUBED-3の「Narrative Language Measures」を使用

評価したのは次の3つ:

  1. 🗣 談話レベル(discourse complexity)
  2. 🧩 文レベル(sentence complexity)
  3. 📖 語彙レベル(vocabulary complexity)

そして、それぞれを学年ごとのカリキュラム基準と比較しました。


📊 主な結果

① ほとんどの子どもが基準を下回る

  • 談話構造:大多数が基準未達
  • 複雑な文構造:94~100%が未達
  • 高度語彙の使用:82~100%が未達

特に驚くべき点:

4年生と6年生では、

100%が談話・文・語彙すべてで基準未達

でした。


② DLDの有無で大きな差はなかった

  • DLDあり/なしで談話構造に有意差なし(ほとんどの学年)
  • 文・語彙も差はごく小さい

👉 「DLDがあるかどうか」では説明できない言語弱さが広範に存在


③ DLD診断がない子もほぼ全員が基準未達

DLDがないとされている子どもでも、

ほぼ全員(ごく一部の1年生を除く)が基準を下回っていました。

👉 つまり、

ディスレクシア児の言語弱さは想像以上に広範囲


🧠 この研究が示すこと

ディスレクシアは一般に

  • 音韻処理の困難
  • デコーディング(単語読み)の困難

として理解されますが、

本研究はそれに加えて:

学術的言語全体に深刻な弱さがある可能性

を示しました。

特に:

  • 複雑な文構造の生成
  • 高度語彙の使用
  • 物語の構造化

は、読解力や学業成功に直結します。


🎯 教育的示唆

この研究は明確に提言しています:

✅ 系統的な口頭言語スクリーニングが必要

✅ 読み支援だけでなく「言語介入」も必要

ディスレクシア支援は

「読む練習」だけでは不十分な可能性があります。


⚠ 注意点

  • ナラティブ課題に基づく評価
  • 横断研究
  • 他の学習背景要因は完全には統制されていない

✨ 一文まとめ

本研究は、ディスレクシア児の大多数がDLDの診断有無にかかわらず学術的に重要な複雑言語能力でカリキュラム基準を下回っていることを示し、読み支援に加えて体系的な口頭言語介入の必要性を強く示唆した研究である。

Accounting for oral language skills in children with dyslexia: a review of the literature

📚 ディスレクシア研究では「話し言葉の力」をきちんと見ているのか?

― 2000~2022年の文献を横断的に検証したレビュー(Annals of Dyslexia, 2026)―

この論文は、

ディスレクシア(読み書き障害)の研究において、子どもの“口頭言語能力(oral language skills)”は十分に評価・考慮されているのか?

という重要な問いを検証した文献レビューです。


🔎 なぜこの問題が重要?

ディスレクシアは一般に、

  • 音韻認識の弱さ
  • 単語のデコーディング(読み)の困難

として理解されています。

しかし実際には、

  • 語彙
  • 文法
  • 談話理解
  • 表現力

といった口頭言語能力全体が関係している可能性があります。

もし研究でこれを十分に評価せずに「ディスレクシア群」として扱っている場合、

本当に“読みの問題”なのか

それとも“言語の問題”が混在しているのか

が不明確になってしまいます。

👉 これは研究解釈の大きな“交絡(confound)”になります。


🧪 研究の方法

  • 対象期間:2000年~2022年
  • 分野横断レビュー
    • 医学
    • 心理学
    • 教育学
    • 言語聴覚療法(SLP)
  • ディスレクシアの定義基準や参加者選定基準を精査
  • 「口頭言語能力をどの程度評価しているか」をコード化

📊 主な結果

① 最もよく評価されていたのは「音韻認識」

多くの研究では、

  • phonological awareness(音韻認識)

のみが評価されていました。

しかし、

  • 語彙
  • 文構造理解
  • 談話能力

などを包括的に評価している研究は限定的でした。


② 分野による差がある

  • 言語聴覚療法(SLP)分野の研究は、

    他分野よりも口頭言語を広く評価していました。

  • 医学・心理学・教育分野では、

    言語評価が限定的なケースが多く見られました。

👉 分野によって「何をディスレクシアとみなすか」が異なる可能性。


🧠 この研究が示すこと

現在のディスレクシア研究の多くは、

  • 読みの問題を中心に定義しているが
  • 言語能力の全体像を十分に把握していない可能性

があります。

その結果:

