発達障害を持つ子どもたちの音楽関連習い事への参加障壁
このブログでは、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの神経発達症に関する最新の学術研究を紹介し、支援や理解に役立つ知見を提供しています。具体的には、ASDの診断支援にAI技術を活用した研究、睡眠や食事行動が家族の生活の質に与える影響、運転訓練や意思決定支援など自立支援に関する介入の検討、研究参加における倫理的配慮の必要性、そして身体的健康との関連(肥満・運動機能など)に至るまで、幅広いテーマを扱っています。こうした内容を通じて、発達障害のある人々の多様なニーズに応えるための科学的根拠や社会的視点を伝え、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けた理解促進を目指しています。
学術研究関連アップデート
I CAN-B Money Savvy! Teaching Adults with Intellectual and Developmental Disabilities to Make Purchasing Decisions Online
この研究は、「オンラインショッピングを使った買い物の判断力」を、知的・発達障害(IDD)のある大人にどのように教えられるかを調べたものです。
現代のオンラインショッピングは、広告や「今すぐ購入」ボタン、保存されたクレジットカード情報などで、つい衝動的に買ってしまいやすい仕組みになっています。しかし、これでは「本当に自分に必要かどうかを考えて買う」力が育ちにくく、特にサポートが必要な人にとっては課題になります。
研究では、3人のIDDのある大人を対象に、以下の3つを組み合わせた支援を行いました:
- 覚えやすい合言葉(記憶法:mnemonic)
- 買い物の手順を細かく分けた説明(タスク分析)
- BST(行動スキルトレーニング:説明→モデリング→練習→フィードバック)
これらをオンラインで提供したところ、買い物時に「何が必要かを考えて選ぶ」力が向上し、その効果は6週間後も維持されていて、さらに別のショッピングサイトでも同じように使えることがわかりました。また、参加者本人・保護者・支援者からのアンケートでも、「役立つし、現実的で使える方法だ」と評価されました。
つまりこの研究は、「ネット買い物の時に落ち着いて考え、適切に判断する力」は、シンプルな工夫と支援で教えることができるということを示しており、今後の自立支援や金銭教育の現場で活用できる実践的な内容です。
Subgrouping autism and ADHD based on structural MRI population modelling centiles - Molecular Autism
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)という発達障害を、脳の構造データ(MRI)を使って細かく分類(サブグループ化)できるかを調べたものです。
🔍 背景
ASDとADHDはどちらも非常に**多様性のある状態(人によって特徴がバラバラ)**であり、脳の構造にも一つの典型的なパターンは存在しないとされています。そのため、「症状や脳の特徴が似た人どうしをグループに分ける」ことが、診断や治療の手がかりになると期待されています。
🧠 方法
研究チームは、複数の病院や研究機関で集められた脳MRIのデータを使用し、「脳の厚み」「表面積」「灰白質の量」などを年齢や性別と比べた**“百分位(centile)”スコア**に変換。
そして、HYDRAという機械学習のアルゴリズムを使って、脳の構造のパターンによって参加者をグループに分けました。従来型のクラスタリング手法とも比較しました。
📊 結果
- ASD・ADHDそれぞれの中に異なる脳構造パターンを持つサブグループが存在することがわかりました。
- さらに、ASDとADHDをまたいだ共通のサブグループも見つかり、これは「診断名よりも脳の特徴が似ている人」を見つけられることを示しています。
- ただし、症状(行動面)との明確な違いは見つからなかったため、「脳の形が違うからといって、症状が違うとは限らない」ことも確認されました。
⚠ 限界
- 使用するデータの種類やアルゴリズムによって結果が大きく変わるため、方法の選び方や報告の仕方が非常に重要であることが示されました。
✅ 結論
この研究は、「ASDやADHDの人たちは一つの型にはおさまらない」という前提をふまえ、MRI画像から特徴の似た人をグループ分けする試みを行いました。症状とは直結しなかったものの、今後「似た脳構造を持つ人どうしでより合った支援や治療を探す」手がかりになる可能性があります。方法論の選び方がとても重要であり、慎重な検討が必要です。
