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【ABA】DTTってどんな方法?短い時間で沢山トレーニング可能なDTTについて解説【DTT実践編】

· 約22分
Tomohiro Hiratsuka

前回はスキル習得トレーニングの一つであるDTTとは?というところから、実践する上でどのような事前準備・タスクが必要なのかまで紹介させていただきました。今回は具体的な実践ステップに関して紹介させていただきます。

はじめに

前回はスキル習得トレーニングの一つであるDTTとは?というところから、実践する上でどのような事前準備・タスクが必要なのかまで紹介させていただきました。今回は具体的な実践ステップに関して紹介させていただきます。

まだ前回の記事を読まれていない方は下記から読んでいただくとわかりやすいかと思います。

DTTを始める前に

前回の準備編でDTTを行う際には児童が集中できる環境で実施することが望ましいとご紹介しましたが、支援環境によっては集中できる場所への移動を伴う場合があります。

自閉症をはじめとした発達障害を持つ児童の中には、移動教室のような場面の切り替えに難しさを感じる児童も多くいるため、実際にDTTを開始するにあたって、相応しい環境に移動することを伴う場合には移動戦略を用いるとスムーズに移動が可能です。

移動戦略のうちごく簡単なものとしては次に何が起きるのか事前に児童が理解できる形で伝えるという方法です。

伝える方法自体は児童の特性等に応じて準備する必要がありますが、視覚的にイラストなどを使用して次の活動や移動先を示したり、チャイムなど音声を利用して「あと5分でリラックスルームに移動だよ」などと伝えることもできます。

基本的には児童が理解できればどのような合図でも可能ですが、とレーニング以外の場面のことを考えると日常的に使用できる合図であることが望ましいため、なるべく身近にある刺激を合図として使用することが望ましいです。

時計の針の位置を合図にすれば、セラピー以外の場所でも時計を合図として認識できます。

DTTに伴う移動戦略 場面の切り替えを伝える手段として時刻を示す

DTT実践

ここからは実際に集中できる環境においてDTTを実践するステップに関して順番にご紹介します。

1.注意の獲得

児童が着席したり、DTTを実施するのにふさわしい状態になった後でまずやることは児童の注意を引きつけることです。前回の準備編の動画の中でセラピストが、使用する積み木を児童の前でゆらゆらさせたり、またくすぐったりしていた行動がこの注意の引き付けに当たります。

**何か始める際、何かしようする際に、そのものに関して注意や関心が向いていることがDTTの前提になります。**またこの注意の引き付けに関して強化子を使用することは可能か?という点ですが、どうしても必要な場合や強化子を使用することが適切だと考えられる場合には使用することができます。基本的には呼びかけや、使用するものの提示などで注意を獲得することができるでしょう。

2.弁別刺激の提供

児童の注意を引きつけたら早速DTTの開始です。まずは計画段階で決めたステップ(行動)を引き起こす刺激(弁別刺激)を提示をします。

目標スキル:挨拶 ステップ:こんにちはと言える 刺激:「こんにちは」と声を掛ける(音声刺激) DTT刺激提示の例

3.フィードバック

刺激を提示し、児童の反応を観察したら即座にフィードバックします。反応が正反応、誤反応、無反応の3種類のいずれに該当するのか判断し、それぞれの反応に基づいて結果(フィードバック)を提供します。

正反応の場合 あらかじめ決めた強化子を用いて強化する


誤反応・無反応の場合 ①行動を修正して再度、同じ刺激を提示してトライアルを再開する。 ②プロンプトを使用して正反応を促し、正反応の場合強化する。 ③次のトライアルに移行し、プロンプトレベルを下げ、正反応の場合強化する。

プロンプトを平行して利用している場合には、こちらの記事も是非ご参照ください。

4.社会的強化子への移行

刺激を提示し、反応に対してフィードバックするサイクルを計画段階で定めた分だけ実施します。また計画段階で定めたステップとその達成基準に応じて訓練を繰り返しながらステップアップを試みます。

この繰り返すのサイクルの中で、重要なのは強化子を、好きなおやつ。好きなおもちゃ、といったものから児童の正反応の確率が高まっていくにつれて「すごいね!」、「よくできたね!」などと言った社会的強化子へ移行させていくことです。

社会的強化子によって強化されることは、児童にとって長期的な利益につながります。というのは社会的強化子で強化されるようになれば支援者が意図的に訓練する場合以外の日常生活に関しても強化されうる、つまり学習機会の増大につながるからです。

5.シェーピング

DTTの特徴の一つは、スキル獲得に関する学習に関して未熟な状態から、実用可能な状態まで持っていくまでに短い訓練を沢山繰り返し提供していくことにあります。そのためスキルの習得したての状態では児童の反応を理解できるのは支援者や身近にいる人のみという状況になることがあります。

そのため、繰り返し提供していく過程で正反応をセラピストは理解できる、保護者は理解できる、という状態から一定誰に対しても通じる状態まで持って行いく必要があります。

基本的には最初に目標とした基準で強化子を提供していたところから、徐々に強化子を提供する基準をあげていくことでシェーピングしていくことができます。

発声の例 最初の基準 「とあ」などととらに限りなく近い発声を強化する 次の基準 「とら」と正確に発生できた際にのみ強化する

また、対象スキルの使用に関するプロンプトを減少させることで自立したスキルの使用を目指します。

6.メンテナンストライアル

シェーピングを通じてあるスキルを完璧に習得した後で、次のスキルに取り掛かる際にまずやることは、メンテナンストライアルです。これは完璧に学習した(基準を満たした)スキルが本当に維持されているのか確認するためのものです。

