小学校クラスでの自閉症児の社会的ネットワーク上の位置づけ
本記事では、主に自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどの神経発達症をめぐる最新研究が幅広く紹介されています。内容は、ADHD青年の感情処理ネットワークや実行機能に関するfMRI研究、ASD・ADHD・学習障害における表情認知や談話(ナラティブ/説明)の特性、ASD児の摂食支援に関するインターネット情報の質、言語マイルストーンからのASD重症度予測、FND外来に潜む成人ASDの見落とし、小学校クラスでの自閉症児の社会的ネットワーク上の位置づけなど、臨床像と環境・社会との相互作用を立体的に捉える研究が中心です。さらに、ディスレクシアをもつ医療系教育者の学習経験を扱うインクルーシブな調査手法(ジャーニーマッピング)、乳児期の音楽介入による言語発達支援のRCTプロトコル、ASD児における睡眠評価尺度SDSCの因子構造検証、そして自閉症児の姉妹を対象にした女性自閉症理解の試みなど、「評価・支援・環境デザイン」をつなぐ実証研究が網羅的に取り上げられています。
学術研究関連アップデート
Reduced emotion-generated frontolimbic functional connectivity in psychostimulant-free ADHD youth with and without familial risk for bipolar I disorder
研究紹介・要約(European Child & Adolescent Psychiatry, 2025/ADHD青年の感情処理ネットワークと双極Ⅰ型リスク)
論文タイトル:Reduced emotion-generated frontolimbic functional connectivity in psychostimulant-free ADHD youth with and without familial risk for bipolar I disorder
著者:Qian Li ほか
掲載誌:European Child & Adolescent Psychiatry(2025年)
領域:ADHD、双極性障害リスク、機能的脳画像(fMRI)、感情調節
■ どんな研究?
この研究は、
「双極Ⅰ型障害(BD)の家族歴をもつADHDの若者は、感情処理の脳ネットワークにどのような違いを持っているのか?」
を調べたものです。
とくに、BDの病態で繰り返し指摘されている
- 腹外側前頭前野(VLPFC:感情のコントロール・抑制に関わる)
- 扁桃体(AMY:恐怖・不快など情動反応の中核)
の**機能的結合(functional connectivity, FC)**に注目しています。
対象はすべて精神刺激薬(メチルフェニデートなど)を服用していないADHD青年で、
- BD家族歴ありのADHD(高リスク群:HR)
- BD家族歴なしのADHD(低リスク群:LR)
- 健常対照(HC)
の3群を比較しました。
■ 方法のポイント
-
参加者:
-
HC:46名
-
ADHD・BD家族歴なし(LR):50名
-
ADHD・BD家族歴あり(HR):48名
→ 合計144名の青年期参加者
-
-
実施タスク:
- 感情刺激(不快な情動刺激)と中立刺激を含む連続実行課題(CPT)
- 課題中にfMRIを撮像
-
解析:
- *一般化PPI解析(gPPI)**を用いて
- 右VLPFCと左AMYのFCが
-
不快な感情刺激
-
注意ターゲット
に対してどう変化するかを評価
-
- 右VLPFCと左AMYのFCが
- *一般化PPI解析(gPPI)**を用いて
■ 主な結果
1. 不快な感情刺激に対する VLPFC–AMY 結合が群間で異なる
右VLPFCと左AMYのFCは、不快な感情刺激に対して:
-
HR(ADHD+BD家族歴あり)
→ 最も低い(blunted)FC
-
LR(ADHD+BD家族歴なし)
→ HCより低いが、HRよりは高い
-
HC
→ 3群の中で最も高いFC
という段階的な低下パターンがみられました。
HC > LR > HR
という順に、「感情が喚起されたときの前頭葉—扁桃体の連携」が弱くなる。
2. 単なる注意刺激に対しては、群差がみられない
-
注意ターゲット(emotionとは関係ない認知負荷)に対する
右VLPFC–左AMY FC には群間差は見られなかった。
-
つまり、このFCの違いは**「感情」によって引き起こされる場面で際立つ**ものであり、
単なる注意機能の違いとは言えない。
■ どういう意味があるのか?
- BDの家族歴を持つADHD青年は、
- 不快情動が出てきたときに、前頭葉(VLPFC)が扁桃体の反応を“抑えたり調整したりするネットワーク”が特に弱い
- これは、双極Ⅰ型障害への遺伝的脆弱性を反映した神経バイオマーカー候補かもしれない。
- 同時に、
-
BD家族歴がないADHD青年も、健常青年に比べて同ネットワークの結合が弱い
→ ADHD自体にも、感情調節ネットワークの弱さがあることを示唆。
-
まとめると:
ADHDだけでも感情処理ネットワークは弱くなりがちだが、
そこにBD家族歴が加わると、
さらに顕著な“感情由来の前頭葉—扁桃体結合低下”がみられる
■ 臨床・研究的示唆
-
「ADHD+BD家族歴あり」青年は、将来の双極性障害発症リスクが高い集団とされますが、
本研究はそのリスクを支える具体的な神経基盤として、
-
「不快情動に対する右VLPFC–左AMY結合の低下」
を提示しています。
-
-
将来的には、
-
高リスク青年の早期同定
-
感情調整をターゲットとした心理社会的介入や予防的サポートの設計
に役立つ可能性があります。
-
■ 一文要約
精神刺激薬を服用していないADHD青年144名を調べた結果、双極Ⅰ型障害の家族歴を持つADHD青年は、不快な感情が喚起されたときの右VLPFC–左扁桃体の機能的結合が、家族歴のないADHDや健常青年よりもさらに低く、この“感情由来の前頭葉—扁桃体ネットワークの鈍さ”が双極性障害への遺伝的脆弱性を反映する神経学的特徴である可能性が示された。
Facial Emotion Recognition in Neurodevelopmental Disorders: A Comparative Study in Children and Adolescents With and Without Autism, ADHD and Specific Learning Disorders
研究紹介・要約(Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025/ASD・ADHD・学習障害における表情認知の比較研究)
論文タイトル:Facial Emotion Recognition in Neurodevelopmental Disorders: A Comparative Study in Children and Adolescents With and Without Autism, ADHD and Specific Learning Disorders
著者:Giulia Crisci, Rachele Lievore, Irene C. Mammarella
掲載誌:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年)
領域:表情認知、社会認知、ASD/ADHD/学習障害(SLD)、児童心理学
■ どんな研究?