Study protocol for a multimethod investigation of the development of social and nonsocial reward responsivity and depression in autistic adolescents: Reward and Depression in Autism (RDA)
この研究は、「自閉スペクトラム症(ASD)のある10代の若者がなぜうつ病になりやすいのか」を、「報酬に対する反応(=うれしさの感じ方)」に注目して調べようとするものです。研究名は RDA(Reward and Depression in Autism) と名付けられています。
🔍 背景
自閉スペクトラム症のある若者は、同年代の非自閉の人に比べてうつ症状を抱える割合が高いことが知られています。ただし、「なぜそうなるのか」というメカニズムは、まだはっきりと分かっていません。
非自閉の若者では、**「報酬」への反応の仕方(人との関わりやご褒美への反応の強さなど)**が、うつの発症と関係しているとされています。自閉の若者にも「報酬の反応の仕方」が違う傾向があることは知られていますが、これとうつとの関係は十分に研究されていません。
🧠 方法
- 対象:知的障害のない14〜17歳の自閉の若者100人(うち半数以上が現在うつ症状あり)
- 内容:
- インタビューや質問票などの臨床的評価
- 脳波(EEG)を使った神経生理学的な評価
- *社会的報酬(人からの反応)と非社会的報酬(モノなど)**に対する反応を調べる
- 期間:1年間で2回調査し、変化も確認
✅ 目的と意義
- 自閉の若者における「報酬への反応」と「うつ症状」との関係を、初めて本格的に多面的に調べる研究
- 将来的には、うつになりやすいタイプの見分け方や、効果的な治療法を考える手がかりになることが期待されています
- また、この研究によって得られる測定方法(脳波など)が、治療効果の評価にも活用できるようになるかもしれません
🎯 まとめ
この研究は、「うつになりやすさ」を、自閉症の若者に特有の“うれしさの感じ方”から理解しようとする試みです。人間関係や報酬に対する反応が脳や行動のレベルでどう違うのかを調べることで、より的確な支援や予防の方法を見つけることを目指しています。
Music Education for Autistic Children with Intellectual Disability: Parental Attitudes and Support
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と軽度~境界域の知的障害(ID)を持つ子どもに対して、音楽教育への親の考え方や支援の実態を調べたものです。場所は香港、対象は通常発達の子どもの親84人と、自閉+IDの子どもの親64人です。
🔍 背景と目的
音楽は、発達に良い影響を与えることが多くの研究で示されていますが、自閉+知的障害のある子どもに対して、正式な音楽教育(ピアノや歌のレッスンなど)を受けさせている家庭がどれくらいあるのか、またその障壁は何かについては、ほとんど研究されていません。
🧪 方法
- アンケート調査で、親の音楽に対する態度や、子どもを音楽教育に通わせているかを調査
- 家庭の収入、子どもの実行機能(集中力や計画性)、親の期待などもあわせて分析
📊 主な結果
- 自閉+IDの子どもの親の方が、音楽への好意的な考えは強い
- しかし、実際に音楽教育を受けているのはわずか14.1%
- 通常発達の子どもでは40.4%が受けていた
- 音楽教育を受けさせない主な理由は:
- 収入の制約
- 子どもの実行機能の課題(集中できないなど)
✅ 結論と提案
- 親の「音楽は大切」という気持ちと、実際に音楽教育を受けさせることの間にギャップがある
- このギャップは、経済的な問題や制度的な支援の不足に起因している
- 低コストで通える音楽プログラムや、親の期待を調整する支援、インクルーシブ(共生型)な教育制度が、このギャップを埋めるために必要とされている
🎵 補足
たとえ知的障害があっても、音楽は感情表現や社会的つながりを育む手段として有効です。今回の研究は、「音楽をやらせてあげたい」と思っている親が多いにも関わらず、「現実にはできない」理由を可視化し、社会全体でのサポートの必要性を示した重要な一歩です。
Automatic Speech-Gesture Integration in Autistic Children: The Role of Gesture Semantic Activation
