自閉症が「治すべき欠陥」とされ反フェミニズムや極右的バックラッシュの中で武器化されてきた歴史
このブログ記事では、発達障害や関連する神経発達症をめぐる最新研究を「行動・メカニズム・支援実践・権利/社会構造」の4方向から紹介しています。具体的には、FASDをもち刑事司法と関わる若者について、リスクではなくVIA性格強みや家族・環境レベルの保護因子に光を当てた研究、ADHD児の時間認知のズレ(多動型と不注意型での違い)と薬物治療による改善を示した研究、ダウン症児の「最初の象徴遊び」が母子の相互作用の中でどう立ち上がるかを追跡した縦断研究を扱っています。また、自閉症コミュニティと共同で開発するニューロダイバーシティ肯定型PCIT(PCIT-Autism)の設計プロセス、ASD児のコミュニケーションスキルと社会不安の関連を整理したシステマティックレビューを通して、支援デザインや評価の難しさと今後の課題を示しています。さらに、自閉症が「治すべき欠陥」とされ反フェミニズムや極右的バックラッシュの中で武器化されてきた歴史を批判的に整理し、アイデンティティとしての自閉症・当事者主導の科学・セルフアドボカシーなどニューロアファーマティブな対抗戦略を提案する理論論文も含まれており、臨床・教育・司法・政治を横断して「どう支え、どう共に生きるか」を問い直す研究群がまとめられています。
学術研究関連アップデート
A content analysis of caregiver perspectives on strengths and protective factors in youth with FASD and criminal legal system involvement
■ FASDがあって刑事司法と関わりのある若者にも、「強さ」と「守ってくれるもの」はちゃんと存在する
この研究は、胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)をもつ若者で、少年司法・刑事司法と関わりのある人たちについて、「問題行動」ではなく “その子たちの強みや保護因子(protective factors)” に焦点を当てためずらしい研究です。
■ 何をした研究?
- 対象:
- FASDが確定または疑いあり
- 12〜24歳で、現在または過去に刑事司法(CLS)と関わりがある若者 32人
- うち 87.5%が男性
- 方法:
-
若者本人ではなく、ケアをしている養育者(caregiver)へのインタビュー・記述を収集
-
そこに出てくる「強み」「守ってくれている要因」を
Values in Action(VIA)性格強みフレームワーク(勇気・思いやり・誠実さなどのポジティブ特性を体系化した枠組み)
をもとに内容分析(directed content analysis)
-
■ 見えてきた「強み」と「保護因子」のポイント
養育者の語りからは、
- 個人レベルの強み・保護因子(一番多い)
- 家族・関係性レベルの要因
- 学校・地域・サービスなど広い文脈レベルの要因
という 複数の“層(エコロジーレベル)”にまたがる強みが見つかりました。
特に重要なのは:
-
個人レベルの強みのうち、約76%がVIAの性格強みカテゴリーに当てはまったこと
→ 例:優しさ、ユーモア、粘り強さ、好奇心、公正さ、希望など
→ 「FASDがある=強みが少ない」ではまったくない、という事実が確認された。
-
家族との関係、支えてくれる大人、ポジティブな活動の場など、
“周りの人・環境が守ってくれている”ケースも多く報告された。
■ この研究が伝えていること
-
FASDがあり、刑事司法と関わりのある若者は、研究や制度の中で
「リスク」「問題」「欠陥」ばかり語られがちですが、
実際には 多様な強みや保護因子を持っている。
-
それは
- 本人の性格や能力のレベル
- 家族・関係性のレベル
- 地域・サービス・制度のレベル
といった “重なり合うエコシステム全体” に広がっている。
-
著者たちは、
「強みに基づく支援(strengths-based approach)」 を
FASDと司法システムに関わる若者への支援に、もっと意識的に取り入れるべきだと提案しています。
それによって、ウェルビーイングや将来の見通しを高められる可能性があるとしています。
■ 一言まとめ
FASDがあって刑事司法と関わりのある若者は、リスクだけの存在ではなく、
VIA性格強みで説明できる多くの“強さ”と、家族・関係・環境という保護因子を持っている。
その強みを意図的に活かす支援こそが、今の支援実践ではまだ足りていない重要な視点である。
Impaired Time Perception in Attention Deficit Hyperactivity Disorder
■ ADHD児の「時間感覚の障害」を詳しく調べ、薬の効果まで検証した研究
ADHDの子どもには、
「時間の見積もりが苦手」
「時間管理がうまくいかない」
といった“時間感覚”の問題がよく見られます。
しかし、この領域はあまり研究が多くなく、
特に ADHDのタイプ(多動・衝動混在型 vs 不注意優勢型)で違うのか?