この研究は、**表情による感情認知(Facial Emotion Recognition:FER)**が、
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如多動症(ADHD)
- 限局性学習障害(SLD)
の3つの神経発達症児・青年でどのように異なるのかを、540名という大規模サンプルで詳細に比較したものです。
特に、研究では以下の観点で評価が行われました:
- 課題の種類:
- Matching(同じ感情かを判断)
- Labeling(具体的な感情名を当てる)
- 感情の強度:高強度 vs 低強度
- 感情の種類:怒り/嫌悪/恐怖/幸福/悲しみ/驚き
これらが臨床群ごとにどのように違うのかを明らかにすることが目的です。
■ 方法
- 対象年齢:8〜16歳
- 参加者:合計540名
- ASD:80名
- ADHD:80名
- SLD:80名
- 健常対照(CG):300名
- 年齢・性別・IQでマッチング済み
- 感情認知タスク(Matching/Labeling)を使用
■ 主な結果
● 1. Matching課題:ASD・ADHDで顕著な困難
表情が“同じか違うか”を判断するMatching課題では、
- ASD
- ADHD
の両群で健常群より明確に成績が低い。
→ ASD/ADHDはいずれも、顔の視覚的手がかりの使い方に弱さがある可能性。
SLDはMatching課題では大きな問題を示さなかった。
● 2. Labeling課題:すべての臨床群で困難だがプロファイルは異なる
感情名をラベル付けするLabeling課題では、3臨床群すべてが健常群より成績が低下したが、特性は以下のように異なった。
-
ADHD
→ ほぼすべての感情で困難(最も広範な苦手さ)
-
ASD
→ 怒りの認識は比較的得意
→ 驚き・嫌悪が特に苦手
-
SLD
→ *嫌悪(disgust)*の得点が低い
診断ごとに感情認知の弱点が異なることが明確に示された。
● 3. 高強度の感情は全群で認識しやすい
- 高強度の感情(例:強い怒り、明確な喜び)は識別しやすく、
- 低強度の微妙な表情はどの群でも苦手
→ 認知負荷が高くなると臨床群の弱さがより強く表れる。
■ 結論・臨床的意義
- 課題の種類(Matching/Labeling)によって現れる弱点は異なる。
- 診断ごとに“苦手な感情の種類”が違うため、支援・アセスメントは個別化する必要がある。
- ADHDの表情認知困難はASDと同程度か、状況によってはより広範である可能性。
- SLDでも特定感情(嫌悪)に弱点が見えるなど、社会認知上の課題を見逃してはならない。
研究は、社会スキル訓練・心理教育・学級支援で、
“どの感情をどう教えるか”を設計する際の重要な示唆を与える。
■ 一文要約
ASD・ADHD・SLDの540名を比較した結果、ASDとADHDはMatching課題で顕著に弱さを示し、Labeling課題では3臨床群すべてに困難がみられたが、感情ごとの弱点は診断ごとに異なり、ADHDは広範、ASDは驚き・嫌悪、SLDは嫌悪が苦手で、感情強度が低いほど識別が難しくなることが示された。
Internet Guidance on Feeding for Parents of Children With Autism
研究紹介・要約(Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025/自閉症児の摂食支援に関するインターネット情報の質を評価)
論文タイトル:Internet Guidance on Feeding for Parents of Children With Autism
著者:Divya V. Nagarajan ほか
掲載誌:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年)
領域:ASDの摂食支援・インターネット情報の質・養育支援
■ どんな研究?