  • 言語障害を併存している子ども
  • サブクリニカルな言語弱さを持つ子ども

が混在している可能性があります。

👉 これが研究結果のばらつきや矛盾の一因かもしれません。


🎯 著者の提言

著者らは明確に提案しています:

✅ ディスレクシア評価には、より包括的な口頭言語評価を含めるべき

✅ 研究参加者の言語プロフィールを明示すべき

✅ 読みと話し言葉の関係をより精密に理解する必要がある


📌 教育・臨床への示唆

このレビューは、

  • ディスレクシア=「読みの問題だけ」と捉えない
  • 口頭言語のスクリーニングを標準化する
  • 個別支援では言語介入も検討する

必要性を示唆しています。


✨ 一文まとめ

本レビューは、2000~2022年のディスレクシア研究の多くが口頭言語能力を十分に評価していない可能性を示し、読み困難の理解と支援を精緻化するためには包括的な口頭言語評価の導入が不可欠であると提言した研究である。

Chrysin Ameliorates Valproic Acid Induced Autism Spectrum Behavioral Phenotypes Through Corticohippocampal Histone Deacetylase and Translational Modulation of SHANK3 Expression in Juvenile Rats

🧪 蜂由来成分「クリシン」は自閉症様行動を改善する可能性?

― バルプロ酸誘発ASDモデルラットでの分子メカニズム研究(Journal of Molecular Neuroscience, 2026)―

この研究は、

妊娠期にバルプロ酸(VPA)へ曝露して自閉症様行動を示すラットに対し、天然フラボノイド「クリシン(chrysin)」がどのような影響を与えるか

を検討した動物実験です。


🔎 背景

  • 自閉スペクトラム症(ASD)は

    • 社会性の困難

    • 反復行動

    • 不安やうつ様症状などの併存症状

      を特徴とする神経発達障害です。

  • 病態メカニズムは多様で未解明な部分が多く、

    有効な治療法の開発が難しい状況です。

  • *クリシン(chrysin)**は、

    • ハチミツや植物に含まれるフラボノイド

    • 抗炎症・抗酸化作用などを持つ

      ことが知られていますが、

      ASDへの影響はほとんど研究されていませんでした。


🧪 研究の方法

🐀 モデル作成

  • 妊娠中のラットにバルプロ酸(VPA)を投与
  • 子ラットに自閉症様行動を誘導

🧬 介入

  • 生後21日〜42日まで
  • クリシン(100 mg/kg)を経口投与

🧠 評価項目

  • 行動(社会性、不安、うつ様行動、痛覚過敏など)
  • 神経伝達物質(セロトニン、GABA、ドーパミン、グルタミン酸)
  • HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)
  • BDNF(神経栄養因子)
  • SHANK3タンパク質
  • AKT / S6 シグナル

📊 主な結果

✅ ① 行動の改善

VPA群では:

  • 発達遅延
  • 社会性低下
  • 不安・抑うつ様行動
  • 痛覚過敏

が見られました。

👉 クリシン投与により

  • 社会性の改善
  • 社会的新奇性反応の改善
  • 不安・抑うつ様行動の軽減
  • 痛覚過敏の改善

が確認されました。


✅ ② 神経伝達物質のバランス改善

前頭前野と海馬で:

  • セロトニン ↑
  • GABA ↑
  • ドーパミン ↑
  • グルタミン酸 ↓

👉 興奮/抑制バランスの是正が示唆されます。


✅ ③ エピジェネティクス関連分子の変化

  • HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)↓
  • BDNF ↑
  • カスパーゼ3(アポトーシス関連)↓

👉 神経可塑性の改善と神経保護作用の可能性。


✅ ④ SHANK3発現の増加

SHANK3は:

  • シナプス足場タンパク質
  • ASDとの関連が強い遺伝子

クリシンは:

  • SHANK3発現 ↑
  • p-AKT ↑
  • pS6 ↑

👉 タンパク質翻訳経路(mTOR関連)を活性化している可能性。


🧠 何を意味するのか?