薬で改善するのか?
という点は十分にわかっていませんでした。
この研究は、10〜13歳のADHDの子ども86人を対象に、
時間感覚のズレと、Pantogam(ホパンテノール)という薬の効果を本格的に調べたものです。
■研究デザイン
- ADHD-C(多動・衝動+不注意タイプ):56名
- ADD(不注意優勢タイプ):30名
- 健常対照群:30名
- 年齢:10〜13歳
使われた評価:
- SNAP-IV(ADHD症状量的評価)
- ワーキングメモリ課題
- 時間の推定・計測タスク
- Subjective Minute(主観的1分評価)
- 親による 時間管理の困難さ の評価
介入:
- Pantogam 750mg/日 × 8週間
■主要な結果:ADHDでは“時間のズレ”が非常に多い
① 88.4%が「時間管理の苦手さ」を持っていた
(対照群でも36.7%と少し見られたが、それより圧倒的に多い)
② タイプ別に「時間のズレ方が異なる」
● ADHD-C(多動・衝動あり)
- “時間が実際より速く過ぎたように感じる”(tachychrony)
- → 気づいたら時間がなくなる
- → 待つことが極端に難しい
- → タスクの予定時間が短く見積もられがち
● ADD(不注意優勢)
- “時間を長く見積もりすぎる”
- → 実際より長く感じる
- → 課題が「終わらない・長すぎる」と感じやすい
→ タイプによって“時間の進み方”すら違っていることが判明。
③ 注意を長く向ける課題で特に困難が増える
- ADHD-C:96.4%
- ADD:73.3%
→ 時間感覚のズレは“持続的注意の弱さ”と密接に関係している。
④ ワーキングメモリは両タイプで明確に低下していた
→ 時間感覚とWMの関連が示唆される。
■Pantogam(ホパンテノール)で何が改善した?
8週間の服薬後:
● ADHD-Cの55.4%で改善
- 不注意
- 衝動性
- ワーキングメモリ
- 時間感覚のズレ
→ 全体的な症状改善に加えて、
時間の過大/過小評価の改善も見られた。
※ADD群の改善については本研究では明確に示されていない。
■研究の意味
1. ADHD児では“時間感覚の障害”が非常に一般的である
行列が待てない・締切に気づかない・課題に時間がかかる
といった行動の背後に 「時間そのものの感じ方のズレ」 がある可能性。
2. 多動衝動型と不注意型で“ズレ方が違う”
-
ADHD-C:時間が速く過ぎる
-
ADD:時間が長く感じる
→ 支援の仕方も変える必要がある
3. 薬物治療は、行動症状だけでなく「時間認知」まで改善し得る
→ 時間感覚は“見落とされがちな治療ターゲット”だが、
改善可能であることが示された。
■一言まとめ
ADHDの子どもは、注意や衝動性だけでなく「時間の感じ方」そのものに大きなズレがある。
多動型は“時間が速い”、不注意型は“時間が長い”。
8週間のPantogam治療で、症状とともに“時間認知の歪み”も改善する可能性が示された。
First symbolic uses of objects in children with Down syndrome between the ages of 12 and 21 months: A longitudinal study in context of triadic interactions: child–adult-object
■ ダウン症児の“最初の象徴的な物の使い方”を9か月追跡した、希少で重要な研究
子どもが 物を象徴的に使う(symbolic use:SU) ことは、
- 見立て遊び(例:おもちゃのスプーンで食べるマネ)
- 代用(例:スプーンを髪をとかす“くし”に見立てる)
- 空想・ごっこ遊びの基盤
- ことばの発達や社会的コミュニケーションの土台
など非常に重要な発達の節目です。
