中低所得国における障害のある人々の教育格差とその是正施策の効果について
本記事では、発達障害や教育、医療分野に関する最新の研究やビジネス動向を紹介しています。NPO法人ここのばが教育版マインクラフトを活用した個別支援プログラム「GLOBAL GAME」を開始したことや 、日本で初めて承認されるADHD治療アプリの臨床試験結果を取り上げています。学術研究の分野では、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する生化学マーカーや金属代謝の異常に関する研究、英国でのASD児向け性教育の課題、医療・福祉・教育の専門職間連携の実態調査、さらには中低所得国における障害児の教育改善に関するシステマティックレビューなど、幅広い視点から最新の知見をまとめています。これらの研究は、ASDやADHDのより正確な診断と支援の在り方を探る重要な指針となり、個別支援や環境改善の必要性を示唆しています。
ビジネス関連アップデート
発達障害児向けに教育版マインクラフト活用した個別支援プログラム「GLOBAL GAME」提供開始〜NPO法人ここのば | KKS Web:教育家庭新聞ニュース|教育家庭新聞社
NPO法人ここのばは、**発達障害のある子どもの社会性向上を目的とした個別支援プログラム「GLOBAL GAME」**を開始しました。このプログラムでは、教育版マインクラフトを活用し、仮想空間での建築や課題解決を通じて、子どもたちのコミュニケーション能力や協調性を育むこ とを目指します。
子どものADHD、スマホゲームで症状改善 アプリを承認へ、国内初:朝日新聞
ADHD治療アプリが国内初の承認へ – 厚生労働省専門家部会が了承
厚生労働省の専門家部会は6日、子どもの注意欠如多動症(ADHD)向け治療アプリの国内製造販売を承認しました。このアプリは、ゲーム形式で乗り物を操作しながら課題をこなすことで、認知機能を担う脳の部位を活性化させる仕組みとなっており、スマホやタブレットで利用できます。
アプリは、米アキリ社が開発し、塩野義製薬が日本と台湾での開発・販売権を取得。6~17歳を対象とした国内臨床試験では、約25分のプレイを6週間続けることで、ADHDの「不注意」症状が有意に改善することが確認されました。今後、正式に承認されれば、国内初のADHD治療アプリとなります。
学術研究関連アップデート
Biochemical Markers as Predictors of Health Outcomes in Autism Spectrum Disorder: A Comprehensive Systematic Review and Meta-analysis
自閉スペクトラム症(ASD)の健康リスクを予測する生化学マーカーの研究 – 系統的レビューとメタ分析
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の発症メカニズムや健康リスクに関わる生化学マーカー(血液や体内で測定できる物質)を総合的に分析したものです。特に、酸化ストレス、神経伝達物質(脳内の情報伝達物質)、脂質(コレステロールなど)の異常が、ASDの病態や心血管・代謝リスクに影響を与える可能性について検討しました。
研究のポイント
✅ 41の研究データを分析し、ASD児の生化学マーカーの特徴を調査
✅ 酸化ストレス(体内の細胞がダメージを受ける状態)が高く、ミトコンドリア機能に問題がある傾向
✅ 神経伝達物質の異常が見られ、シナプス(脳の神経接続)の働きを阻害する可能性
✅ 慢性的な神経炎症が発達の遅れや認知機能の問題に関与
✅ メタ分析の結果、データの信頼性は高く(低いバイアス・データの一貫性)、ASDの病態と生化学マーカーの関連が明確
結論と意義
🔹 ASDの診断や治療に、生化学マーカーを活用することで、個別化された治療(オーダーメイド医療)が可能になるかもしれない
🔹 ASD児の健康管理には、抗酸化対策や栄養療法(ミトコンドリア機能の改善)を考慮する必要がある
🔹 今後は、これらのマーカーを活用した診断・治療の枠組みを確立し、より効果的なASD支援につなげる研究が求められる
この研究は、ASDの発症メカニズムをより深く理解し、個々の特性に合った診断・治療法の開発につながる可能性を示しています。
