過去30年間におけるADHDとASDに関する動物モデル研究の動向
本ブログ記事では、発達障害(特にASDやADHD)に関連する最新の学術研究を幅広く紹介しており、問題的インターネット使用や感情調整、医療アクセス支援、社会的第一印象の偏見、動機づけ評価ツールの開発、脳機能異常の可視化、抗精神病薬の多剤処方の実態把握など、多面的なテーマが取り上げられています。いずれの研究も、発達障害当事者の 生活の質を向上させるための支援や理解、個別化された介入法の重要性を示しており、科学的根拠に基づいた福祉・教育・医療の今後の実践や政策形成に貴重な示唆を与える内容となっています。
学術研究関連アップデート
Caught in the Web of the Net? Part I: Meta-analyses of Problematic Internet Use and Social Media Use in (Young) People with Autism Spectrum Disorder
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある若者や子どもたちが、インターネットやソーシャルメディアをどのように使っているか、そしてそれが問題行動(依存や過剰使用など)とどう関係しているかを明らかにするために行われた**2つのメタ分析(過去研究のまとめ分析)**を報告したものです。
🔍 主な発見
- ASDのある人は「問題的インターネット使用(PIU)」の傾向が高い
- 対象:46の研究、42,274人
- 問題的使用には、ネット依存、ゲームのやりすぎ、スマホの過剰使用などが含まれる
- 平均効果量:r = 0.26(中程度の関連)
- ASDのある人は、ソーシャルメディア(SNS)での活動が少ない傾向
- 対象:15の研究、7036人
- 友達とのやり取りや投稿など、SNS上での交流の頻度が低い
- 平均効果量:r = -0.28(中程度の逆相関)
💡 補足と意義
- ASDの人はネットやデジタル環境に親和性がある一方で、使い方に偏りが出やすく、問題化しやすいことが示されました。
- SNSでの交流が少ない理由としては、対人コミュニケーションの難しさやストレス、構造化されていない会話の苦手さなどが影響している可能性があります。
- 今後は、インターネットの利点を活かしつつ、使いすぎや孤立を防ぐための支援が求められると著者たちは述べています。
✅ まとめ
この研究は、ASDのある若者はインターネットを使いすぎる傾向がある一方、SNSでは孤立しやすいという二面性を明らかにしており、デジタル時代の発達支援において重要な知見を提供しています。
Leveraging Feedback From Autistic Adults to Develop an App to Access Healthcare Services
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人当事者からの意見をもとに、医療サービスへのアクセスを支援するアプリを開発するための研究です。ASDのある人は、持病が多く、医療へのアクセスにおいてさまざまな不平等(診察の受けにくさ、配慮の欠如など)に直面しやすいことが知られています。
🔍 研究の内容
- 15人のASD当事者にインタビューし、「どんな医療アプリがあれば役立つか?」を聞き取りました。
- 特に重視されたのは、「ASD当事者向けに特化したアプリ」の必要性と具体的な機能です。
💡 参加者の意見から導かれた主な機能
- 医療情報を一元管理できること
- 予約、薬の情報、診察記録などがひとつの場所に集約されていると便利。
- 医療機関に配慮をお願いする機能
- 感覚過敏や対話の苦手さに 対応できるよう、自分のニーズを事前に伝えるツールがほしい。
- 役立つリソースへのアクセス
- 信頼できる医療機関、支援団体、手続きの情報などにすぐアクセスできる機能。
- カスタマイズ可能なフィルター
- 「静かな待合室があるか」「事前に質問リストを送れるか」など、自分に合った医療機関を探しやすくする条件設定。
✅ 結論と意義
この研究は、ASD当事者の声を反映した医療支援アプリの開発が重要であることを明らかにしたものです。ただ情報を提供するだけでなく、個々の特性に寄り添った機能を持つアプリが、医療アクセスの格差を減らす鍵になると示唆されています。
🔸要するに:自閉症のある人たちが「本当に使いやすい」と感じる医療アプリを作るには、当事者の声を聞くことが不可欠。この研究は、その第一歩として非常に意義深い内容です。
Dialectical behavior therapy in autistic adults: effects on ecological subjective and physiological measures of emotion dysregulation - Borderline Personality Disorder and Emotion Dysregulation
この論文は、感情のコントロールが苦手な自閉スペクトラム症(ASD)の成人に対して、弁証法的行動療法(DBT)がどのような効果を持つかを、リアルタイムでの主観的評価と生理的データの両方から検証した研究です。
🔍 研究の背景
- 自閉スペクトラム症のある成人の中には、強い感情の波や感情表現の困難(=情動調整の困難、ED)を抱える人が多くいます。
- DBT(弁証法的行動療法)は、元々境界性パーソナリティ障害などの治療で効果が実証されている感情調整に特化した心理療法ですが、ASD当事者への効果をリアルタイムで検証した研究はこれまでありませんでした。
🧪 研究の方法
- 26人のASDのある成人が、5か月間のDBTプログラムを受けました。
- 効果を測定するために、以下の2つの方法を使用:
- Ecological Momentary Assessment(EMA):スマホで1日12回×7日間、リアルタイムで「今の気持ち」「どんな感情か」「感情をコントロールできているか」などを記録。
- 生理的モニタリング:腕時計型センサーで、心拍数(HR)、心拍変動(HRV)、皮膚電気反応(SCL)を連続測定。
📊 主な結果
- ネガティブな感情や感情の混乱自体は大きく減らなかったものの、以下のようなポジティブな変化が見られました:
- 自分の感情に気づけるようになった(感情認識の向上)
- ポジティブな感情が増えた
- 感情のコントロールがうまくなった
- 生理的なデータでは大きな変化は見られませんでしたが、感情的な高まりと心拍変動(HRV)が連動していることが確認されました。
✅ 結論と意義
- DBTは、ASDのある成人の感情調整スキルを改善するうえで有効であり、リアルタイムかつ客観的なデータ(EMAやセンサー)で効果を可視化できたのは大きな成果。
- 今後は、無作為化比較試験(RCT)でこの手法を用い、より信頼性の高い検証が求められるとしています。
🔸要するに:この研究は、「感情の波がつらいASDのある人たちにDBT が有効である可能性が高い」ことを、スマホアプリと生体センサーを使ったリアルタイムデータで証明した初の試みです。感情の可視化とコントロール支援に向けた、実用的な示唆を多く含んでいます。
A Review of Behavior-Analytic Articles that Cite a Source of Misinformation about ABA
この論文は、応用行動分析(ABA)に関する誤情報が学術的にどのように扱われているかを調査したものです。特に注目しているのは、ABAが自閉スペクトラム症(ASD)の人にトラウマを与えると主張したKupferstein(2018年)の論文が、ABA専門の学術誌でどのように引用されているかです。
🔍 背景
- ワクチンと自閉症の関連を示唆したウェイクフィールドの1998年の論文は、後に誤りとされ撤回されましたが、社会に大きな悪影響を与えました。
- 同様に、ABAがトラウマを引き起こすというKupferstein(2018)の論文も、科学的根拠が不十分なまま一部で広まり、誤解を招いていると筆者らは指摘しています。