この研究は、

クリシンが

  • エピジェネティック制御(HDAC調整)
  • 神経栄養シグナル(BDNF)
  • シナプス構造タンパク(SHANK3)
  • タンパク質翻訳経路(AKT / S6)

を通じて、

VPA誘導ASD様行動を改善した可能性

を示しています。


⚠ 重要な注意点

  • 動物モデル研究
  • ヒトでの有効性は未検証
  • 投与量・安全性は臨床的に未確立
  • VPAモデルはASDの一部側面のみ再現

👉 まだ前臨床段階の研究です。


🎯 研究の意義

この研究の重要性は:

  • SHANK3とエピジェネティクスを同時に扱った点
  • 行動改善と分子変化を結びつけた点
  • 天然由来化合物の可能性を提示した点

にあります。

ASDにおける:

  • シナプス機能異常
  • 翻訳制御異常
  • 神経栄養因子低下

といった病態仮説と整合的です。


✨ 一文まとめ

本研究は、クリシンがVPA誘発ASDモデルラットにおいて社会性や情動行動を改善し、HDAC抑制・BDNF増加・SHANK3発現上昇を介したエピジェネティックおよび翻訳制御の調整を通じて神経回路機能を回復させる可能性を示した前臨床研究である。

Sensory processing, facial emotion recognition, and externalizing behaviors in ADHD: Exploring interactions and clinical implications

🧠 ADHDの社会的困難は「感覚処理」と「表情認識」が関係している?

― 感覚特性・感情認識・外在化行動の相互作用を検討した研究(Current Psychology, 2026)―

この研究は、

ADHDの子どもに見られる社会的困難は、感覚処理の特性や顔の表情認識(FER)の困難とどのように関係しているのか?

を検討した比較研究です。

ADHDの子どもは、

  • 友人関係のトラブル
  • 衝動的行動
  • 攻撃性などの外在化問題

を抱えやすいことが知られていますが、

「なぜ社会的困難が起こるのか」というメカニズムは十分に解明されていません。


🧪 研究の方法

👥 対象

  • 6〜10歳の子ども100名
    • ADHD群:50名
    • 定型発達群:50名(年齢・性別をマッチ)

📋 保護者評価

  • Conners親評価尺度
  • CBCL(行動問題)
  • Sensory Profile(感覚処理特性)

👀 子どもが実施

  • 顔の表情認識課題(Karolinska感情顔データベース)

📊 主な結果

① ADHD群は表情認識(FER)が有意に低下

ADHDの子どもは:

  • 感情表情の識別能力が低い
  • 感覚処理の偏りが多い
  • 社会的・行動的問題が多い

ことが確認されました。

👉 ADHDでは「社会的困難+感覚特性+認知的処理」が重なっている。


② 感覚処理の偏りは社会問題・外在化問題と関連

両群(ADHD・定型発達)ともに:

  • 感覚処理が非典型的になるほど
    • 社会的問題が増加
    • 外在化問題(攻撃性・衝動性)が増加

👉 感覚特性はADHD特有ではなく、広く社会機能に影響。


③ ただし「過敏さ」は一部でメリットも

興味深いことに、ADHD群では:

  • 感覚過敏(hypersensitivity)が強いほど
    • 「恐怖」「驚き」「嫌悪」などの表情認識は良好

👉 過敏性は必ずしもマイナスだけではない。

社会スキルトレーニングでは、

この特性を活かせる可能性があります。


④ 感覚追求傾向と外在化問題の関係

  • 感覚追求行動(sensory-seeking)が非典型になるほど
    • 外在化問題が増加

そして:

  • ADHDはこの関係を「調整(moderate)」していた

👉 ADHDの重症度に関わらず、

感覚追求と問題行動の関連は強まる。


🧠 この研究が示すこと

ADHDの社会的困難は単純な注意障害ではなく:

  • 感覚処理の特性
  • 表情認識能力
  • 行動調整
  • 外在化傾向

が複雑に絡み合った結果である可能性があります。

特に重要なのは:

✔ 感覚特性は社会行動と強く結びつく

✔ 一部の感覚特性は「強み」にもなり得る

✔ 感覚追求と外在化行動は臨床的に重要なターゲット


🎯 臨床的示唆

この研究は、

  • 社会スキルトレーニングに感覚特性を組み込むこと
  • 感覚過敏の強みを活かすアプローチ
  • 感覚追求傾向への介入
  • 行動問題と感覚特性を同時に評価すること

の重要性を示唆しています。


⚠ 注意点

  • 横断研究(因果関係は不明)
  • サンプルは比較的小規模(100名)
  • 実験課題は限られた表情刺激

✨ 一文まとめ

本研究は、ADHDの社会的困難には感覚処理特性と顔の感情認識能力が複雑に関与しており、特に感覚追求傾向は外在化行動と強く関連する一方、感覚過敏は一部の感情認識能力を高める可能性があることを示した研究である。

Daily life mind wandering and its relation to symptoms of ADHD in a community sample of emerging adults

🧠 ADHDと「心ここにあらず(マインドワンダリング)」はどう関係する?

― 日常生活での思考のさまよいとADHD症状の関連を検討した大規模調査(Current Psychology, 2026)―

この研究は、

日常生活での“マインドワンダリング(mind wandering:心が今していることから逸れること)”は、ADHDのどの症状と関係しているのか?

を、一般の若年成人(エマージングアダルト)を対象に調べた調査研究です。

これまでの実験研究では、

  • 不注意
  • 多動
  • 衝動性

といったADHDの中核症状が、自発的なマインドワンダリングの増加と関連することが示されてきました。

しかしDSM-5では、マインドワンダリングは主に「不注意」の症状として扱われています。

本研究は、

本当にマインドワンダリングは“不注意だけ”と関係しているのか?

を日常生活レベルで検証しました。


🧪 研究の方法

👥 対象

  • 若年成人 627名(コミュニティサンプル)
  • 臨床診断ではなく、特性レベルのADHD傾向を測定

📋 測定内容

  • 不注意傾向
  • 多動傾向
  • 衝動性傾向
  • 日常生活でのマインドワンダリング頻度

さらにマインドワンダリングを2種類に分けて測定しました:

  1. 自発的(spontaneous)マインドワンダリング

    → 意図せず思考が逸れる

  2. 意図的(deliberate)マインドワンダリング

    → あえて考えを逸らす


📊 主な結果

① 自発的マインドワンダリングは「3症状すべて」と関連

  • 不注意
  • 多動
  • 衝動性

すべてと有意な関連が確認されました。

👉 マインドワンダリングは「不注意だけ」の問題ではない。


② 意図的マインドワンダリングも関連

新しい発見として:

  • 不注意だけでなく
  • 多動傾向とも

意図的マインドワンダリングが関連していました。

👉 ADHD傾向のある人は、

「無意識に逸れる」だけでなく、

「自分で意図的に注意を逸らす」傾向もある可能性。


🧠 何が示されたのか?

この研究は、

マインドワンダリングは、ADHDの不注意だけに限定される現象ではなく、

多動や衝動性とも広く関連する

ことを示しました。

つまり、

ADHDの注意の問題は単なる集中困難ではなく、

  • 思考の制御
  • 注意の持続
  • 内的刺激への反応性

といった広い自己制御機能に関係している可能性があります。


🎯 臨床的示唆

  • ADHD支援では「注意」だけでなく「思考の逸れ」もターゲットにすべき
  • マインドワンダリングのタイプ(自発的 vs 意図的)を区別することが重要
  • マインドフルネスや注意制御トレーニングの有効性を示唆

⚠ 注意点

  • 自己報告調査(客観測定ではない)
  • 横断研究(因果関係は不明)
  • 臨床診断群ではなく特性レベル

✨ 一文まとめ

本研究は、日常生活におけるマインドワンダリングは不注意だけでなく多動・衝動性とも関連しており、ADHDの中核症状全体と広く結びつく現象であることを示した大規模調査研究である。

Altered Higher-Order Structural and Functional Connectivity Coupling in Autism Spectrum Disorder

🧠 自閉症では「脳のつながり方のズレ」がより複雑なレベルで起きている?