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは偏食・感覚過敏・特定食品への強いこだわりなどから、栄養的に十分な食事が難しくなることが多い。このため、多くの親がインターネットでアドバイスを探すが、そこで得られる情報が正確か/ASDの特性に合っているかは十分に検証されていない。
この研究は、Googleなど4つの検索エンジン × 12検索語で抽出した110件のウェブページを調査し、ASD児の摂食支援に関連する 情報の正確性、推奨内容、非エビデンス情報、商業性 を分析したもの。
■ 方法
各ウェブページを以下の観点で評価:
-
エビデンスに基づく推奨(Evidence-based)
例:行動分析に基づく段階的介入、食経験の拡大、肯定的強化など
-
非エビデンス推奨(Non–evidence-based)
例:
- 「子どもはお腹がすけば自然に食べる」
- 「偏食は普通なので放っておけばいい」
-
商業的内容(有料製品・サービスの宣伝)
■ 主な結果
● 1. エビデンスに基づく推奨は概ね広く支持されていた
調査対象ウェブページは、
食の選択性に関するエビデンスベースの推奨9項目のうち8項目を“ほぼ全て”支持していた。
→ Web情報は基本的には“正しい方向性”を示していた。
● 2. 非エビデンスの誤情報が多数含まれていた
非エビデンスの5項目のうち、2項目は半数以上のページが誤って支持していた。
よく見られた誤情報:
-
「子どもはお腹がすけば自然に食べるようになる」
→ ASD児では感覚特性や不安によりこれが成り立たないケースが多い
-
「偏食は普通だから気にしなくてよい」
→ ASD児では栄養リスクが高いため早期支援が必要
→ インターネット情報は一部に危険な簡略化や誤情報を含んでいた。
● 3. 商業的内容も一定数存在
- 110ページ中 22ページが有料商品の宣伝を含んでいた
- サプリメント
- 食支援プログラム
- カウンセリングサービス など
→ 情報の中立性に注意が必要。
● 4. ASD特有のニーズに言及したページは少なかった
最も重要な結論:
多くのページは医療者・専門機関が作成していたにもかかわらず、
“ASD児向けに調整された摂食支援”についての具体的説明はほぼなかった。
つまり、
- ASD児の感覚特性
- 食材の質感への過敏
- こだわり行動
- 行動ベース介入の工夫
- 親のストレスへの配慮
など、ASD固有の課題に基づく専門的情報が欠如していた。
■ 意義・示唆
-
インターネット情報は“正しい情報もあるが、誤解を招く記述も多い”
-
特に ASD児には一般的な摂食アドバイスが通用しないことが伝えられていない
-
専門家は、ASDに特化した摂食ガイドラインを明確に提示し、
誤情報(自然に食べる・偏食は普通等)への対策が必要
■ 一文要約
ASD児の摂食支援に関するインターネット情報は、多くがエビデンスを支持している一方で誤情報や商業的内容も含まれ、最も重要な“ASD特有の支援ニーズ”への言及が不足しており、保護者にとって必ずしも十分な専門的情報源になっていないことが示された。
Predicting autism spectrum disorder severity in children based on specific language milestones: a random forest model approach - Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health
研究紹介・要約(Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health, 2025/言語発達指標からASD重症度を予測するランダムフォレストモデル)
論文タイトル:Predicting autism spectrum disorder severity in children based on specific language milestones: a random forest model approach
著者:Haiyi Xiong ほか
掲載誌:Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health(2025年)
領域:ASD重症度予測・言語発達・機械学習(Random Forest)
■ どんな研究?
自閉スペクトラム症(ASD)児では言語の遅れが非常に一般的ですが、
「どの言語マイルストーンが、ASD の重症度(軽度〜重度)を最もよく予測するのか?」
という問いは、まだ十分に明確ではありません。
特に、正式診断まで数ヶ月〜数年待たされる地域では、
早期の言語発達情報から重症度を推定できると、早期介入計画が大きく改善します。
この研究は、機械学習(Random Forest)× Boruta特徴選択により、
言語発達33項目のうちどれがASD重症度の有力な予測因子かを明らかにしたものです。
■ 方法
- 対象:574名のASD児
- 4歳未満:288名
- 4歳以上:286名
- 評価項目:受容・表出・語用(pragmatic)言語を含む 33種類の言語マイルストーン
- 分析手法
- Boruta法:重要特徴の抽出
- Random Forest:年齢群ごとに予測モデルを構築
- Nested cross-validation & Grid search:ハイパーパラメータ最適化
- 1000回ブートストラップで精度検証(AUC・Accuracy 等)
■ 主な結果
● 1. 4歳未満:重要だった14項目
特に重要とされた項目:
- 「絵を1つ特定する(Identifies 1 picture)」
- 「言語で要求を伝える(Expresses demands by language)」
→ ごく基礎的な語彙理解・要求表出が、重症度の分岐点として非常に重要。
● 2. 4歳以上:重要だった16項目
最も重要な予測因子:
- 「色を2つ識別する(Identifies 2 colors)」
- 「相手を名前で呼ぶ(Calls partner by name)」
→ 語彙のカテゴリー化・呼びかけなど 語用的スキルが重症度に強く影響。
● 3. 予測モデルの精度は高い
- 4歳未満:AUC 0.81 ± 0.01
- 4歳以上:AUC 0.85 ± 0.00
いずれも強力な識別性能を示し、臨床応用に十分な水準。
■ 意義・示唆
● 「どの言語項目が重症度の鍵になるか」がデータで明確に示された
- 絵の識別や要求表出といった基本的なコミュニケーション行動
- 名前呼び・色識別といった語用・概念理解
これらはASDの重症度の早期検出に特に有用である。
● 診断待ちが長い地域での応用価値が非常に高い
- 初期相談の段階で「重症度の見通し」が得られる
- 介入計画の優先度付け、早期スタート、医療資源の最適化が可能
● 語用言語(pragmatics)は特に重要
- ASDの本質的特徴(社会コミュニケーション)と密接
- 「名前で呼ぶ」「要求を伝える」などの対人性が高いマイルストーンは重症度の強力な指標
■ 一文要約
33項目の言語マイルストーンを機械学習で分析した結果、絵の識別・要求表出・色識別・名前呼びといった語用的スキルがASD重症度の最有力予測因子であり、Random Forestモデルは高精度で重症度を予測できることが示された。早期の重症度把握や介入計画に大きく役立つ研究である。
Structured clinical diagnostic assessment reveals autism spectrum disorder in adults with functional neurological disorder
研究紹介・要約(Scientific Reports, 2025/FND専門外来で成人の“隠れた自閉症”が半数に)
論文タイトル:Structured clinical diagnostic assessment reveals autism spectrum disorder in adults with functional neurological disorder
著者:Belen Gonzalez-Herrero ほか
掲載誌:Scientific Reports(2025年)
領域:成人自閉症・FND(機能性神経症状)・精神医学/神経学の交差領域
■ どんな研究?
この研究は、**機能性神経障害(FND)**の診療を受ける成人に対し、
構造化された本格的な自閉症診断(ADOS・DSM-5・自記式尺度など)を実施したら、どれくらいASDが見つかるのか?