しかし ダウン症児は象徴遊びの発達がどのように始まるのか は、これまで十分に研究されていませんでした。
本研究は、12〜21か月のダウン症児6名を対象に、
母子の自然な遊び(子ども–大人–物の三者関係)を9か月間ビデオ記録して、
象徴的な遊びがいつ・どう現れるのかを詳細に分析したものです。
■研究の方法
- 対象:ダウン症児 6名
- 観察時期:12, 15, 18, 21か月
- 場面:母親との遊び、5つの異なる日常的な物を使用
- 手法:詳細な「微視的分析(microgenetic)」による行動分析
- 分析:象徴的使用(SU)の頻度、複雑性、誰が始めたか(母or子)
■主な結果:象徴的な使い方の“最初の形”と成長のプロセスが明らかに
① 最初に現れるのは“最もシンプルな象徴的使用”
最も多かったのは、
-
本来の用途に沿った単純な象徴使用
例:空のスプーンを使って“食べるマネ”をする
→ 現実に近い・単純な見立て が最初に出ることが統計的にも確認された。
一方、
-
複雑な代用(例:スプーンを“くし”として使う)
は頻度が低く、出現も遅い。
つまりダウン症児は、
象徴遊びの発達が段階的で、“現実に近い”ところから始まる ことが明確になった。
② 母親が導く→子どもが自発していく、という発達的変化が見られた
- 12・15か月:母親が象徴遊びをリードすることが多い
- 18・21か月:子ども自身が象徴遊びを始めることが増える
→ 支援的な大人の働きかけが、象徴遊びの芽を育てる
→ やがて 子ども自身の発想で象徴的使用が増える
という発達プロセスが確認された。
③ 個人差が非常に大きい
- どの月齢で象徴的行動が初めて見られるか
- どの程度複雑な象徴使用が可能か
- 出現頻度
など、子どもによって質も量も大きく異なった。
→ 画一的な評価ではなく、個別性をふまえた関わりが不可欠。
■研究の意義
この研究は、
“母子の自然なやりとり”を丁寧に追跡したことで、
- ダウン症児の象徴遊びは「簡単な模倣 → 自発的象徴化」へと段階的に育つ
- 大人の関わりが初期の象徴遊びに重要な役割を持つ
- 個人差が大きいため、発達を柔軟に支える必要がある
という実践的な知見を示した。
論文では、保育・家庭・療育(臨床)での支援に応用できる提案も述べられている。
■一言まとめ
ダウン症児の象徴遊びは、まず“本来の用途に近いシンプルな見立て”から始まり、
母親の働きかけによって育ち、18〜21か月頃には子ども自身が象徴的な使い方を始める。
発達は段階的で個人差が大きく、早期支援では大人の関わりが重要となる。
Collaborating with an autism community advisory board to develop a family-based, neurodiversity-affirming intervention: PCIT-Autism
■ 自閉症コミュニティと“共同でつくる”初のPCIT:PCIT-Autism の開発プロセスを描いた研究
Parent-Child Interaction Therapy(PCIT)は、
親子の関係を改善し、行動のコントロールや言語発達を支える親子相互作用療法で、
自閉スペクトラム症(ASD)児にも一定の効果が示されてきました。
しかし従来のPCITは、
- 当事者の意見を取り入れていない(コミュニティ不在)
- “自閉症の特性”より“問題行動の削減”を中心に設計されがち
- ADHD・ODD向けの枠組みを ASD へ「上から適応」させる形
という課題を抱えていました。
そこで本研究は、
自閉症当事者・家族と研究者が一緒に協働して、
「自閉症者の価値観に合う PCIT」=PCIT-Autism の設計を始めた
という 当事者参加型インターベンション開発 の第一歩を報告しています。
■ 研究方法:ASD当事者10名+保護者14名と研究者が“完全協働”