― 構造と機能の“高次結合”に注目した研究(Journal of Autism and Developmental Disorders, 2026)―

この研究は、

自閉スペクトラム症(ASD)では、脳の「構造的なつながり」と「機能的なつながり」の関係がどのように変化しているのか?

を、より“高次(higher-order)”のネットワークレベルで検討した研究です。


🔎 背景:脳のつながりには2種類ある

脳のネットワーク研究では、主に次の2つを区別します。

① 構造的結合(Structural Connectivity, SC)

→ 神経線維(白質)による“物理的なつながり”

② 機能的結合(Functional Connectivity, FC)

→ 同時に活動する脳領域同士の“働きのつながり”

これまでASDでは、

  • 一部の領域での過結合・低結合
  • ネットワーク異常

が報告されてきました。

しかし本研究はさらに一歩進み、

直接つながっていない領域同士の“間接的・高次構造結合(hSC)”にも注目

しています。


🧪 研究の方法

👥 対象

  • ASD:76名
  • 定型発達(TD):64名

🧠 分析方法

  • node2vecというネットワーク埋め込み手法を用いて
    • 脳ノードの特徴を数値化
    • 高次構造ネットワーク(hSC)を構築
  • その後、
    • 構造的結合(SC)

    • 機能的結合(FC)

      の**結合度(SC-FC coupling)**を算出

👉 「構造と機能がどれくらい一致しているか」を評価。


📊 主な結果

① ASDでは構造‐機能結合(SC-FC coupling)が変化

ASD群では、

  • 構造と機能の対応関係が有意に異なっていました。

つまり、

👉 物理的につながっているはずの領域が、機能的にはうまく協調していない可能性

またはその逆のパターンが見られました。


② 特に“リッチクラブ”と主要ネットワークで異常

変化が顕著だったのは:

  • 🧠 リッチクラブ結合
    • 脳のハブ同士の強い中枢ネットワーク
  • 🌐 デフォルトモードネットワーク(DMN)
  • 👁 視覚ネットワーク

👉 中核的ネットワークでの構造‐機能のズレが確認されました。


③ 症状重症度と関連する脳領域

以下の領域のSC-FC結合強度が、

ASD症状の重症度と関連していました:

  • 左 背外側上前頭回(注意・実行機能)
  • 左 中眼窩回(感情・社会判断)
  • 左 嗅皮質
  • 右 上側頭回(社会的知覚・音声処理)

👉 ネットワーク結合のズレが症状と直接関係している可能性。


🧠 この研究が示すこと

これまでの研究は、

「どの領域が過結合か・低結合か」

に注目してきました。

しかし本研究は、

脳は単純な1対1の接続だけでなく、

“間接的な高次ネットワーク構造”によって機能している

ことを強調しています。

ASDでは、

  • 直接的な結合異常だけでなく
  • ネットワーク全体の“協調構造”の乱れ

が重要である可能性が示されました。


🎯 臨床的意義

  • ASDの神経メカニズム理解をネットワークレベルで拡張
  • 症状重症度と結合パターンの関連を提示
  • 将来的な神経バイオマーカー研究の基盤

⚠ 注意点

  • 横断研究(発達経過は不明)
  • 機械学習的手法に依存
  • 因果関係は確定できない

✨ 一文まとめ

本研究は、自閉症では直接的な脳接続だけでなく高次の構造ネットワークと機能ネットワークの結合(SC-FC coupling)が変化しており、特にリッチクラブやデフォルトモードネットワークにおける結合のズレが症状重症度と関連することを示したネットワーク神経科学研究である。

Autism spectrum disorder-associated Sema5A p.Arg676Cys drives Arf6/FE65 signaling and aberrant cell morphogenesis

🧬 自閉症関連遺伝子Sema5A変異が神経の“伸びすぎ”を引き起こす仕組みを解明

Scientific Reports(2026)

この研究は、

自閉スペクトラム症(ASD)と関連する遺伝子変異

Sema5A p.Arg676Cys

を分子レベルで明らかにした基礎研究です。


🔎 背景:神経細胞の“形”は発達に重要

ASDでは、

  • 神経突起(軸索・樹状突起)の伸び方
  • シナプス形成
  • 神経回路の構築

に異常がある可能性が指摘されています。

Sema5A(セマフォリン5A)は、

神経の誘導や成長制御に関わる分子です。

今回注目された変異:

🧬 Sema5A p.Arg676Cys

アルギニン(Arg)がシステイン(Cys)に置き換わる変異。


🧠 この変異で何が起きるのか?