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちが身ぶり(ジェスチャー)と話し言葉をどのように結びつけて理解しているかを調べたものです。ふつう、私たちは話を聞くときに相手のジェスチャーも自然に理解に役立てていますが、自閉症の子どもではこの**「自動的な統合(GSI)」がうまくいっていないのでは?**という疑問が出発点です。
🔬 実験の内容
参加したのは、自閉症の子ども21人と、同じ年齢や知能水準の典型発達の子ども21人です。2つの課題が行われました:
-
意味を考えなくてよいタスク(実験1)
→ ジェスチャーと音声の意味が合っているかどうかに注目しない状況でも、自然に統合が起きているかを調べました。
-
意味に注目するタスク(実験2)
→ ジェスチャーと意味を意識的に関連づけるような場面で、統合がどうなるかを測定。
どちらも視線の動き(注視時間)と反応時間を使って、どのくらいジェスチャーに注目し、それが理解に影響しているかを調べました。
🧠 主な結果
- 実験1では、自閉症の子どもは意味が合っているジェスチャーにも注目せず、統合が自然には起きていない様子でした。
- 実験2では、「意味に注目してください」と指示された時には、視線の動きには典型発達の子どもと同様の変化が見られ、ある程度統合できていました。
💡 結論
- 自閉症の子どもたちは統合する能力が欠けているわけではなく、自動的に意味を引き出す(bottom-upな意味活性化)が弱いために、ジェスチャーと言葉を自然に結びつけられないと考えられます。
- 言い換えると、**「気づかせてあげればできる」**のです。
🌱 意義
この研究は、言語とジェスチャーの統合の違いを通じて、自閉症の子どもに合った言葉の教え方や支援の仕方を考えるヒントになります。特に、自然なやりとりではなくても、意味を明示的に教えることで理解が促進できる可能性が示されました。これは、ニューロダイバーシティに基づく適応的支援の重要性を示す研究でもあります。
Prenatal, Perinatal, and Postnatal Factors in a Cohort of Very Preterm and Very Low Birth Weight Toddlers with Suspected Autism Spectrum Disorder
この研究は、非常に早く生まれた(在胎32週未満)かつ体重がとても軽い(1,500g未満)赤ちゃんのうち、自閉スペクトラム症(ASD)の可能性がある子どもに関係する出生前後の要因を調べたものです。対象はスペインの133人の赤ちゃんで、出生から2歳まで追跡されました。
🔍 調査された要因
調査は以下のような妊娠中・出産時・出生後の状態に注目しました:
- 妊娠週数
- 出生時体重
- 出生方法(帝王切開かどうか)
- 出生後の病気(肺の未熟さによる呼吸障害など)
- 新生児集中治療室(NICU)での滞在期間
- 聴力の有無
- 出生後10分の時点でのApgarスコア(赤ちゃんの健康状態を評価する指標)
- 母親の出身国(国外か国内か)
- 妊娠中に受けたステロイド治療(肺の成熟を促すため)
📊 主な発見
- ASDのリスクを高める要因:妊娠週数が短い、低いApgarスコア、呼吸障害、聴力障害、NICU滞在が長い、母親が外国出身。
- ASDのリスクを下げる要因:帝王切開での出産、十分量のステロイド投与。
💡 意義
この研究は、早産や極低出生体重の子どもに特有のASDリスク要因を明らかにした点が新しく、一般的な赤ちゃんと同じではない可能性を示しています。今後の早期支援や予防に向けて、大規模かつ長期的な追跡調査が必要と結論づけています。
この知見は、NICUにいる赤ちゃんの将来の発達リスクを早くから把握し、適切な支援を行う手がかりとなるものです。
Raising Autistic Children in Mainland China: A Qualitative Study of Parental Experiences and Challenges
この研究は、中国本土で自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを育てている親たちがどのような経験や困難に直面しているかを明らかにするために、25人の親(うち19人が母親)に対して個別インタビューを実施した質的研究です。調査は2023年4月から7月にかけて行われました。
🔍 主な発見(4つのテーマ)
-
介護による生活の質の低下
子どものケアに多くの時間とエネルギーを費やすため、親自身の生活や仕事、趣味、人間関係に大きな制限が生じていました。
-
子どもの将来に対する不安と恐れ