研究チームは Autism Community Advisory Board(CAB) を設置し、
- 自閉症当事者(成人)10名
- 自閉症児の保護者 14名
合計24名とともに、
現在の療育で感じている問題点・要望・価値観を深くヒアリング。
CABは研究の初期段階から意思決定に参加し、
「何を変え、何を残し、何を加えるべきか」を話し合いました。
■ 得られた5つの主要テーマ
CAB との質的インタビューから、
PCITをASD向けに作り直す際に重要とされる5つのテーマが浮かび上がった。
① アクセスの壁(Barriers to Accessibility)
- 費用が高い
- 通院負担(移動・時間)が大きい
- 待機期間が長い
- きょうだい児の預け先がない
→ 「来られる・続けられる形にしてほしい」
② 効果への期待と限界の理解(Effectiveness)
-
問題行動だけでなく
親子関係の質・情緒の安定・本人理解を重視したい
-
“治す”ではなく
本人に合わせて環境や関わり方を調整する視点が必要
③ セラピストの自閉症理解(Therapist Competence)
- 自閉症に関する深い理解
- 感覚特性の配慮
- 「否定・矯正」ではなく 尊重・共感・共同作業
- 当事者の多様性を理解できる専門性
→ セラピストの質が介入成功の最重要因子
④ 扱ってほしいテーマ(Topics)
- 感覚過負荷への対応
- メルトダウン・シャットダウン
- コミュニケーションスタイルの違い
- 自尊感情の保ち方
- 親のストレスケアと家族支援
→ 問題解決より“理解と受容”に基づく教育を中心に
⑤ 介入の形式(Format)
CABが支持したのは:
● ハイブリッド形式(対面グループ+個別オンライン)
-
グループ形式:
仲間づくり、保護者同士の支え合い
-
個別オンライン:
行動支援や親子関係の個別課題に対応
● 時間を限定したプログラム(Time-limited)
→ 家族の負担を軽減し、目的の明確化につながる。
● 子どもの預かり(Childcare)の提供
→ 親が安心して参加できる環境づくりが重要。
■ PCIT-Autismとして提案された新モデルの特徴
CABの意見を反映し、研究者がまとめた方向性は:
✔ 自閉症肯定(Neurodiversity-affirming)を前面に
- “矯正”ではなく理解・尊重・強みの活用
✔ ハイブリッド(対面+オンライン)形式
✔ 時間限定・目標明確なプログラム
✔ 自閉症に特化した心理教育の組み込み
✔ 保護者同士のコミュニティ形成
✔ 子どもの預かりを含む“実際に参加できる”仕組み
■ 結論:ASDコミュニティと共同開発された“新しいPCIT”の実現に向けた第一歩
本研究は、
- ASD当事者の価値観
- 家族の現実的ニーズ
- 研究者の専門性
を統合した、
次世代の「当事者参加型・自閉症肯定型PCIT」開発の基盤となる成果です。
PCIT-Autismは、
“当事者ではなく、当事者と共につくる”
という流れを象徴する重要な試みといえます。
■ 一言まとめ
PCIT-Autism は、自閉症当事者・家族・研究者が共同でつくり上げる、
自閉症肯定(neurodiversity-affirming)型の新しい親子支援プログラム。
アクセシビリティ、専門家の理解、心理教育、家族支援を重視し、
ハイブリッド形式・時間限定・コミュニティ支援を組み込む方向で設計されている。
Associations Between Communication Skills and Social Anxiety in Children and Adolescents With Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review
■ ASDの子どもにおける“コミュニケーション”と“社会不安”の関係は?