研究の主な発見は:

この変異により、神経突起が“異常に伸びすぎる”現象が起こる

ことです。

つまり、

  • 神経細胞の形態制御が過剰に活性化される
  • 神経ネットワーク形成に影響する可能性

🧪 仕組み(分子メカニズム)

研究チームは、以下の分子経路を特定しました:

🧩 1️⃣ Arf6

小型GTP結合タンパク質(細胞形態制御に関与)

🧩 2️⃣ FE65

シグナル調整タンパク質

🧩 3️⃣ ELMO2シグナル複合体

Rac1を活性化する分子群

🧩 4️⃣ Rac1

細胞骨格制御の中心分子(突起伸長に関与)


🔬 どうつながる?

Sema5A変異

FE65と結合

ELMO2シグナル複合体を活性化

Rac1活性が上昇

神経突起が過剰に伸びる


🧪 実験で確認されたこと

✔ Arf6やFE65をCRISPRで抑制すると

→ 神経突起の“伸びすぎ”が正常化

✔ Rac1活性を調整すると

→ 形態異常が再現または修正された

👉 つまりこの経路が“原因”である可能性が高い。


🎯 この研究の意味

この研究は、

  • ASD関連遺伝子変異が
  • どの分子経路を介して
  • 神経形態異常を起こすか

を具体的に示しました。

特に重要なのは:

単なる遺伝子変異の発見ではなく、

「どのシグナル経路が暴走しているか」を明確化した点


💡 将来的な応用の可能性

  • Arf6
  • FE65
  • ELMO2
  • Rac1

のいずれかを標的とした分子治療の可能性。

ただし:

⚠ これはラット初代神経細胞・細胞株レベルの研究

⚠ ヒトでの臨床応用はまだ遠い段階


🧠 一文まとめ

ASD関連変異Sema5A p.Arg676Cysは、Arf6/FE65-ELMO2-Rac1経路を活性化することで神経突起の過剰伸長を引き起こし、神経形態異常の分子基盤を明らかにした基礎研究である。

Brief Report: Psychological Flexibility, Perceived Stress and Emotion Regulation in Transitional-Age Youth (TAY) With Autism Spectrum Disorder (ASD)

🧠 ASDの若者は「心理的柔軟性」が低い?

― ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の重要性を示す研究 ―

Journal of Autism and Developmental Disorders(2026)


📌 この研究は何を調べたの?

思春期後半〜若年成人期(Transition-Age Youth:TAY)の

  • 自閉スペクトラム症(ASD)の若者
  • 他の精神的問題を抱える若者
  • 一般コミュニティの若者

を比較し、

① 心理的柔軟性

② 知覚ストレス

③ 感情調整(Emotion Regulation)

の3つを調べました。


🧩 なぜ重要?

近年、ASD支援では

特定の症状だけでなく、

「診断を超えて共通する心理的要因(トランスダイアグノスティック因子)」

に注目が集まっています。

その代表が:

🧠 心理的柔軟性(Psychological Flexibility)

これは、

  • 嫌な感情があっても
  • 価値に沿った行動を選べる力

であり、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)の中心概念です。


🔎 主な結果

✔ ASDの若者は

  • 心理的柔軟性が低い
  • ストレスを強く感じている
  • 適応的な感情調整スキルが少ない
  • 不適応的な感情調整が多い

という傾向がありました。


✔ しかし重要なのは…

ASDの若者と

「他の精神的問題を持つ若者」との間に

有意な差はなかった という点です。


💡 つまり何が言える?