Metallomic Profiling of Autism Spectrum Disorder in Sarajevo Canton, Bosnia and Herzegovina: Insights from Hair Sample Analysis
サラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)における自閉スペクトラム症(ASD)児の金属代謝異常 – 毛髪分析による調査
この研究は、ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるASDの増加に伴い、ASD児の体内に蓄積される金属(必須ミネラルと有害金属)がASDの発症や病態に関係しているかを調査したものです。特に、毛髪中の金属濃度を測定すること で、ASD児と定型発達児(対照群)との違いを分析しました。
研究の方法
✅ 対象者: 3〜12歳のASD児と定型発達児(合計41名)
✅ 測定方法: 原子吸光分光法(AAS)を用いて、毛髪中の金属濃度を測定
✅ 測定対象の金属
- 必須ミネラル(身体の健康維持に必要): 銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)
- 有害金属(毒性がある可能性): カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)
主な研究結果
🔹 ASD児の毛髪中には、有害金属が高濃度で蓄積されていることが判明
- ASD女子は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)が基準値を超えていた
- ASD男子もカドミウム(Cd)が多く、特に鉛(Pb)は基準値の2倍に達していた
🔹 コバルト(Co)も一部のグループで基準値超え
- 特に3〜5歳の定型発達児とASD女子全体で高濃度が確認された
🔹 統計的に有意な違いが見られた金属
- ASD女子と定型発達女子で、カドミウム(Cd)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)に有意差
- ASD男子と定型発達男子で、鉛(Pb)に有意差
結論と意義
🔸 ASD児の体内には有害金属(特に鉛やカドミウム)が多く蓄積されており、これが発症や症状の悪化に関与している可能性がある
🔸 特にASD男子の鉛(Pb)濃度が高いことが懸念され、環境要因(大気汚染、食事、水質など)との関連性を調べる必要がある
🔸 この研究は、ASDの発症要因の一つとして「金属代謝異常」に注目し、今後の研究や環境対策の重要性を示している
実生活への応用
🧪 ASD児の健康管理として、重金属の蓄積をチェックする検査(毛髪ミネラル分析など)の導入を検討
🍎 食事の工夫(デトックス効果のある食材、亜鉛や鉄のバランス改善)による有害金属の排出促進
🌿 環境対策(鉛やカドミウム汚染の原因となる水や食品、生活用品の見直し)を進める必要性
この研究は、ASDの環境要因としての「金属代謝異常」の可能性を示し、環境改善や個別の健康管理の重要性を示唆する貴重な知見を提供しています。
The Provision of Relationship and Sex Education Programs for Individuals with Autism Spectrum Disorder– Staff Perspective
自閉スペクトラム症(ASD)児向けの性教育(RSE)の課題と現状 – 英国の教育スタッフの視点
この研究は、英国の学校で提供されている性教育(RSE: Relationship and Sex Education)が、自閉スペクトラム症(ASD)児に適切に提供されているかを、教育スタッフの視点から評価したものです。
背景
✅ RSE(性と人間関係に関する教育)は、英国の学校の全国カリキュラムに20年以上前から導入されている
✅ 主に大人数のクラスで指導されるため、ASD児向けに十分な配慮がされていない可能性がある
✅ ASD児が十分な理解を得られないと、不完全な知識のまま成長し、社会的に脆弱な立場に置かれるリスクがある
研究方法
- 2016年時点でのASD児向けRSEプログラムを評価
- ロンドン、サリー、サセックスの15校に在籍するRSE担当者や学校リーダーを対象に半構造化インタビューを実施
- 得られたデータを分析し、共通するテーマを抽出
主な研究結果
✅ ASD児向けのRSE実施にはさまざまな課題がある
✅ 主な課題:
- プログラムの実施が困難 – ASD児が情報を理解しやすい形で教えるのが難しい
- 教材や支援が不足している – ASD児向けの適切な教材や専門知識を持つスタッフが少ない
- 質の高いRSEの開発が進んでいない – 教育現場では重要性を認識しているが、具体的な改善策が不十分
結論
🔹 RSEの担当者は、ASD児向けの適切な性教育の必要性を認識しているが、実際には多くの障害があるため十分に提供できていない
🔹 ASD児にとってわかりやすい形でのRSE教材の開発や、教育スタッフへのサポート強化が求められる
🔹 ASD児が適切な知識を得られるよう、個別指導や支援体制の整備が必要
実生活への応用
📚 ASD児向けのRSE教材の開発が必要(視覚支援、具体的な事例を使 った指導など)
👩🏫 教師向けのトレーニングを強化し、ASD児の理解に合わせた指導を可能にする
🏫 学校ごとに、ASD児向けのRSEを個別対応できる制度を整備する
この研究は、ASD児にとって適切な性教育の重要性を示し、そのための支援体制の強化が急務であることを明らかにする貴重な知見を提供しています。
“What does ‘often’ even mean?” Revising and validating the Comprehensive Autistic Trait Inventory in partnership with autistic people - Molecular Autism
自閉スペクトラム特性を正確に測る新しい質問票「CATI-R」の開発と検証
この研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の特性を測る自己報告型の質問票「包括的自閉特性インベントリー(CATI)」を、実際の自閉当事者と共同で改訂し、「CATI-R(改訂版)」として検証しました。
背景
従来のASD診断や特性評価の質問票は、多くが非自閉者(定型発達者)によって作成されており、自閉当事者が実際にどのように感じているかを十分に反映していないことが課題でした。特に、「しばしば(often)」などのあいまいな表現が、自閉当事者には解釈しにくいという問題が指摘されていました。
また、既存の質問票の多くは「自閉の特性を欠点や障害として表現する傾向がある(欠陥モデル)」ため、これがスティグマ(偏見)の助長につながる可能性もありました。
研究の目的
✅ 自閉当事者と共同で質問票を改訂し、より分かりやすく、偏見を減らした表現にする
✅ 既存の質問票では捉えにくかった「女性の自閉特性」を適切に測れるようにする
✅ 新しい質問票「CATI-R」の信頼性と妥当性を大規模なデータで検証する
研究の方法
- 自閉当事者22名と共同で、質問項目の見直し・改訂を実施
- わかりにくい表現を明確にし、より多様な自閉の経験を反映するよう修正
- 否定的な表現を避け、自閉の特性を中立的・肯定的な視点で記述
- 1,439名を対象にオンライン調査を実施
- 自閉診断を受けた人(331名)
- 自閉特性を自認する人(44名)
- 非自閉の人(1,046名)
- 統計解析により、新しい質問票(CATI-R)が信頼性と妥当性を持つか検証
- 既存の自閉特性評価尺度(AQ、BAPQ)との比較
- 性別による測定の一貫性をチェック
主な研究結果
✅ CATI-Rは、ASD特性を適切に測定できることが統計的に確認された
✅ 従来の質問票(AQ、BAPQ)とも高い相関があり、一貫性がある
✅ 性別によるスコアの違いが統計的に有意ではなく、幅広い層に適用可能
✅ 自閉当事者が改訂に関わったことで、より自然な表現となり、スティグマを減らす形に改善された
結論
🔹 自閉当事者の視点を取り入れることで、より正確で適切な自己報告型質問票を作成できることが示された
🔹 「自閉特性は障害ではなく、多様な特性の一部である」という考え方を反映し、より公平な評価尺度を開発できた
🔹 今後の研究では、さらに幅広い年齢層や性別の人々を対象にテス トし、より多くのデータを収集する必要がある
実生活への応用
🧩 自閉診断の補助ツールとして活用できる可能性がある
📊 教育や職場環境での合理的配慮を考える際に役立つ評価ツールとなる
🗣️ 診断を受けていないが自閉特性を持つ人が、自己理解のために使うことができる
この研究は、自閉当事者と協力して作られた、より正確で公平な自閉特性評価の手法を確立する重要な一歩となるものです。