子どもが学校や社会にうまく適応できるか、将来自立できるかという不安が強く語られました。
-
孤独感と社会的孤立
社会の理解不足やスティグマ(偏見)の影響により、親同士のつながりや外部との交流が制限され、孤立感を感じていました。
-
親の行動と子どもの発達との関係
親の対応次第で子どもの状態が改善することもあれば悪化することもあると感じており、自分の育て方への責任感やプレッシャーを強く持っていました。
💡 意義と提言
この研究は、ASD児を育てる親の苦労が単に家庭内の問題ではなく、文化的なスティグマや支援体制の未整備といった社会的な構造課題とも密接に関係していることを示しています。
そのため、単に個人への支援だけでなく、地域社会全体が「自閉症にやさしい環境」として機能することが重要であり、理解・受容・支援体制の整備が求められると結論づけています。
このような視点は、日本や他国で同様の支援を考える際にも参考になるでしょう。
Combining functional, structural, and morphological networks for multimodal classification of developing autistic brains
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの脳の状態を多角的に分析することで、より正確にASDの特徴を捉えようとするものです。対象年齢は5歳〜18歳の発達期にある子どもで、ASDのある子ども50人と、性別・年齢などが一致した定型発達の子ども47人の脳画像データを使いました。
🧠 研究のポイント
🔍 使われた3つの脳画像データ(モダリティ)
- fMRI(機能的MRI):脳のどの部分が同時に活動しているかを見る
- DTI(拡散テンソル画像):神経の「配線」状態(白質のつながり)を見る
- sMRI(構造的MRI):脳のかたちや大きさを見る
💡 研究成果
- 3つのデータを組み合わせることで、ASDと定型発達を約83%の精度で判別できました(単独のデータを使ったときよりも高精度)。
- 特に目立った違いが見られたのは以下の部位:
- DTI(神経のつながり):側頭葉・頭頂葉・後頭葉
- fMRI(活動のパターン):前頭葉・頭頂葉
- sMRI(形や大きさ):側頭葉
- これらの脳の違いは、ASDの子どもに見られる社会的相互作用の問題とも関連していました。
🔧 意義と活用可能性
- 1つの手法だけでなく複数の視点(機能・構造・形)を組み合わせることで、ASDの理解がより深まることが示されました。
- 今後の診断や、より個別化された支援方針の設計にも役立つ可能性があります。
🗣 補足:なぜこの研究が重要?
ASDは「脳のどこがどう違うのか?」が人によって大きく異なるため、1つの指標で判断するのは難しいとされています。
この研究は、脳の“動き方”・“つながり方”・“形”を総合的に見ることで、より確かな理解に近づけるというアプローチです。これは、将来のより早期・より的確な診断や、個々に合った支援の基礎になると期待されています。
Caring for A Child with Autism Spectrum Disorder: A Metaphor Study
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを育てる母親たちが自らの体験をどのようなたとえ(メタファー)で表現しているかを調査し、その言葉から支援の手がかりを得ようとした質的研究です。
🧠 研究の概要
- 対象者:ASDのある子どもを育てる11人の母親
- 方法:個別インタビューと観察による現象学的アプローチ
- 目的:母親たちの語るメタファーを通して、子育ての体験や心理的背景を明らかにし、保健医療従事者、特に助産師など初期支援者の理解を深めること
💬 見つかった10のメタファー例
母親たちは子育て体験を以下のような比喩で語りました:
- 宝物(子どもは大切な存在)
- 迷路(何が正しいかわからず戸惑う)
- 船旅(揺れながらも進み続ける)
- もつれた結び目(複雑で手がかりが見つからない)
- 新たに発見された惑星(未知の世界との出会い)
- 実を結ぶのが遅い木(成長に時間がかかる)
- 山の頂(乗り越えるべき大きな課題)
- 新しい一日(希望とリセット)
- 宇宙人(社会との違和感)
- 芽吹いたばかりの花(これから育つ存在)
🔍 意義と提言
このようなメタファーの分析は、医療者や支援者が母親の心理状態や支援ニーズをより深く理解するための手がかりになります。特に、子どもが0〜6歳の幼少期においては、助産師など初期の保健支援者がASDへの理解と感受性を持って対応することが重要です。
🧩 補足:なぜ「メタファー」が大事?