を検証したものです。
FNDは「運動機能や感覚の症状が説明できない形で生じる神経症状」で、
従来はストレスモデルなどで説明されることが多かった疾患です。
しかし近年、
FNDの背景に自閉症特性(神経発達学的な脆弱性)が関係する可能性
が指摘され始めています。
■ 方法
- 対象:FND専門クリニックに連続受診した成人16名
- ASD評価(非常に網羅的)
- 自記式:RAADS-R, AdAS Spectrum
- 観察式:ADOS-IV(最新版)
- DSM-5臨床判断
- 追加指標
- 不安(GAD-7)
- うつ(PHQ-9)
- 離人感・解離(CDS)
- アレキシサイミア(TAS-20)
- カモフラージュ(CAT-Q)
- 内受容感覚(MAIA-2)
- 比較:ASDの診断基準を満たした群(CP-ASD) vs 満たさない群
■ 主な結果
● 1.FND患者の50%(8名)が“臨床的にASDの可能性が高い(CP-ASD)”と判定
非常に高い割合で、自閉症が“隠れていた”ことが示された。
● 2. CP-ASD群は以下の特徴を示す(統計的差あり)
-
発症が若い
-
FNDと診断されるまでの期間が長い
→ ASD特性によって症状の理解や診断プロセスが複雑化した可能性
-
不安が強い(GAD-7)
-
解離症状が強い(CDS)
-
カモフラージュ行動が多い(特に Compensation / Assimilation)
ASDの人がFNDになると、
感情認識の難しさ・ストレス処理の特徴・社会適応のためのカモフラージュ行動
が負担となりやすいことが示唆される。
● 3. 感覚症状だけはASD群で有意に多い
-
感覚異常のFND症状:62.5% vs 12.5%
→ ASD特有の感覚過敏/感覚処理特性と関連の可能性
● 4. 治療反応に差はなかった
- ASDがあっても、FND治療による改善度は変わらなかった
- ただし、診断までの遅れや心理的負担の大きさは懸念点
■ 意義
-
FND患者の半数にASDが潜在している可能性を示した初期の厳密なデータ
-
これまでFNDを“ストレス・心因性”と捉えるアプローチでは見落とされてきた
神経発達的要因(ASD特性) が、発症・診断遅延・不安/解離に影響している可能性
-
ASDを前提にしたケアやコミュニケーション調整が必要になる
■ 臨床・支援への示唆
- FND外来でASDのスクリーニングを標準化する価値が高い
- ASDを理解した治療者による感覚特性・情動調整のサポートが有用
- カモフラージュ負荷の高さから、FND症状を“心因性”と誤解されないための理解が必要
■ 一文要約
FND専門外来で構造化ASD診断を行ったところ、成人の50%がASDの基準を満たし、特に不安・解離・カモフラージュ・感覚症状が顕著であった。FNDの診断・治療には、神経発達症としてのASDを考慮したアプローチが不可欠であることを示す研究である。
Autism shapes social integration and reciprocity in elementary classrooms
研究紹介・要約(Scientific Reports, 2025/小学校クラスの社会ネットワークにおける自閉症児の位置づけ)
論文タイトル:Autism shapes social integration and reciprocity in elementary classrooms
著者:Patricia Soto-Icaza ほか
掲載誌:Scientific Reports(2025年)
領域:学校社会性・社会ネットワーク分析・インクルージョン
■ どんな研究?
この研究は、小学校の教室内で自閉症児がどのような社会的ポジションに置かれているのかを、
ゲーム理論 × 社会ネットワーク分析という新しい手法で定量的に調べたものです。
学校は子どもの主要な社会環境であり、特別支援が必要な子(SEN)にとって、
「どれくらい仲間関係の中心にいるか」「相互的な関係を築けているか」は重要なテーマです。
■ 方法
- 対象:6校26クラス/625名(6〜11歳)
- SENなし:464
- SENあり(自閉症以外):143
- 自閉症児:18名
- 手法:分配ゲーム(トークンを誰に渡すかの選択)を通じて、
-
誰を“選ぶ”か=社会的つながり
-
選び合いが成立するか=互恵性(reciprocity)
を測定し、クラスごとに「実際に機能している社会ネットワーク」を構築。
-
これは、従来の質問紙による“仲良し調査”ではなく、
その場の行動に基づく社会的選好を計測する点が革新的。
■ 主な結果
● 1. 自閉症児はクラスの“周辺部(periphery)”に位置しやすい
社会ネットワークの中心性(centrality)が有意に低く、
- 友達から選ばれにくい
- ネットワーク上の中心に位置しにくい
という傾向が確認された。
● 2. 自閉症児は“相互的(reciprocal)な関係”が少ない
- 自分が選んだ子が自分を選び返す確率が低い
- 互恵的な関係の形成が難しい傾向
これは、ASD児に特有の社会的コミュニケーションの難しさが
同級生との双方向関係に影響している可能性を示唆。
● 3. 自閉症でないSEN児(例:学習障害等)も同様に中心性が低い
- 「SENである」こと一般が、教室内で周辺化しやすいことを示す
- ただしサンプル数が少ないため、自閉症固有の影響かどうかは今後の研究が必要
■ 意義
-
自閉症児のインクルージョンは「同じクラスにいる」だけでは実現せず、
友達ネットワーク上で孤立しやすい構造的課題が存在することを示す。
-
行動ベースのゲーム理論を用いたネットワーク分析は、
“教室の見えにくい社会的構造”を可視化する新しい手法として価値が高い。
■ 支援への示唆
-
クラス内での相互的関係づくりを支援する明確な必要性
-
自閉症児が自発的に関係を築く機会を増やす環境づくり
-
教員がネットワーク構造を理解した上で、
孤立予防・仲介支援・グループ活動の設計を行う重要性
■ 一文要約
ゲーム理論と社会ネットワーク分析を組み合わせた革新的手法により、小学校クラスでは自閉症児がネットワークの周辺部に置かれ、互恵的関係が少ないことが定量的に示され、インクルージョン支援の必要性が浮き彫りになった。
Narrative and Non-Narrative Discourse Skills in ADHD Across the Lifespan: A Systematic Review of the Literature
研究紹介・要約(Journal of Attention Disorders, 2025/ADHDの語り・説明・議論など“談話能力”の体系的レビュー)
論文タイトル:Narrative and Non-Narrative Discourse Skills in ADHD Across the Lifespan: A Systematic Review of the Literature
著者:Elizabeth Hill, Robert Wells, Wai Chen
掲載誌:Journal of Attention Disorders(2025)
領域:言語発達・談話分析・ADHD・生涯発達
■ どんな研究?