例えば、色の区別に関して緑色の区別を習得した後で、赤色の訓練に入る際にまずは緑色の区別のテストをします。この時、緑色の区別が問題なければそのまま赤色の区別の訓練を開始し、緑色の区別のメンテナンストライアルでまだ完璧に習得できていないことが明らかになった場合には、再度緑色の訓練を再開します。

このようにステップをあげる時や、別の課題に取り組む際には必ず1回か2回メンテナンストライアルを挟み確認することが必要です。

7.弁別トレーニング

**DTTの重要な側面の一つは類似刺激の弁別をステップに分けて教えていくことができる点です。**対象とするスキルが、挨拶をするの場合は「こんにちは」という単語を覚えるだけで一定機能しますが、それが例えば図形の区別や、数字の区別というものになった時、三角と四角、6と8といった類似した刺激を区別して理解する必要があります。

このように類似した刺激を区別して学習していくステップはまず、1つのオブジェクト(図形ならまずは四角、数字ならまずは1など)を設定しそれに対して学習訓練をすることです。

目標:図形の区別 ステップ:四角形の特定 刺激:「四角を指差して」 必要なもの:四角が書いてあるカードのみ 行動:四角いカードを指差す プロンプト:全体身体プロンプト 弁別トレーニングの例

上記の例で、四角形を自立して、弁別刺激をもとに特定できる(四角を指差してと言われた時に、自分で四角の書かれたカードを指差す)ようになった後で、類似した刺激を追加します。

注意する必要があるのは、類似した刺激を提示する際に、これまでの刺激と異なる点が1つのみであるということです。

  • 同じカードに書かれていて図形だけ異なる→○
  • 材質の違うカードに異なる図形、大きさの違うカードに異なる図形、色の違う異なる図形→✖︎

まずは、類似刺激を学習した刺激から離して提示した上で、学習した刺激の再訓練をします。

イラストカードを利用した刺激弁別トレーニングの例

上記画像のような状態で、提示して「四角を指差して」という刺激に対して正しく行動できたら、強化しまた三角の図形を段々と四角形のそばに近づけていきます。

最終的には二つの類似した刺激が横並びになった状態で、「四角を指差して」という刺激に対して正しく行動できる基準を満たせれば、近接した類似刺激の弁別トレーニングは完了です。

次にこの2種類の類似した刺激(三角と四角)の位置交換に関してトレーニングします。隣り合わせになった二つのカードの位置をランダムに並べ替えながら、正しく四角を指差すことができるのか確認します。

ここまでできたら、あとは、上記の近接と位置交換をしながら新しい刺激(○)を追加して区別の幅を広げていくことができます。

刺激弁別獲得後の新しい類似刺激を追加する際の例

ただし、あくまでこの弁別トレーニングは、類似した刺激の中で学習した刺激を区別するための訓練です。そのため追加した刺激(例えば三角)に関しては別途、訓練が必要になります。(三角を三角として特定する)

8.般化

**獲得したスキルを様々な状況下で使えるように般化トレーニングを実施します。**ここで言う般化は、例えば数字の学習の際に、セラピストがカードに書いた文字だけを「1」として認識しているのか、または数字の概念として「1」を理解しているのか、後者の方を指します。カードに書かれた1と人差し指で示された1を両方「1」として認識できるようにすることを刺激の般化と言います。

このような**刺激の般化ができているかどうかは、トライアルによって確かめることができます。**例えば、これまでずっと支援者がカードで四角や三角の概念を教えてきたところ、ブロックでできた四角、三角、丸を提示した時に定めた正反応の基準で区別することができれば、一般化されていると確認することができます。

また、状況に関しても般化の確認をすることが重要です。いつものセラピールームでできるようになってきたら、別のシチュエーション、例えば他の教室やお家でやってみて、正しく行動することができるか確認します。もし状況が変わった際にうまくいかないようであれば、その状況下で再度訓練します。

上記のように複数の刺激や複数の環境下で、スキルが使用できることを確認することは、児童が実生活上で対象のスキルを使用することができると判断する材料になります。

支援の目的が児童の十生活上の困りの減少やQOLの向上であることを考えると、必ずチェックする必要がある部分です。

9.モニタリング

DTTを開始してから、あるスキルの習得が完了するまで一貫して各トライアルごとにデータ収集を行います。データ取集のフォーマットは前回の計画段階で作成したものに記入することができます。実際に対象スキルの学習状況がうまくいっているかどうか、またどのような部分の学習ニーズが高いのかを収集したデータから判断します。

DTTトラブルシューティング

なんだか計画通り進まないなどDTTを実践する上で困った場合には下記のリストをチェックしてみてください。

  • 対象スキルや行動が明確に定義されているか?
  • 対象スキルや行動が計測、観測可能な状態で定義されているか?
  • 対象スキルや行動の前提になっているスキルを児童が保持しているか?
  • 対象となるタスクはきちんと分析されているか?
  • 強化が適切に行われているか?
  • DTTがデータシート通りに実施されているか?弁別刺激や正反応の定義が支援者間で異なっていないか?

DTTでスキルをマスターした後にすべきことリスト

DTTを使用してスキル獲得が可能であることを確認できた後には、下記のリストに取り組む必要があります。

  • メンテナンストライアルの実施
  • 別の状況下での実施
  • 別の大人による実施
  • 別の強化子による実施
  • 別の刺激、合図による実施(四角形を指差して→四角形を取って見せて)

まとめ

今回はDTTの実践に関して紹介させていただきました。小さな単位にスキルや行動を分割して集中しやすい環境下で、とにかく沢山の試行を繰り返し学習していく方法ですが、その場限りのスキルにするのではなく、実生活上で使用することが出来るようになるまでゴールになります。また一旦基準を満たしたと判断した後もメンテナンストライアルを挟み実態を確認していくことが重要です。新しいスキルを習得して欲しいケースの際にはぜひDTTの使用を検討してみてください。