6研究・682名を整理した最新システマティックレビュー**
自閉スペクトラム症(ASD)の子ども・若者は、
社会不安(social anxiety)を併存しやすいことが知られています。
一方で、ASDの中核である コミュニケーションの特性が、
社会不安とどのように関係するのかは、研究によって結果がバラバラでした。
この論文は、18歳以下の自閉症児者を対象に
- *“コミュニケーション能力と社会不安の関連”**を調べた
定量研究のみを集めて整理した システマティックレビュー です。
■ 研究の概要
- 対象データベース:PubMed、Web of Science、Scopus、PsycINFO、Embase、ProQuest
- 対象:18歳以下のASD児者
- 条件:コミュニケーション技能と社会不安を定量的に調べていること
- 採択された研究:6本
- 合計参加者:682名
■ 主な結論: “中程度の関連はあるが、一枚岩ではない”
レビューのまとめとして、
コミュニケーション能力と社会不安は“中程度の関連”がある。
しかしその関係性は一定ではなく、
複数の要因によって大きく揺れ動くことがわかった。
■ 関係を複雑にしている3つの要因
① 評価方法の違い(measurement heterogeneity)
-
研究によって「社会不安」の測り方が違う
-
「コミュニケーション」の定義もバラバラ
(例:言語能力、会話の応答、非言語コミュニケーションなど)
→ 使う尺度によって相関の強さが大きく変わる。
② 認知能力(cognitive abilities)
-
IQが高い場合:
→ 自分のコミュニケーションのズレに気づきやすく、
社会不安が強まりやすい可能性
-
IQが低い場合:
→ 測定の方法によって関連が弱く見えることがある
→ 認知特性が関連の強さを変化させる。
③ 発達段階(developmental stage)
- 年齢によってコミュニケーションの課題も社会不安の特徴も変わる
- 青年期になるほど “評価される不安” が高まりやすい
→ 年齢によって関連の出方が変わるため、一概に言いにくい。
■ 本研究が示す重要ポイント
✔ ASD児者の社会不安は“コミュニケーション能力の課題”と一定の関連がある。
✔ しかし、個体差・評価方法・認知能力など複数の要因が影響し、単純な因果関係では説明できない。
✔ 研究の一貫性を高めるには、自閉症向けに適正化された尺度の使用が必須。
✔ 今後はより大規模・縦断的研究が必要。
■ 実践的示唆:支援者にとっての意味
-
社会不安への介入では、
コミュニケーション技能(特に会話や非言語シグナルの理解)への支援が有効になる可能性
-
一方で、
本人の認知スタイルや発達段階を踏まえた“個別対応”が必須
-
「コミュニケーション能力が低いから不安になる」という単純なモデルではなく、
双方が複雑に絡む二方向性の関係として理解する必要がある
■ 一言まとめ
自閉症の子どもの“コミュニケーション能力”と“社会不安”は中程度に関連するが、
評価方法・認知能力・発達段階によって関係は大きく変化する複雑なテーマである。
より正確な理解と支援には、
自閉症に適した評価法と、大規模・縦断的研究が重要となる。
Frontiers | Against cure, against backlash: neuroaffirmative responses to antifeminism and the war on autism
■ 論文のねらい
「治すべき病気」としての自閉症観と、反フェミニズム/極右的なバックラッシュがどう結びついているのかを歴史的・社会的に整理し、
それに対抗する ニューロアファーマティブ(neuroaffirmative)な応答の方向性を示す理論的論文です。
著者は、
-
自閉症がこれまで 母親叩き・優生思想・“国家の危機”のメタファーとして使われてきた歴史をたどり、
-
現在の 反ワクチン運動・陰謀論・極右的なジェンダーバックラッシュ の中で、自閉症が再び「敵」として扱われている状況を描き出します。
そのうえで、「治す/なくす」ではなく「生を肯定する」オーティズム理解への転換を提案します。
■ 「オーティズムとの戦争」とは何か
論文が描く歴史はざっくりいうと、次のような流れです。
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冷たい母親理論(refrigerator mother)
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ブルーノ・ベッテルハイムらにより、