比喩は、言葉にしにくい体験を感覚的・感情的に表現する手段であり、その人の価値観や悩み、希望が凝縮されています。医療者がこの言葉に耳を傾けることで、画一的な支援ではなく、その家庭に即した支援の在り方を見出すことができます。
Inclusion of Individuals with Autism and Co-Occurring Intellectual Disability or Language Impairment as Research Participants
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)と知的障害(ID)や言語障害(LI)を併せ持つ人々が、研究の参加者としてほとんど取り上げられていないという問題に焦点を当てた**倫理的・実践的課題に関する論考(コメント論文)**です。
🔍 背景と問題点
- 研究においては、軽度の自閉特性を持つ人が主に対象とされやすく、重度の支援を必要とする人(IDやLIのある人など)は、参加が難しいため除外されがちです。
- 結果として、全体のニーズを反映しない偏った研究知見しか得られず、支援制度や医療・福祉政策にも不平等が生まれます。
⚖️ 倫理的視点と提案
この論文では、Kassの倫理的枠組み(公衆衛生における倫理判断のための指針)をもとに、
- 募集・同意取得の配慮(理解力の差に対応)
- 計測方法の工夫(標準テストが不適切な場合への対応)
- プライバシー保護とリスク最小化
といった配慮が不可欠であることを示し、研究の「アクセシビリティ」や「公平性」をどう担保するかを論じています。
📌 結論とメッセージ
- ASD当事者の多様性を反映した研究参加が今後ますます重要になる。
- 当事者本人の声を反映した倫理的ガイドラインの整備と実行が求められている。
- そのためには、研究者・支援者・政策決定者が協働し、実際の支援ニーズと向き合う研究の在り方が必要です。
このように本論文は、重度の支援が必要な自閉症の人々の「声」が研究に反映される仕組みづくりを訴えるもので、研究倫理・実務の再設計に向けた示唆を提供しています。
Relationship Between Health-Related Behaviors and Family Quality of Life in Children with Autism Spectrum Disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもを育てる家族の「家族生活の質(FQoL: Family Quality of Life)」に影響を与える健康関連行動について調べたものです。スペイン在住のASDの子ども(4~13歳)65名の保護者を対象に、睡眠習慣・食事の困難さ・運動・スクリーン時間などの行動がFQoLとどう関係するかを分析しました。
その結果、睡眠の問題と食事時の困難さだけがFQoLと強く関係しており、特に「寝つきの不安(r=0.71)」「日中の眠気(r=0.70)」「食べ物の拒否(r=0.72)」などが、家族全体の生活の質に悪影響を与えていることが分かりました。逆に、運動量やスクリーン時間はFQoLに独立した影響を与えていないことが示されました。
このことから、ASDのある子どもの家族を支援する際には、行動療法や支援プログラムで睡眠習慣や食事の困難への対応を重視することが効果的であると示唆されています。子ども本人の特性だけでなく、日常の生活習慣への介入が、家族全体の幸福に寄与する重要な鍵となるというメッセージを伝える研究です。
Functional connectivity of the nucleus accumbens predicts clinical course in medication adherent and non-adherent adult ADHD
この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある大人の脳活動パターンが、その後の症状の経過を予測できるかを調べたものです。特に、**「やる気」や「報酬」と関係が深い脳の部位・側坐核(nucleus accumbens, NAc)**の働きに注目しました。
研究では、ADHDの成人54名を対象に、最初にfMRI(機能的MRI)で脳の活動を測定し、全員に一時的に薬を服用してもらいました。その後約3年間追跡調査を行い、**薬を続けた人(34名)と中止した人(20名)**に分けて、症状がどう変化したかを分析しました。
結果として、
-
NAcとデフォルトモードネットワーク(DMN)とのつながりが弱い人ほど、初期の症状が重い
-
NAcと「重要な情報を察知するネットワーク(サリエンスネットワーク, SN)」とのつながりが減ると、症状が改善しやすい
ことが分かりました。
さらに、
-
薬を継続した人では、NAcとSNのつながりが強い方が予後が良く、
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薬をやめた人では、逆にそのつながりが弱い方が良い経過をたどる
という、薬の有無によって予後の指標が逆になるという興味深い結果も示されました。