このシステマティックレビューは、ADHDが語り(ナラティブ)や説明・議論・描写(ノンナラティブ)などの“談話能力(discourse skills)”にどのような影響を与えるかを、幼児から成人まで生涯発達的に整理した初めての包括的レビューです。
談話能力は、
- 学校での発表・レポート
- 友人との会話
- 職場での説明や交渉
といった 日常生活・学業・仕事で必要不可欠な実用的コミュニケーション能力。
ADHD研究では“注意”や“行動”ばかりが注目されがちですが、言語の運用面(discourse)は軽視されてきた領域であり、本レビューはそのギャップを埋める重要な論文です。
■ 方法
- データベース:CINAHL / PsycINFO / Medline / ProQuest
- PRISMA基準に準拠
- PROSPERO登録済み(CRD42022377007)
- 採用研究:39件
研究の多くは 児童のナラティブ能力に焦点を当てていた。
■ 主な結果
● 1. ADHDは“語彙・文法レベル(ミクロ)〜構成レベル(マクロ)”まで広く影響
【ミクロレベル:文・語の特徴】
- 発話の長さが極端(短すぎ or 冗長:brevity / verbosity)
- ことばの詰まり・非流暢性(dysfluency)が増える
- 文法エラーが多い
- 統語構造が単純(reduced syntactic complexity)
- 代名詞・接続詞が少ない(文同士のつながりが弱い)
→ 情報のつながりが弱く、聞き手が理解しづらい話になりやすい。
● 2.談話の構成(マクロレベル)にも問題
- 談話の「まとまり(coherence)」が弱い
- 話題転換(topic shift)が多い
- 必要な要素(人物設定・因果関係・重要情報)が抜けやすい
- ナラティブでも説明文でも共通して“構造の欠落”が生じやすい
→ ADHDの注意調整・作業記憶・計画性の特性が反映している可能性。
● 3.子どもと大人で表れ方が異なる
- 子ども:構造的な欠落・文法的単純さが目立つ
- 大人:冗長性・話題逸脱・まとまりの弱さなど“高次談話の崩れ”が目立つ
いずれも 加齢で改善するわけではなく、形が変わるだけで持続する可能性が示唆された。
● 4.ナラティブ・ノンナラティブどちらにも困難が及ぶ
- 劇や物語などの「出来事の流れを語る」ナラティブ
- 理由説明・意見表明・手順説明などのノンナラティブ
どちらでも ADHDは語りの構造化が難しいことが確認された。
■ 研究の意義
-
ADHDの学業不振・職場での誤解・対人トラブルの背景に、
談話構築の困難が大きな役割を果たしている可能性がある。
-
学校や臨床現場の評価では、語彙・文法だけでなく、
- *「話の構造」「情報のつなぎ」「論理性」**を含む談話分析が必要。
■ 実務・支援への示唆
-
ADHDの支援には、
発話構造を支えるスキャフォルディング(枠組み提示)
例)「だれが・いつ・どこで・なにを・どうした・なぜ」を明示する
-
書く課題だけでなく“話す課題”の評価改善も重要
-
成人ADHDでもコミュニケーション介入が有効である可能性
■ 一文要約
ADHDは子どもから大人まで、文法・語彙レベルから談話構造レベルまで幅広い言語運用能力に影響を及ぼし、ナラティブ・ノンナラティブの両方で一貫した困難がみられることが、39研究を統合したレビューから明らかになった。
Journey mapping as an inclusive research tool: Capturing the learning journeys of health professions educators with dyslexia
研究紹介・要約(Medical Education, 2025/ディスレクシアの教育者に配慮した“ジャーニーマッピング”という包摂的研究手法)
論文タイトル:Journey mapping as an inclusive research tool: Capturing the learning journeys of health professions educators with dyslexia
著者:Sarah McLaughlin, Asim Ali, Steve Jennings
掲載誌:Medical Education(2025)
領域:インクルーシブ研究手法・ユニバーサルデザイン・ディスレクシア・教育者研究
■ どんな研究?
