ペルーの知的障害を持つ子どもたちに見られる遺伝子の変化
この記事では、発達障害に関連する2つの学術研究を紹介しています。1つ目はペルーの知的障害児を対象に、全エクソーム解析を通じて遺伝子内部の変異(MECP2やSTXBP1など)を特定し、身体的特徴との関連も明らかにした研究です。2つ目は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの姿勢制御における特性を、重心の揺れのパターンから定量的に分析し、感覚統合の困難さや高次脳機能への過剰依存が示唆された研究です。いずれも、診断・支援における新たな評価指標や介入の可能性を示しています。
学術研究関連アップデート
Identification of intragenic variants in pediatric patients with intellectual disability in Peru - BMC Medical Genomics
この研究は、ペルーの知的障害を持つ子どもたちに見られる遺伝子の変化(特に遺伝子内部の変異)を特定することを目的としたものです。対象は5~18歳の子ども124人で、心理検査によって知的障害と診断され、**全エクソーム解析(遺伝子の重要な部分を調べる方法)**が実施されました。
🧬 主なポイント:
- *約3人に1人(30.6%)**の子どもに、知的障害の原因と考えられる遺伝子変異が見つかった。
- 多くは**常染色体優性遺伝(親から1つだけ変 異を受け継いでも発症)**のパターンでした。
- 特に多く見られた遺伝子は:
- MECP2(レット症候群などに関与)
- STXBP1(てんかんなどに関与)
- LAMA2(筋肉の異常と関連)
🧠 補足的な発見:
- 皮膚の異常、筋肉の緊張の問題(ジストニア)、神経の異常、指の曲げにくさなどが見られる子どもほど、遺伝子変異が見つかる可能性が高かった。
- つまり、こうした身体的な特徴が遺伝性の知的障害を疑うヒントになる可能性があります。
✅ 結論:
この研究は、**知的障害の背景にある遺伝的要因の多様さ(遺伝的異質性)**を示しており、診断や支援のためには遺伝子検査が重要であることを強調しています。また、ペルーのような国でも、早期発見・介入のための仕組み(出生時スクリーニングなど)を整備する必要性があるとしています。
要するに、「知的障害の原因は遺伝子の異常であることが多く、正確な診断のためには遺伝子検査が欠かせない」ということを明らかにした重要な研究です。
Postural Control in Children with Autism Spectrum Disorders: What are the Most Striking Specificities and How Can They be Quantified?
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもが、姿勢の安定(バランス)を保つ力にどのような特徴があるかを詳しく調べたものです。研究では、ASDの子ども24人と定型発達の子ども24人が、**床の上に30秒間立っている時の身体の揺れ方(重心の動き)**を測定しました。
🔍 主な測定条件と方法:
- 3つの条件で立位を測定:
- 目を開けて普通の床に立つ(EO)
- 目を閉じて普通の床に立つ(EC)
- 目を開けて柔らかいマットの上に立つ(EOF)
- 測定は**「重心の動きのパターン(CoP: Center of Pressure)」**に注目し、
- 合計75項目の指標(動きの大きさ・速さ・リズムの複雑さなど)を分析
📊 主な発見:
- 75の指 標のうち、15項目がASDと定型発達児の間で明確な違いを示しました。
- 特に有効だったのは:
- EOとEOF間の揺れ方の変化率
- 細かい「震え」の大きさ(Root Mean Square of trembling)
- ASDの子どもは、定型発達児に比べて揺れの動きがより規則的で硬く、柔軟性に欠ける傾向がありました。
✅ 結論と意義:
- ASDの子どもは、視覚や体の感覚など複数の感覚情報をうまく統合することが難しく、そのためにバランスのとり方が独特になることが示されました。
- また、脳の高次機能(=脳の上のほうの働き)に過剰に頼って姿勢を制御している可能性も示唆されています。
この研究は、ASDの子どもの「体の使い方の特徴」を客観的に数値化する方法を提示したもので、今後のリハビリや身体的支援の設計にも活用できる可能性があります。