この研究は、脳内の「やる気や報酬」に関係する回路の状態が、薬の効果や将来の症状の進み方を予測するヒントになる可能性を示しており、個別に合った治療方針を立てるための手がかりになると期待されます。
A Novel Black-Winged Kite Algorithm with Deep Learning for Autism Detection of Privacy Preserved Data
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を高精度かつプライバシーを守りながら検出するための新しいAIモデルを提案しています。
主なポイント:
■ 目的
ASDは行動やコミュニケーションに課題をもたらす発達障害で、早期発見と診断が重要です。ただし、医療データには個人情報が多く含まれるため、プライバシー保護が欠かせません。本研究では、高精度な自閉症検出とデータの匿名性の両立を目指しました。
■ 手法の概要
- データの前処理:
- 数値データを統一スケールにするため、Zスコア正規化を使用。
- 不足するデータを補うため、**オーバーサンプリング(データ拡張)**を実施。
- プライバシー保護:
- K-匿名化という技術で、個人が特定されにくくなるようデータを加工。
- この匿名化処理に**Black-Winged Kite Algorithm(黒翅トビアルゴリズム)**という最適化手法を利用し、匿名性とデータの有用性のバランスを最適化。
- 自閉症の検出:
- 開発したAIモデル「MNASNet」を使用。これは、
-
軽量で高速なMobileNet
-
注目すべき情報に焦点を当てるAttention(注意)機構
を組み合わせたもの。
-
- 開発したAIモデル「MNASNet」を使用。これは、
■ 成果
- 精度:92.9%
- 真陽性率(TPR):95.9%(=本当にASDの人を正しく検出できた割合)
- 真陰性率(TNR):90.9%(=ASDでない人を正しく見分けた割合)
■ 結論
この研究は、医療データのプライバシーをしっかり守りながらも、高い精度でASDを検出できるAIシステムを開発したという点で画期的です。今後、モバイル端末などでも手軽に利用できるASDスクリーニングツールへの応用が期待されます。
Driving Training Programs for Autistic Individuals: A Scoping Review
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の人が運転を学ぶための支援プログラムを調査・整理したスコーピングレビューです。
■ 背景
ASDのある人は、以下のような理由から運転の習得が難しい傾向にあります:
- 社会的なやりとりの困難(他の車や歩行者との非言語的なやりとり)
- 注意の切り替えや判断力など実行機能の弱さ
- 感情のコントロールの難しさ
- 運動協調性の課題
これらは事故のリスクを高める要因にもなります。
■ 目的と方法
本研究は、「ASDの人の運転能力を向上させる訓練プログラムにはどのようなものがあるか?」を明らかにすることを目的に、これまでの研究を整理しました。
- 対象論文数:7本
- 対象人数:229名のASDのある参加者
- 対象:教育プログラム、運転シミュレーターを使った訓練、複合型訓練など
■ 結果
- いくつかのプログラムでは効果あり:運転ミスの減少や運動協調の改善が見られた。
- しかし、全体的に結果は一貫しておらず、効果にバラつきがあった。
■ 結論と提言
現在の運転訓練プログラムはまだ発展途上であり、ASDの人の特性に合った科学的根拠のある訓練法の開発が今後の課題とされています。より質の高い研究と実証済みのアプローチが求められています。
Are autistic individuals more confused when making choices? Choice architecture interventions to reduce choice confusion among individuals with autism
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちが肥満になりやすいかどうかを調べたものです。特に、体重や体脂肪率だけでなく、お腹まわり(腹部脂肪)の蓄積にも注目して分析が行われました。
■ 研究の内容
- 対象は6〜12歳の子ども510人(うち44人がADHD診断あり)。
- 体重・身長からBMIを計算し、さらに体脂肪率(%Fat)と**ウエストと身長の比率(WHtR)**も測定。
- ADHDの子どもは、健常な子どもに比べて:
- BMIで診断される肥満のリスクが約3.2倍
- お腹まわりに脂肪がつきやすい(WHtRで2.7倍のリスク)
- 一方で、全体の体脂肪率には明確な差が見られなかった。
■ 注目すべき点
- ADHDがある子どもは、「太って見えない」けど、お腹に脂肪が集中している傾向があるという結果でした。
- ただし、**家庭の経済状況や親の教育レベル、子ども時代の困難体験(ACE)**を考慮すると、ADHDと肥満の関係は弱まることも判明。
■ 結論