ASD特有の問題というよりも、

ASDの若者が抱える困難は、

他の精神的問題と共通する“横断的な心理的課題”である可能性が高い

ということです。


🎯 臨床的な意味

この研究は、

  • ASD専用の特別な介入だけでなく
  • ACTのような心理的柔軟性を高める介入
  • ストレス対処や感情調整スキルの向上

が重要であることを示しています。


🧠 一文まとめ

ASDの移行期若者は心理的柔軟性が低くストレスが高いが、その特徴は他の精神的問題とも共通しており、ACTなどの横断的アプローチが有望である。

Frontiers | Physical activity intervention improves executive function in children with autism spectrum disorder: a meta-analysis

🏃‍♂️ ASD児の実行機能は「運動」で改善する?

― 身体活動の効果をまとめたメタ分析(2026年)―


📌 この研究は何を調べたの?

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに対して、

  • どんな運動が
  • どのくらいの頻度・期間で
  • 実行機能(Executive Function:EF)を改善するのか

をまとめて検証した**メタ分析(RCT14本)**です。


🧠 実行機能(EF)とは?

学習や社会生活に重要な「脳のコントロール機能」で、主に3つの要素があります。

  1. 抑制(Inhibition)

    衝動を抑える力

  2. ワーキングメモリ(Working Memory)

    情報を一時的に保持・操作する力

  3. 認知的柔軟性(Cognitive Flexibility)

    状況に応じて考えや行動を切り替える力

ASD児ではこれらの困難がよく見られます。


🔎 主な結果

✔ 身体活動は全体的に効果あり

  • 実行機能全体に中等度以上の改善
  • すべての下位領域(抑制・WM・柔軟性)で改善

🏆 特に効果が大きかった介入

① FMSトレーニング(基本運動スキル訓練)

  • 週4回
  • 18週間
  • 非常に大きな効果(SMD = 2.62)

👉 全体的な実行機能改善に最も効果的


② デジタル運動ゲーム(モーションセンサー型)

  • 抑制:大きな効果(SMD = 1.38)
  • ワーキングメモリ:中〜大(SMD = 0.89)
  • 認知的柔軟性:中〜大(SMD = 0.88)

👉 楽しみながら実行機能を鍛えられる可能性


⏱ 最適な頻度・時間は?

✔ デジタル運動ゲームの場合

  • 1回15分
  • 週2〜3回
  • 18週間

→ 抑制・柔軟性に中等度以上の改善

👉 ワーキングメモリは8週間以内に大きな改善も確認


🧩 何が言える?

この研究は、

「ASD児の実行機能は、適切な運動プログラムで明確に改善できる」

ことを示しています。

特に:

  • 運動スキル系の継続トレーニング
  • ゲーム性のある身体活動

が有望です。


🎯 実践への示唆

✔ 学校や療育に運動プログラムを組み込む価値

✔ 短時間でも継続が重要

✔ デジタルゲームは家庭でも導入可能


🧠 一文まとめ

ASD児の実行機能は、週複数回・継続的な身体活動によって中〜大きく改善し、特にFMSトレーニングとデジタル運動ゲームが効果的である。

Frontiers | Sleep disorders in children/adolescents with neurodevelopmental and neurological disorders : what evidences do we have with the use of non-pharmacological interventions?

💤 発達・神経疾患のある子どもの睡眠問題

― 薬を使わない介入はどこまで有効か?(2026年レビュー)―


📌 この論文は何をまとめた?

てんかん、ASD、ADHD、脳性麻痺(CP)、希少遺伝性神経発達症候群などを含む

神経発達・神経疾患(NDDs)のある子ども・思春期の睡眠障害に対して、

👉 **薬を使わない介入(非薬物療法)**はどれくらい効果があるのか?

を整理したナラティブレビューです。


🧠 なぜ重要?

睡眠障害はNDDsで非常に頻度が高く、

  • コア症状を悪化させる
  • 日中機能を低下させる
  • 保護者のストレスを増やす

という悪循環を生みます。

しかし、行動療法は広く使われている一方で、

科学的エビデンスはまだ十分ではないのが現状です。


🔍 主な睡眠問題

NDDs全体でよくみられるのは:

  • 不眠(入眠困難・中途覚醒)
  • 概日リズムの乱れ
  • 睡眠時無呼吸(特定群で多い)

🛠 どんな非薬物療法がある?