自閉症は「母親が愛情を注がないせい」とされ、
特に 働く女性・フェミニズムへの反発 と結びつけられた。
-
しかもその「冷蔵庫ママ」像は白人中産階級を前提としており、
有色人種の母親や貧困層は、そもそも「自閉症」とすら認められず、
別のラベル(情緒障害など)を貼られた。
-
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バイオロジー+環境トリガーとしての自閉症
-
親たちの運動により、母親責任論は退けられたが、
代わりに
「遺伝+環境毒(汚染物質・ワクチンなど)による“自閉症の疫病”」
という物語が台頭。
-
自閉症は「子どもをさらう誘拐犯」のように語られ、
「本来の子ども」を取り戻すための “救出・正常化プロジェクト” が正当化される。
-
-
COVID-19後の反ワクチン・陰謀論・極右との結合
-
反ワクチン・ウェルネス・極右が結び付き、
「身体と魂を汚染から守る」運動の中で、再び自閉症が
「西洋社会の退廃」
の象徴として扱われる。
-
ここで著者は、MacGuireがいう
“war on autism”(オーティズムとの戦争) を参照し、
自閉症が 「誰か(someone)」ではなく「何か(something)」 として
憎悪と排除の対象にされていると指摘します。
-
こうした流れの中で、
治療・矯正・予防を売り込む「自閉症産業コンプレックス」 が拡大し、
通常医療だけでなく、代替医療や疑似科学も含めて
「自閉症を敵とみなす物語」にビジネスが乗る構造が強化されます。
■ 自閉症が「武器」にされる3つのトロープ(極右文脈)
著者は、極右やオンライン空間で 自閉症が3つのパターンで“武器化”されている と整理します。
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「最強のテック男子」トロープ
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自閉症の男性が
「超論理的で技術に強いが、共感性と社会性に欠ける」
存在として、美化と蔑視が同時に向けられる。
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これは「男性的な合理性」を理想とする 家父長制&エイブリズム を補強し、
共感的・関係的・非線形な自閉的知性を排除するロジックでもある。
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インセル文化の「犠牲者」としての自閉症
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「女はチャラい男しか選ばない」という物語のなかで、
自閉症男性は「底辺」とされ、拒絶への怒りや女性憎悪の燃料にされる。
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ここでは、自閉症は「自然な淘汰」の結果とみなされ、
“諦めと憎悪”を正当化する道具として使われる。
-
-
「ジェンダーイデオロギーの被害者」としての自閉症
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自閉症とトランスジェンダーの重なりが強調され、
-
「自閉症者はジェンダーに混乱しやすく、LGBT運動に“だまされて”いる」
といった論調で、
トランスヘルスケアやトランスの権利を攻撃する材料
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いずれも、自閉症当事者の主観やニーズではなく、
別の政治的アジェンダのための“駒”として自閉症が扱われているという共通点があります。
■ 「治療/予防」中心の枠組みがもたらす具体的な被害
論文は、治療/予防志向の“戦争メタファー”が、
以下のような実害を正当化してきた・していると指摘します。
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診断アクセスの格差
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自閉症が「白人・男性・中産階級」を前提に構築されてきたため、
有色人種、貧困層、女性、ノンバイナリー、他障害併存者は
診断から排除されやすい。
-
-
支援なきままの不利益経験
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いじめ、ラベリング、性的暴力、警察による暴力(特に黒人男性)、