この研究は、ディスレクシア(読字障害)を持つ医療系教育者の学習経験を探るにあたり、
従来の「口頭中心・質問応答型インタビュー」ではなく、**ジャーニーマッピング(Journey Mapping)**を研究手法として採用した点が特徴的です。
ディスレクシアのある人は、
- 回想ベースの長いインタビューが負担になりやすい
- メモリ負荷や即時言語化が難しい場合がある
一方で、
- 可視化
- パターン認識
- クリエイティブ思考
- 口頭表現
といった強みを持つことが知られています。
この背景を踏まえ、研究者は UDL(Universal Design for Learning)発想に基づき、“研究手法そのものを参加者に適した形にデザインする” というアプローチを実践しました。
■ 方法:ジャーニーマッピング × オンラインインタビュー
- 参加者:医療系教育者6名(ディスレクシアあり)
- 方法:
- 参加者自身が「学習の旅(learning journey)」を可視化したマップを作成
- マップは 事前の内省ツールとして使用
- インタビュー時には **語りの道しるべ(visual scaffold)**として活用
- 分析手法:リフレクシブ・テーマ分析(reflexive thematic analysis)
■ 主な結果
● 1. マッピングが“話しやすさ”と“深い省察”を同時に支援
- 視覚的な道具が記憶へのアクセスを助け、語りの流れを整えた
- 事前に考えを整理できるため、認知負荷(cognitive load)が軽減
- 参加者が自分の語りを 主体的に構成・コントロールできた
- インタビューは「楽しく・意味のある体験」として評価された
● 2. 従来の研究手法より“包括的(inclusive)”であることが明確に
- 質問に即答するプレッシャーが減る
- 語りたい順序で、語りたい深さで話せる
- ディスレクシアの強み(可視化・創造性)が活かされる
- より豊かで真正なデータが得られた
■ 注意点(研究倫理・デザイン上の課題)
-
過去の困難(教育の挫折・否定的経験)を深く振り返るため、
心理的負担が生じる可能性がある
-
“絵やマップを描くことに自信がない”参加者の創作不安への配慮が必要
- 明確な手順
- 「芸術性は不要」という安心の提供
- 研究者の丁寧なサポート
■ 研究の意義
-
「UDLは教育設計だけでなく研究デザインにも適用できる」という実践例
-
発達障害・学習障害の参加者を対象とする研究で、
より包摂的で、参加者の強みを活かす方法の必要性を提案
-
医療系教育者に限らず、他の神経多様性(ASD・ADHDなど)にも応用できる
■ 一文要約
ディスレクシアの教育者の語りをより自然かつ深く引き出すため、視覚的なジャーニーマッピングを研究手法として導入した結果、参加者の負担が減り、より豊かなデータ収集が可能となった──UDLの理念を“研究方法そのもの”に応用した先進的な研究である。
Frontiers | Language development deficits and early interactive music intervention (BusyBaby) – protocol description of a double-blind randomized controlled trial on the effectiveness of music on language development in infancy
研究紹介・要約
乳児期の言語発達を支える“音楽介入 BusyBaby”—家族性ディスレクシアリスクも考慮した大規模二重盲検RCTプロトコル**
論文タイトル:Language development deficits and early interactive music intervention (BusyBaby) – protocol description of a double-blind randomized controlled trial on the effectiveness of music on language development in infancy
領域:言語発達、音楽介入、ディスレクシアリスク、神経発達、乳児期介入
研究種別:二重盲検ランダム化比較試験(RCT)プロトコル
機関:University of Helsinki(フィンランド)
■ どんな研究か?
本研究は、乳児期の音楽活動が言語発達にどれほど効果を持つのかを、科学的に検証するための初の大規模・二重盲検RCTプロトコルです。
特に注目すべき点として、
- 家族性ディスレクシア(読みの障害)リスクを考慮
- 遺伝子マーカー(DNA採取)も組み込む
- “いつ始めるか(介入タイミング)”が効果に影響するか検証
- 社会情緒的な側面(親子関係・子の情動)を効果の媒介要因として検討
という、従来研究に欠けていた決定的な要素を包含しています。
■ 背景:なぜ乳児期 × 音楽介入?
- 言語や読字の発達は乳児期〜幼児期の経験によって大きく左右される
- ディスレクシアは遺伝的に発生しやすく、早期介入が将来の学習保障に重要
- 音楽活動は
-
聴覚処理
-
言語処理
-
リズム能力
-
読み書きの前駆スキル
との関連が示されているが、乳児を対象としたRCTはほぼ存在しない
-
このギャップを埋めようとするのがBusyBabyプロジェクトです。
■ 方法:大規模・厳密な二重盲検ランダム化試験
● 対象者
- 最大200名の乳児(8〜12か月)
- そのうち約50%は家族性ディスレクシアリスクあり
● 介入群(実験群)
-
音楽介入(BusyBaby)
週1回 × 6か月
● 比較群(対照群)
-
サーカス介入
※同じく楽しく、社会的で、活動量も同等
→ 音楽“だけ”の効果を厳密に抽出できる
● 主要アウトカム(言語発達)
- 標準化された保護者報告(質問紙)
- 脳の言語処理(聴覚ERP)
- 音の識別
- 音節処理
- 神経言語反応
● 副次アウトカム
- 音楽処理の神経指標
- 親子の社会情緒的指標
- 言語発達の標準テスト
- 運動発達
- ディスレクシアに関連する遺伝子(DNA)
● 評価タイミング
- ベースライン(開始前)
- 6か月後(介入終了時)
- 1年フォローアップ(開始から18か月)
■ 本研究の“革新性”はここ!
★ 1. 「音楽 vs サーカス」という厳密な活動マッチング
-
単に“音楽クラス” vs “何もしない” ではない
-
社会性・構造性・楽しさ・介入時間を完全に揃えて比較
→ 音楽固有の効果が初めて精密に判定できる
★ 2. ディスレクシアリスク × 遺伝子 × 音楽 × 言語発達
- リスクを持つ乳児で音楽がより効果的か?
- 遺伝子が効果の違いを説明するか?
ここまで踏み込むRCTは極めて希少。
★ 3. 社会情緒的要因が“効果の媒介”になるのかを初めて検証
- 親子関係・情動の改善が言語発達を加速させるのか?