主に以下のような介入が検討されています。

✔ 保護者主導の行動介入

  • 睡眠衛生教育
  • 就寝ルーティンの確立
  • 段階的消去法(extinction法)
  • 行動的強化

✔ 心理教育プログラム

  • 睡眠の仕組みの説明
  • 家族全体の対応調整

✔ 個別化プログラム

  • 行動+身体要因を組み合わせた多面的管理

📊 疾患別のエビデンスまとめ

🧩 ASD

  • 行動+教育プログラムは有効
  • 保護者評価では改善が明確
  • 客観的睡眠指標の改善はやや限定的

⚡ ADHD

  • 行動療法+メラトニンは有効
  • 行動療法によりADHD症状も軽減傾向

🧠 てんかん

  • 調整された行動プログラムは有効
  • 安全性・受容性も高い

♿ 脳性麻痺(CP)・希少遺伝症候群

  • 研究は少ない
  • 個別化・多職種的アプローチが重要
  • 症候群特異的な生物学的治療は部分的効果

📈 全体的な結論

✔ 行動・教育的睡眠介入は

安全で、受け入れられやすく、臨床的に有用

✔ 特に多職種チームに組み込まれた場合に有効

しかし:

  • 研究規模が小さい
  • 診断群が混在している
  • 客観的睡眠評価が統一されていない

という課題がある


🎯 何が今後必要?

  • 疾患別の大規模RCT
  • 統一された睡眠評価指標
  • 日中機能との関連を含めた評価
  • 症候群特異的アプローチの開発

🧠 一文まとめ

神経発達・神経疾患のある子どもの睡眠問題に対し、行動・教育的介入は安全かつ有効だが、より質の高い疾患別研究が今後の課題である。

Frontiers | Associations between adult ADHD core symptoms, cognitive flexibility, and emotionaleating: a case-control study

🍽️ 成人ADHDと感情的過食

― 注意症状・認知柔軟性との関係を調べたケースコントロール研究(2026年)―


📌 この研究は何を知りたかった?

成人ADHDでは

✔ 摂食障害や感情的過食(emotionaleating)が多いことが知られています。

では、

  • ADHDのどの症状が関係しているのか?
  • 認知柔軟性(cognitive flexibility)などの実行機能が関与しているのか?

を明らかにすることが目的でした。


🧠 研究デザイン

  • 成人ADHD:76名
  • 健康対照群:69名
  • ケースコントロール研究

使用した主な評価:

  • ADHD症状(SR-WRAADDS)
  • 感情的過食(EEQ)
  • 認知柔軟性・認知的コントロール(CCFQ)
  • 実行機能テスト(Berg’s Card Sorting Test)
  • 不安・抑うつ(HADS)

📊 主な結果

① ADHD群は感情的過食が有意に多い

ADHD群はEEQスコアが明確に高かった。

👉 成人ADHDでは感情的過食傾向が強い。


② ADHD群は認知柔軟性が低い

CCFQ総得点が有意に低かった。

👉 認知の切り替えや感情コントロールが弱い傾向。


③ 感情的過食と関連していたもの

感情的過食(EEQ)は:

  • 注意欠如症状と正の相関
  • 感情に対する認知コントロールと負の相関

つまり:

✔ 注意が散漫なほど感情的過食が強い

✔ 感情をうまくコントロールできないほど過食が増える


④ 最も強い予測因子は?

回帰分析では、

👉 「注意欠如症状」だけが感情的過食の有意な予測因子

でした。

衝動性や多動よりも、

不注意が中心的役割を持つ可能性が示唆されました。


🧠 どう解釈できる?

成人ADHDでは:

  • 注意の持続困難
  • 感情コントロールの弱さ
  • 認知柔軟性の低下

が組み合わさることで、

👉 感情調整の手段として「食べる」行動が強化されやすい

可能性があります。


🎯 臨床的示唆

  • ADHDと過食の併存を見逃さない
  • 注意機能への介入が過食改善につながる可能性
  • 感情調整スキル訓練が重要
  • 実行機能へのアプローチも有効かもしれない

🧩 一文まとめ

成人ADHDにおける感情的過食は、特に「不注意症状」と強く関連し、実行機能の弱さがその背景にある可能性が示された。

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