施設化、強制不妊、拘束や電気ショックなど。
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“ハイファンクショニング”とマスキングの強要
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「普通に見えるから大丈夫」とされ、
日常的なマスキング → オーティズム・バーンアウト → 自殺リスク上昇。
-
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ABAなど“正常化”を目的とする療育のトラウマ
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「普通の子どもと区別がつかなくなること」を目標にした介入が、
当事者にとっては 支配・服従・トラウマ となりうる。
-
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極端な“治療”の正当化
-
キレーション療法、電気ショック、
さらに最悪のケースでは 「慈悲の殺人」としての殺害 まで。
-
著者は、
自閉症を「排除すべきもの」とする発想そのものが、
自閉的な存在の人間性を否定している
と強く批判します。
■ ニューロアファーマティブな4つのカウンター戦略
こうした“戦争”に対抗するための、
ニューロダイバーシティに根ざした4つの戦略が整理されています。
-
自閉症を「アイデンティティ」として定義する
-
Jim Sinclair らの活動に象徴されるように、
自閉症を「切り離して取り除ける病気」ではなく
「その人の存在を形づくる一部」 として捉え直す。
-
これによって、アイデンティティ・ファースト言語(autistic person) や
安全な場での アンマスキング が正当化される。
-
-
「大人としての自閉症」を可視化する(adulting autism)
-
自閉症を“子どもの障害”としてのみ扱うのをやめ、
成長し続ける大人のオーティストの知識と経験を正当なものとして認める。
-
医療・研究・政策における「当事者の語り」の位置づけを変えていく。
-
-
科学をオルタナティブなアドボカシーの場にする
-
心の理論欠損モデルや一方向的な“欠損モデルの科学”を批判し、
ダブル・エンパシー理論など、非自閉バイアスを減らす理論を発展させる。
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自閉症研究を、当事者参加型・コミュニティ主導・反優生的 な知識生産へ転換する。
-
-
セルフアドボカシーの運動
-
自閉症当事者団体(ASAN など)が、
ワクチンデマの反論、虐待施設への抗議、親や専門職への啓発などを行ってきた歴史を位置づけ、
権利擁護と社会変革の中核に「当事者の声」を据えることが重要だと強調する。
-
■ ジェンダー・母性・交差性を組み込む「反治療」アプローチ
著者は、ニューロアファーマティブな実践は
ジェンダー・母性・人種・階級と切り離せない と強調します。
-
自閉症=“極端な男性脳”理論は、
性別役割を固定し、共感性の欠如を男性性の特徴として正当化するものとして批判される。
-
自閉当事者には、ノンバイナリー・性的マイノリティが多く、
性とジェンダーの多様性を前提にした支援が必要。
-
「戦う母親像」は、
しばしば国家や教育システムの期待を体現する存在となり、
反フェミニズムと結びつく危険性がある。
→ 自閉症受容と同時に、母親役割への過剰な道徳的負荷を問い直す必要がある。
さらに論文は、
-
黒人・移民・低所得のオーティスト
-
知的障害や他の慢性疾患を併存する人
を含む 交差的・反優生的な視点 を重視し、
クリップアクティビズムや障害者運動との連帯を呼びかけています。
■ 最後に:この論文が伝えたい核心
自閉症を「排除すべき欠陥」としてではなく、
**「人間であることのスペクトラムの一部」**として位置づけ直すこと。
著者は、
- 完璧さや生産性を基準に人間の価値を測る社会そのものを問い直し、
- 自閉的なあり方を含む 多様な身体と心のあり方を前提とした“人間観の拡張” を提案しています。
“治す/なくす”という戦争ではなく、
「一緒に生きるために、世界や関係性のほうを変えていく」方向へ。
このシフトこそが、
反フェミニズム・反トランス・優生思想と結びついた
「オーティズムとの戦争」に対する、
ニューロアファーマティブで政治的な応答だ、と論文は主張しています。