★ 4. 乳児期というもっとも早い段階での無作為化試験
- 環境要因の影響が最大の時期に介入できる
■ 結論(プロトコルのまとめ)
本研究が完了すれば、次の問いに答えられる可能性があります:
- 音楽介入は乳児の言語発達を実際に伸ばせるのか?
- ディスレクシアリスクを持つ子どもが、音楽介入でより強い恩恵を受けるのか?
- 社会情緒的な変化は言語発達の媒介要因となるのか?
- 介入は何歳から始めると最も効果が高いのか?
これらは教育、発達支援、言語療法、保育、神経科学にとって非常に重要な知見です。
■ 一文要約
BusyBaby研究は、乳児期の音楽介入が言語発達に与える効果を、家族性ディスレクシアリスク・遺伝子・社会情緒的要因・介入タイミングまで含めて検証する、世界でも稀な大規模二重盲検RCTである。音楽が“言語の発達支援ツール”になり得るかを科学的に明らかにする試みとして大きな期待が寄せられる。
Brain–behavior relationships in task-based fMRI assessments of executive functions in children and adolescents with and without ADHD: a systematic review and ALE meta-analysis - BMC Psychiatry
研究紹介・要約(ADHD児の実行機能×脳活動:fMRIタスク研究の体系的レビュー+ALEメタ分析)
論文タイトル:Brain–behavior relationships in task-based fMRI assessments of executive functions in children and adolescents with and without ADHD: a systematic review and ALE meta-analysis
領域:ADHD、実行機能(EF)、機能的MRI、メタ分析
研究種別:体系的レビュー+ALEメタ分析
掲載:BMC Psychiatry(2025、未編集原稿)
■ どんな研究か?
本研究は、ADHDの子どもは実行機能(EF)課題中に脳のどの部位が典型発達と異なる活動を示すのかを明らかにするため、
- task-based fMRI(tb-fMRI)研究
- 実行機能(抑制・ワーキングメモリなど)を含む課題
に焦点を当てた初の大規模ALEメタ分析です。
🔍 なぜ重要なのか?
ADHDの行動症状(不注意・多動衝動性)の基盤には、
脳内ネットワークの実行機能処理の特性があると考えられています。
しかし過去研究は
- タスクが異なる
- 評価部位が異なる
- サンプルが小さい
などの理由で一貫した結論が得られていませんでした。
本研究は、複数研究の脳座標データを統合(ALE法)し、共通点だけを抽出することで、ADHDの脳機能の特徴を定量化します。
■ 方法:32本のtb-fMRI研究を統合
- 対象:ADHD児・青年 vs 定型発達
- データベース:PsychINFO, CINAHL, Embase, MEDLINE, PubMed, Web of Science
- 最終採択:32本のfMRI研究(実行機能課題)
- 分析:ALE(Activation Likelihood Estimation)により脳活動の差異を統合
- 行動指標との脳活動の相関分析も含む
■ 主な結果(まとめ)
① ADHD群は
実行機能のパフォーマンス低下
を示す
- 抑制機能の低下(例:Go/No-Go、Stop-signal)
- ワーキングメモリの低下
② ADHD児の脳では
広範囲で活動低下
が見られた
特に以下の領域で一貫して低下:
-
両側下前頭回(IFG)
→ 抑制・注意制御の中核
-
縁上回・下頭頂小葉・角回
→ 注意・ワーキングメモリネットワーク
-
尾状核
→ 実行制御・動機づけ
-
後頭葉
→ 視覚処理・課題関連注意
-
小脳
→ 認知制御やタイミング調整
➡ ADHDの脳は「タスク遂行時の活性化が不足しがち」という一貫したパターンが示された。
③脳活動と行動の関連性
(ADHD群)
- 下前頭回(IFG)
- 前帯状皮質(ACC)
これらの活動が高いほど抑制機能が良いという正の相関が報告された。
➡ ADHDにおける「脳活動の低さ」が、EF困難に直結している可能性を示唆。
■ 結論:ADHDの神経基盤の理解を前進させるメタ分析
本研究は、ADHDの子どもが実行機能課題を行う際に、
- 前頭皮質(特に下前頭回)
- 前帯状皮質
- 頭頂葉ネットワーク
- 尾状核
- 小脳
などの広範囲で活動が弱いことを明確に示した。
また、それらの活動低下は
行動レベルの実行機能の困難と直接関連していた。
臨床・研究への示唆
- ADHDの神経基盤として「前頭—皮質下—小脳ネットワーク」の低活性が再確認
- 脳活動をターゲットにした**神経介入(認知トレーニング・tDCS等)**の可能性
- EF課題を用いた客観的な評価指標の開発に貢献
- ADHDサブタイプ(家族歴・症状プロファイル)による脳活動の違いの研究が今後期待される
■ 一文要約
ADHD児は実行機能課題中に前頭皮質・頭頂葉・尾状核・小脳などの広範囲で脳活動が低下しており、この低活性が抑制・ワーキングメモリの困難と関連することを、32研究のALEメタ分析が明確に示した。
Exploring Pragmatic Abilities in Sisters of Autistic Individuals: A Methodological Solution to Female Autism Research
研究紹介・要約(女性の自閉スペクトラム症の理解に向けた:自閉症児の姉妹の語用能力を調べる研究)
論文タイトル:Exploring Pragmatic Abilities in Sisters of Autistic Individuals: A Methodological Solution to Female Autism Research
掲載:Autism Research(2025)
テーマ:女性のASDの見逃し/語用論(pragmatics)/高リスク群(siblings)研究
■ どんな研究か?