ADHDのある子どもは、外からはわかりづらい「お腹太り」タイプの肥満に注意が必要です。しかしその背景には、家庭環境や生育歴などの複雑な要因も絡んでいるため、身体的ケアだけでなく、心理社会的な支援も含めた包括的なアプローチが重要です。
Obesity and central accumulation of fat in school-age children with attention-deficit/hyperactivity disorder
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちが肥満になりやすいかどうかを調べたものです。特に、体重や体脂肪率だけでなく、お腹まわり(腹部脂肪)の蓄積にも注目して分析が行われました。
■ 研究の内容
- 対象は6〜12歳の子ども510人(うち44人がADHD診断あり)。
- 体重・身長からBMIを計算し、さらに体脂肪率(%Fat)と**ウエストと身長の比率(WHtR)**も測定。
- ADHDの子どもは、健常な子どもに比べて:
- BMIで診断される肥満のリスクが約3.2倍
- お腹まわりに脂肪がつきやすい(WHtRで2.7倍のリスク)
- 一方で、全体の体脂肪率には明確な差が見られなかった。
■ 注目すべき点
- ADHDがある子どもは、「太って見えない」けど、お腹に脂肪が集中している傾向があるという結果でした。
- ただし、**家庭の経済状況や親の教育レベル、子ども時代の困難体験(ACE)**を考慮すると、ADHDと肥満の関係は弱まることも判明。
■ 結論
ADHDのある子どもは、外からはわかりづらい「お腹太り」タイプの肥満に注意が必要です。しかしその背景には、家庭環境や生育歴などの複雑な要因も絡んでいるため、身体的ケアだけでなく、心理社会的な支援も含めた包括的なアプローチが重要です。
Frontiers | DASD-Diagnosing Autism Spectrum Disorder Based on Stereotypical Hand-Flapping Movements Using Multi-Stream Neural Networks and Attention Mechanisms
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の早期発見と診断を支援するために、手をパタパタと動かす特有の行動(hand-flapping)を自動で検出するAI技術を開発したものです。
■ 研究のポイント
- ASDの診断はこれまで医師の観察に強く依存しており、主観的になりがちでした。
- 本研究では、EfficientNetV2B0・ResNet50V2・DenseNet121などの高度なニューラルネットワークを組み合わせたマルチストリーム型のAIモデルを構築。
- 特に「手をパタパタ動かす」という**ASDの代表的な自己刺激行動(SSB)**に着目し、**動きの特徴を時系列で精密に捉える「時間的・空間的注意機構」**を取り入れています。
- 使用した映像データは**66本の実際の行動動画(SSBDデータセット)**で、これに対するAIモデルの判定精度は:
- 正確度96.55%
- 特異度(誤検出の少なさ)100%
- 感度(見逃しの少なさ)94.12%
- F1スコア(全体バランス)97%
■ 意義
この技術により、医師の判断に頼らずに客観的かつ早期にASDの兆候を捉えることが可能になります。今後、診察時の補助ツールや家庭でのスクリーニングにも応用が期待される、非常に実用性の高い研究です。
Frontiers | Eye-hand coordination during upper limb motor tasks in individuals with or without a neurodevelopmental disorder: a systematic review
この論文は、発達性協調運動障害(DCD)・脳性まひ・自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症(NDD)を持つ人々が、「目と手の協調」(視覚と運動の連携)にどのような課題を抱えているかを、既存の研究をまとめて分析したシステマティックレビューです。
■ 研究のポイント
- 対象: 神経発達症(NDD)のある人と、同年齢の健常者(対照群)を比較
- 内容: 手の動き(上肢動作)と視線の動きを同時に分析するタスク(例:物を指す・動かす・なぞるなど)における、時空間的な目と手の協調の違いを評価
- データ: 合計12件の論文、計434人のデータを分析
- 結果:
- 簡単な動作(例:静止した物を指す)では差は小さい
- 一方で、複雑な動作(順序のある操作や手先の細かい操作)では、NDDのある人は視線と手の動きのタイミングがずれやすく、視覚による確認に頼る傾向が強い
■ 意義
この結果は、NDDを持つ人は、複雑なタスクにおいて目と手の連携が難しいことを示しており、理学療法や作業療法における介入設計に重要な示唆を与えます。特に、「手先の不器用さ」だけでなく「視覚との連携の難しさ」に注目し、視覚と運動の統合力を育てるトレーニングが有効である可能性を示しています。