自閉スペクトラム症(ASD)は男子の診断率が高い一方で、女子は見逃されやすいことが近年の重要な課題となっています。女子は自閉特性が「目立ちにくい」「補償により隠れてしまう」ため、診断された女性だけを研究対象にすると、実際の女性像を捉えきれない可能性があります。
そこで本研究では、
「診断はされていないが発症リスクが高い女子」=自閉症児の姉妹(sisters)
を対象に含めるという新しい方法を採用しました。
■ 方法:3群の女子(9〜16歳)の語用能力を比較
対象は 9〜16歳の女子 76名を以下3群に分けて比較:
- 自閉症の女子(autistic group)
- 定型発達の女子(non-autistic group)
- 自閉症児の姉妹(sisters group)=高リスクだが診断なし
評価方法は:
-
半構造化されたナラティブ課題(ストーリーを語る課題)
→ 一貫性、流暢性、説明力などを分析
-
保護者回答の語用能力・日常の困難に関する質問票
■ 主な結果
① 保護者による語用評価では、姉妹は「中間的」
- 自閉症群 >(困難多い)
- 姉妹群(中間)
- 非自閉症群(困難少ない)
つまり、姉妹は非自閉症より語用の困難が多いが、自閉症群ほどではないという「中間層」の特徴を示した。
② ナラティブ課題では、姉妹と非自閉症群は大部分で同等
ただし唯一の違いとして:
- キャラクターの心的状態(気持ち・意図)への因果説明が少なかった
これは、
「社会的推論」「心の理論」に関わる subtle な語用上の違い
として注目される。
③ 姉妹群の個人差は非常に大きかった
姉妹の中には、
- 全く困難が見られない子
- 語用能力が自閉症女子と非常に似たプロファイルを示す子
まで幅広い個人差が確認された。
➡ 姉妹群は「ハイリスク層」として、潜在的自閉特性の多様性を示す重要な集団。
■ この研究の意義
● 女性の自閉スペクトラム症研究に新しい視点
女性は診断されにくいため、診断者のみを対象とした研究が偏りを生んでいた。
本研究は、「診断を受けていないがリスクのある姉妹」を含めることで、
- 見逃されがちな女性の自閉特性
- 目立たない語用上のサイン
- 異質かつ連続的な特性分布
を捉える方法論的解決策を提示した。
● 心の状態を説明する力の subtle な差異を発見
女子におけるASD特性が「微細である」「高度に補償されやすい」ことを裏付ける知見。
● 介入・支援への示唆
- 姉妹など“高リスク女子”の語用能力のスクリーニング
- 女子のASD診断基準の見直し
- 早期の語用言語支援
などへの基盤となる。
■ 一文要約
自閉症児の姉妹(高リスク女子)は、語用能力で「中間的」プロファイルを示し、一部には自閉症女子に近い特性もみられることから、女性ASDの見逃し課題を補う重要な研究対象となることが明らかになった。
Factor Structure of the Sleep Disturbance Scale for Children in a Cohort of Youth With Autism
研究紹介・要約(自閉スペクトラム症の子どもに対するSDSCの妥当性を検証した短報)
論文タイトル:Factor Structure of the Sleep Disturbance Scale for Children in a Cohort of Youth With Autism
掲載:Autism Research(2025)
テーマ:ASD児の睡眠問題/評価ツールの妥当性/因子構造の検証
■ 研究の背景と目的
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもでは睡眠の問題が非常に多いことが知られていますが、一般向けの睡眠評価ツールは ASD特有の睡眠の特徴を十分に捉えきれていない という課題があります。
国際的に評価の高い小児用睡眠評価尺度 Sleep Disturbance Scale for Children(SDSC) は、ASD研究では意外にもほとんど使われていません。
本研究では、
SDSCがASDの睡眠表現型をきちんと測定できるか(因子構造の妥当性)
を大規模データを用いて検証しました。
■ 方法:513名のASD児(3〜18歳)で因子構造を分析
・Healthy Brain Network データセットから 513名の自閉症児(平均10.5歳)を対象
・SDSCの既存の因子構造を 探索的構造方程式モデリング(ESEM) を使って確認
・年齢・性別による安定性や、臨床的特徴(内在化/外在化行動)との関連も検討
■ 主な結果
✔5因子構造がASD児にも適合
以下の5因子モデルが 極めて良好な適合度 を示した:
- 入眠維持困難(DIMS)
- 覚醒障害
- 過度の眠気(DoES)
- 睡眠呼吸障害
- 睡眠-覚醒移行の障害(SWTD)
➡ SDSCはASD児の睡眠問題の多様な側面を十分に捉えられる ことが示された。
✔ 性別・年齢によって因子構造は変わらない
→ ASD児の幅広い年齢層・男女で安定した測定が可能
✔ 全ての睡眠下位尺度は、内在化・外在化行動と有意に正の関連
→ 不安・抑うつ、行動問題などと睡眠障害が密接につながっていることを示す。
✔ 年齢との関連
- DoES(過度の眠気):年齢が高いほど増える(r=0.15)
- SWTD(睡眠–覚醒移行の問題):年齢が高いほど減る(r=−0.18)
■ 本研究の意義
- 初めて 大規模ASDサンプルでSDSCの因子構造の妥当性を実証
- ASD児の睡眠問題を系統的に把握するうえで、SDSCが非常に有用であることを示した
- 睡眠問題が 情緒・行動問題と強く関連 している点は、臨床でのスクリーニングの重要性を裏付ける
- 今後のASD睡眠研究でSDSCを標準ツールとして利用できる可能性を広げる
■ 一文要約
自閉症児513名を対象にした分析で、SDSCはASD特有の睡眠問題を正確に測定できる妥当な5因子構造を示し、睡眠障害と情緒・行動問題との密接な関連も確認された。
